24日のラプソディ~💖【中編】

◆ 12月24日・クリスマスイブ~っ💖 ◆


 戦いの始まりだ。いやあえて聖戦と呼ぼう。聖戦の幕開けだ。


 今や夕暮れ時の街はクリスマスムード一色いっしょく。店先には今こそ書き入れ時とばかりに、サンタのコスプレをした店員さんが集客にいそしんでいる。


 それにしてもケーキ屋や玩具屋トイ・ショップなどであればともかく、全く関係の無さそうな家電量販店や飲食店までクリスマスに乗っかろうとしているのは如何なものか。

〝とりあえず置いとけ〟とばかりに、焼き鳥屋の前に鉢植えサイズのクリスマスツリーが置いてあるのも見受けられた。


 乱雑無章らんざつむしょうにも程がある。やはりクリスマス、正さねばなるまい。


 意気込みを新たにした男子共三名、そして別の場所でも女子共三名が、ともがらの顔を見合い、頷く。


 ――― Hereさあ ―――


 ――― Now今こそ ―――


 ――― Let'sゆこう ―――


『始めっぞォ!!』 | 『始めっぞォ!!』

          |

『『応ッ!!!』』 | 『『応ッ!!!』』



 ――― Battle戦いへ ―――



 ◆   ◆   ◆


 街路樹をイルミネーションが煌びやかに飾る、星空よりも彩り豊かな道を、とあるカップル――1組の佐藤くんと塩田さんが、肩の触れ合う距離で並んで歩いていた。


『わぁ……キレイだねっ、佐藤くんっ』


『うん……そう、だね』


『だよねっ。ほら、イルミネーションに照らされて、道も光って見えるよ。樹と樹も照らし合って、ホントにキレイ――』


『いや、ホントにキレイなのは―――塩田さんだよ』


『! ……さ、佐藤くん……』


『塩田さん……』


『佐藤くん……』

『塩田さん……』


 肩で触れ合う距離から、互いに指を絡ませ合い、恋人つなぎ。

 まだ外で、人目があるにも関わらず、感情の高まった二人は。


 互いの唇と唇を、近づけようとした―――――次の瞬間。


「――ウェイウェイウェ~イ! そこのお二人さん何してんのナニ四天王~~!?」


『――うぇっ!? え、キミ達は、うちのクラスの男子……A・B・C三人組?』


 慌てて彼女から顔を離した佐藤くんが戸惑うも、A・B・Cは止まりもせず。


「いやまさかとは思うけど、俺の目にはキスしようとしてたよ~に見えたなァ~!? まさかそんな、こんな道端で、まっさかね~~~!?」


「ありえませんね、信じられませんよ僕は。不純ですよねェ(眼鏡クイッ)」


「いーじゃねェかァ~、オレはアリと思うぜェ~? ほれキスしちゃえよ、ほれラブラブなんだろ~!? ほれ~!」


「「「キースッ! キースッ!」あらよっ!」ホイサッサァ!」


『『ッ…………』』


 やってること小学生のそれなんよ。


 さて、そんなA・B・Cの野次を受け、水を差された佐藤くんと塩田さんは――


「……い、行こう、塩田さんっ」

「そ、そだね、佐藤くんっ……」


 そそくさと、退散していった。


 そんな二人を見送り、三人組は。


「……やったな」

「ええ、やりましたね……」

「これが勝利の味か……」


 そう呟き、そして。


「「「―――行くぞッ!」」」


 次の戦場へ、駆けだして行った。



 ◆   ◆   ◆


『――わ、ワケ分かんないっ。行こっ、高野くんっ』

『う、うん、山岡さん……』


 今また2組で話題のカップルに囃し立て、追い払ったA子・B子・C子の三人が、したり顔で鼻の頭を擦りながら会話する。


「私達の勝利ね……どうということもないわ」


「てかさ~、クラスのヒトだけじゃなく、街中カップルだらけジャ~ン……? ……どする? どする?」


「ケケッ……決まってんだろォ~? アタイはもう、答え出てんぜェ~……!?」


 顔を見合わせた三人が、ニヤリ、口の端を歪めて笑いながら、出した結論は。


「全くの他人様に迷惑かけるのは違うでしょ」


「だよネ。アタシもそれは、ナシ寄りのナシって思う」


「激しく同意」


 まあ要するに、ターゲットはクラスメイトだけ、という話である。


 そんなこんなで、彼女達もまた、次の戦場に身を投じるのだ。


「そんじゃ行くわよ――私達の戦いは、これからだッ!」

「アタシらはまだねたみ始めたばかりなんだかんね、このそねみ坂を!」

「ヒャッハァー! カップル共だァー!!」


 戦いは、続く―――


 ◆ ◆


 それからも、彼ら彼女らの戦いは、互いは知らぬ別々の場所で、続いた。


