25日のラプソディ~💖【後編】 ★完結★

「……ど、どういうコトだよ、コレは……」


 25日、クリスマスが終了する時間と言われる18時前(諸説アリ)の街中にて――A男・B男・C男は、愕然がくぜんとしていた。


 その理由を、A男が叫ぶ。


――ーー!?」


 なんでってことも無いと思うけど……あいや、確かにおかしい。昨日のイブであれほど邪魔したのに、街ではチラホラとクラスの人間達の姿が見受けられる。ていうかホント目ざとく見つけるよね。どんだけこじらせてんの?


 とにかく、訳が分からず三人組が立ち尽くしていると――彼らの存在に気付いたのか、駆け寄ってくる一組ひとくみ1組いちくみのカップルが。ややこしいなコレ、なんかな。


『あっ……A・B・C三人組!』

『ねえ、ちょっと……!』


 佐藤くんと塩田さんだ――まさか報復でもされるのか、と三人組が身構えると同時に、佐藤くんが発した言葉は。


よ、ありがとな!』


「「「……………は?」」」


 呆気にとられる三人組に、続けて塩田さんと、更に佐藤くんが続けた話は。


『今の時期ってさ、色々と風紀が乱れがちになるから……生活指導の先生とかが、街とか学園周辺とか、見回りしてるんだよネ? わたしたち、知らなかったから……』


『外であんまりイチャイチャして、見つかりでもしたら、どうなってたか……ホント助かったよ。意外と親切なんだな、三人とも!』


『ウンウン♪ イチャイチャするなら家で……ってことだよね……♡』


『塩田さァん……!』

『佐藤くゥん……!』


『アハハ♪』『ウフフ♪』(イチャイチャ)


「アッアッ、チガッ、俺タチ、ソンナ、ツモリジャ……アッ」


 もはや二人の世界に戻った佐藤くんと塩田さんに、三人組の言葉は届いていないようで――そのまま去っていった。


 ◆ ◆ ◆


「どういうコトよっ……私達の戦いは、一体何だったのよッ!」


『……こんなこと言っちゃ、悪いかもしんないけどさ……』


 A子の振り絞った声に応対するのは、2組でも話題のカップル、高野くんと山岡さん。神妙だった二人の表情が――ンフッ、と半笑いになり。


『他人のねたそねみって……』

『ぶっちゃけ、気持ちイイです☆』


「せっ性格ワルッ! 性格ワルーッ!! アアアアア!!!」


『むしろ、おかげさまで気分が盛り上がったくらいッス☆』

『アザッス☆ イブに良いハプニング頂きやしたっ☆』


「「「ウアアアアアアアアア!!!」」」


 叫ぶ三人組は放置し、カップル二人は『アハハ♪』『ウフフ♪』と去っていく。


 残され、三人組を代表し、A子が叫んだのは。


「私達は……私達はアンタらの恋を味わい深くするためのスパイスじゃねえッ!!」


 いや良い風に言うな。


 ……とにかく、狙いを定めたカップルに対しては、そのような塩梅で。

 リア充グループには、元より太刀打ちできていたわけではなく。


 それぞれ別々の場所で行われた、各三人組の戦いは、全くの徒労に終わった――



 ――――――かに思われたが。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「違うっ……」      | 「違うっ……」

「僕らがっ……」     | 「アタシらがっ……」

「求めてたのはッ……」  | 「やりたかったのはよォ~……!」



 その時、まるで壁でも隔てるように、交わらなかった二つの道が。




「「「「「「こういうんじゃなぁぁぁぁぁいっ!!!」」」」」」


「「「「「「……………んっ?」」」」」」




 今―――初めて、一つになった。


 陽が沈むのも早くなってきた真冬の時期、周囲を煌びやかに照らす噴水イルミネーションをバックに、三人の男子と、三人の女子が、向き合い。


 ……互いを認識した両者の内、まずはA男とA子が相手を指さしつつ叫ぶ。


「あ、アンタらっ……確か2組のA・B・C三人組って呼ばれてる、俺らのパクリじゃねーか! そういや昨日、噂で聞いたけど……クラスのカップルの邪魔してるとか何とか……ウワーッ性格ワルーッ!」


「はあああああ!? 私達のパクリのABCはそっちでしょ!? つかそっちこそクラスのカップルに嫌がらせしてるとか聞いたし! 信じらんないわねーっ!」


 その罵り、自分自身にも刺さってんのよ。マイナスとマイナスが積み重なってるだけなんよ。


 さて、続けてB男とB子も睨み合い。


「全く信じられませんね、他人を妬んでも仕方ないというのに……自分に恋人がいないからと他のカップルを邪魔するとは、やれやれ悲しいですよ僕は(眼鏡クイッ)」


「はぁ~~あ? それコッチの台詞だし! 大体アンタ、リア充グループから泣きながら逃げたって聞いたケド? ププーッダサーッ!」


 お前ら切腹しながら体当たりするのが趣味なの?


 更に更に、C男とC子も、そらもう目も当てられないほど醜い罵り合いを――


「えっ? な……なんで、こんなトコに」


「ちょ、それ……こ、こっちの台詞……」


「「「「…………ん?」」」」


 あれ流れ変わってきたぞ?