「ヘイヘ~イ! ナニナニ保健委員のお二人さんマサカ付き合ってんの~!? 聖夜の前夜に性のお勉強会ってか~~~い!?」


『えっ、クラスの、えっと……A男だっけ? な、なんだよ急に……』

『ほ、放っといて、いこっ。構うだけ損よ。ガチで』


「へへへ、また勝っちまったな……あれ、でもなんか、しょっぱくね? コレ、俺の涙じゃね……」


――――――――――――――――


「あ~れれ~? おっかしいぞ~!? 野球部の古田くん、クラスでも見たコトない子と歩いてる~! まさか他校の子~!? い~いのかな~ァ!?」


『えっ、この子、妹なんだけど……つかA子ちゃん、そんなカンジだったんだ……ちょっとイイなって思ってたのに……いこいこ』


「ケェ~ッだったらA子なんてあだ名で呼んでんじゃねーっつの! は~あ、ほ~んと、も~……やっちゃったかな~……」



 勝利とて、時にはすっぱくもあり、苦くもあるのだ。


 ◆ ◆


「ほう、リア充グループでイブにパーティーとは……大したものですね。クリスマスは別名〝性の6時間〟とも呼ばれる時間があるらしく、それ目的のナンパ師などもいるくらいです。それにしても男女入り乱れての前夜祭とは、驚異的な乱れっぷりという他にない(眼鏡クイッ)」


『えっ、ちょっ、アンタB男? ……めっちゃ喋るじゃ~ん! いつも一人ん時ボソボソ喋ってんのに、そんな喋ってんの初めて聞いたわ~!』

『えっマジマジ? ちょっなんか喋ってみてよ~、ほらオモシロイこと~!』

『ンンッ、ヤリマスネェ!』


「アッアッ、ソンッ、ナッアッ……ウ、ウワァァァァン」


 や、やめてやれよ、そういうの……。


 ……やめてよ!!


――――――――――――――――――


「ええ~っサッカー部の田中二郎くん、イケメン女子って有名な栗田さんと付き合ってたんだアタシ知らなかったわ~!(すっとぼけ) ナニナニ、デート? まさかとは思うけど……今からホテル行っちゃったり~!?」


『ほぼイキかけました』

『なぜ妬むんだい? B子ちゃんも普通に恋人でも作ればイイじゃないか』


「でっ出来るなら作っとるわ! う、うっ、……うわぁぁぁぁぁんっ!」


 これが戦というならば、時には一敗地いっぱいちまみれることもあろう。


 ◆ ◆


「オラオラァ~! このオレ様がリア充共を片っ端からブッ潰して……アッ。いえその、別にそういう過激な思想とかは無くってェ……ホント全然、ソンナ……タダソノ、そう若さ、若さユエの衝動ッテェ……イウカァ……」


『うんうん、わかったわかった。学校名は? 生徒手帳は持ってる? まあ今回は職質だし注意だけでね、親御さんとかには連絡しないけど、今後は気をつけなね?』


「ハイ……ホント……スンマセンデシタ……」



――――――――――――――――――


「ヘッヘッヘ、今のアタイは誰にも止めらんねェ~ゼッ! さあ、次はどのカップルを獲物に……アン? こんな裏路地で、ナニしてんだあのカップル……へ? ウソ、ちょ……えっこんな外で、えっキスどころか、そんな、えっ……エッ。……」


 ………………。


「…………ヒ、ヒエェェェェ…………」



 時には、あまりにも大きな力の前に抗えず、膝を屈することもあるかもしれない。


 それでも、彼らは、彼女らは――戦った。戦い続けた。


 そして――――


 ◆ ◆ ◆


『『『ミッションッ……』』』 | 『『『コンプリートッ……!』』』


 街中に蔓延っていたクラスメイト達、めぼしい者はほぼ全員、撃破茶化し終えた――彼ら彼女らが別々の場所で、同様の言葉を呟いたのを、互いは知る由もない。


 A男・B男・C男、ところ変わってA子・B子・C子。

 その誰もが、戦い抜いた、生き抜いた、戦士そのものだった――満足そうな、表情だった。


 もし誰かがこの聖戦の全容を見ていれば。


〝オイ思った以上にしょうもねぇぞコイツら!〟

〝特になんも得るもんないし、なんなら負け越してるんよ……〟


 と、心ない言葉を囁くかもしれない。


 けれど、誰が彼ら彼女らを、笑うことが出来るだろう。


 戦ったのだ。


 戦ったのだ―――戦った者を、戦士を、誰が笑うことが出来ようか。


 こうして若人たちは――いやさ戦士たちは、互いに健闘を称え合い、手を叩き合い、それぞれの帰途へつき、やがて疲れた体を癒すべく、眠りにつくだろう。


 一握りの、満足感と共に。





 ―――けれど、だからこそ、まだ誰も、


 


 その、を―――まだ、―――



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