 一先ず互いにブレイクし、それぞれの仲間内で、事情を聞きだすと――


「は!? C子って子と幼馴染!?」 | 「C男ってのアンタの幼馴染なの!?」


 似たような驚きの声が同時に上がる中、まずはC男が頷きつつ答える。


「あ、ああ……いや2組でC子って呼ばれてんのは知ってたけど、まさかオレ達と似たようなコトしてたなんて、知らなかったっつか。オレ昨日、職質されてたし。……でも、そっか……彼氏とか、いないのか。………っ」


 一方、C子は何やら声を荒げようとする――


「……べっ、別に家が隣同士ってだけで、高校に入ってからずっと会話とかもしてねーし……関係ねーよ! あの野郎、アタイに話しかけようともしねーし――」


「―――あのさ」


「………へっ?」


 ――が、不意に話しかけられ、戸惑うC子――話しかけたのは、C男で。


「オレ、噂でさ……高校に入ってから、キミが誰かと付き合い始めたって聞いて……そんで、ちょっと(本当に小規模に)荒れて……キミにも、話しかけるコトできなくなって――」


「は、はああ!? ンなワケねーだろ、誰がそんな嘘……あ、アタイはずっと、あっその……とにかく恋人なんて、いねーしっ……」


「うん……昨日、オレらと似たようなコトしてたくらいだもんな、分かってる。でもキミは可愛いから、恋人とか出来てもおかしくないって……信じちまったんだ」


「はっ、なっ……か、可愛い、って……そ、そんな……」


「今さらこんなコト言われても、困るかもしれない――けど、聞いてくれ」


 C子に歩み寄り、C男が彼女の手を取りつつ、煌びやかに照らす噴水イルミネーションをバックに――告げた言葉は。




「オレと―――付き合ってください」


「―――――はい♡」




「「「「はいいいぃぃぃぃぃ!!!!?」」」」


 思いがけぬ展開に、A男・B男・A子・B子の雄叫びが重なる。並べると書くの面倒くさいなコイツら。


 が、そんな四人にお構いなしに、C男とC子は――。


「ほ、ホントに? っ……やった! オレ嬉しいよ、聖美さとみちゃん!」

「う、うんっ。わたしも嬉しいっ……今日から、ううん……今からわたし達、恋人同士だね、きよしくんっ♡」


「ウワアァァァァ名前がァ! 名前が生えているウゥゥゥ!!」


「いや別に名前はあったんだよ、普通に。あだ名がC男・C子ってだけで」


 A男が叫ぶも、C男……改め清くんが冷静にツッコむ。


 一方、A子とB子も慌てて、C子を詰める、が。


「待てC子! アンタは嫉妬の女王になれる女だ! 待ってくれ頼む!」

「行くなC子ッ……アタシ達を置いて行くなアアアア!!」


「ふ、ふええっ……二人とも、やめてください……わたし、怖いですぅ……」


「つかアンタつい最近まで〝アタイ〟とか〝ヒャッハァー!〟とか言ってたじゃねーか! 数秒前までのアンタどこ行ったのよ!?」

「オトコ出来たら人格まで変わるんかコエーわ人間て!」


 さて、男女入り乱れた四人が大騒ぎする中――清くんはキリッと表情を引き締めて言う。


「やめなよ。そうやって人を妬んでも、良くなるコトなんて何一つないよ。他人を羨んで足を引っ張るんじゃない……変えるべきなのは、自分自身の心なんだ」


「ウワアアアアめっちゃ腹立つ! クッソ腹立つゥゥゥ!」


「ッ。……そ、そうだよな。オレの言葉なんて、届かないよな……だって、オレ」


 沈痛な面持ちで俯いた清くんが、聖美ちゃんの肩を抱きつつ、放った一言は。


「彼女いない歴0年のヒトだし♪」

「彼氏いない歴0年で~す♡」


「アッオッぶぶブッ殺すぞ貴様らーーーーーーッ!!!」


「人の妬み嫉みって……」

「気持ちいいかもー☆」


「ン「ン「ン「ンアアアアアアア!」ア!」ア!」ア!」


 クリスマスの今この瞬間に、狂騒曲ラプソディ~💖が奏でられた。


 ……だがここで、清くんから、一つの提案が。


「ていうか、せっかくだから、じゃないけど……こうして男女二人ずつ、集まってるんだから……いきなり付き合うとかじゃなくても、仲良くしてみれば?」


「「……えっ?」」 | 「「あっ……」」


 そう言われ、四人は暫し沈黙し――


 そして、A男とB男、A子とB子、それぞれ別々に出した答えは。


「いや俺、清楚系で尽くしてくれて一途なアイドル級にカワイイ女子がイイっつか」

「僕の好み、オタクに優しいギャル一択なんで、ちょっと無理ですね」


――――――――――――――――――――――――――


「いや私、優しくて気が利いて穏やかだけどイザとなると頼りになる少女漫画のヒーローみたいなイケメンじゃないと無理だから」

「アタシ、スポーツ万能で爽やかなヒトじゃないと、ちょっとね~」



「「………………」」


 四人のちょっとアレな答えに、清くんと聖美ちゃんは暫し沈黙し、やがて発したのは。


「「そういうとこだぞ」」



 ―――――かくして、聖夜を巡る戦いは終わった。


 裏切りは少年少女らに、何も与えてくれなかったかもしれない。


 これが顛末で、これが全てである。




 ―――――されど。


 C男とC子を卒業し、名前が生えてきたカップルの聖誕を祝い。


 最後まで独り身で戦い抜いた四人の戦士たちを、労うべく。


 聖夜の締めくくりに、贈るに相応しき言葉は、ただ一つしかあるまい。


 そして、この狂騒曲を見届けた、愛すべきあなた達へも。


 そう―――――即ち。



 🎅 MERRY💖CHRISTMAS 🎄

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クリスマス・ラプソディ~💖 地獄の釜を開け、戦いの鐘を鳴らせ、妬み嫉みは孤独の華ぞ。モテぬ男子×3と女子×3、聖夜を戯れ散りぬるは今! 初美陽一 @hatsumi_youichi

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