クリスマス・ラプソディ~💖 地獄の釜を開け、戦いの鐘を鳴らせ、妬み嫉みは孤独の華ぞ。モテぬ男子×3と女子×3、聖夜を戯れ散りぬるは今!

初美陽一

23日のラプソディ~💖【前編】


「反吐が出らぁな」 | 「反吐が出らぁな」




 12月23日の正午、とある私立の学園にて、別々のクラスで別々の男女が、しくも全く同じタイミングで同様の言葉を発したことを、互いは知るよしもない。


 一先ず今は、2年1組にて吹き溜まる三名の男子に注目しよう。


 個々に際立った特徴もないが、入学時からやたらと気が合うのか常に三人組。

 喋るときもなぜか順番に喋りがちなため、A男・B男・C男と、自他共に面白がって呼び合い、呼ばれている。


 基本的には毒にも薬にもならぬ三人、だが終業式を迎えて明日から冬休みというこの日は、何やら様子が違った。


「おいおい、見ろよクラスの様子を……バカップルと噂の佐藤や塩田さんも、男女で仲良しこよしのグループも、なぜか浮かれてますねェ?」


「全く、嘆かわしいですね……不純異性交遊が堂々とまかり通る、こんな時代を嘆かわしく思いますよ僕は(キリッ)」


「仕方ねぇんじゃねぇかァ~? 何しろ、明日からよォ~オ……?」


 そう、12月23日の、次の日とは――即ち、とある形態のライフスタイルを構築している男女にとって、Xエックスデーとなる日。

(※Xデー=なんかこう〝重要なことが起こる日〟とかのことぞ☆)



 そう、カップル共の一大イベント――〝クリスマス💖〟の――前夜イブだ。



 ……とはいえ、そんなことは毎年の行事。いちいち気にしてらんないよね~、と三人の男子は笑い合う。


「……まあ俺達には関係ないけどな~! てか充分だし。俺らだけで楽しめるし。いつも通り三人で遊ぼうぜ~!」


「フッ、僕も同意見ですよ。いつ衰えるかも定かでない愛などより、永遠の友情こそが大事……それこそが真理ですからね(眼鏡クイッ)」


「オレもそう思うぜェ、逆にカノジョとか欲しくねーし! 気ィ遣ったりデートとかでアタマ悩ませたり、そんなん時間の無駄っつか――」


 と、そんな彼らの耳に届く、コソコソ話している(つもり)の男女の声は。


『あ、あのねあのね? クリスマスの日……うち、来ない? その……親とか、出かける予定だから……一人じゃ怖くってぇ……』


『し、塩田さん……そ、それって……!』


『……二人きりになったら、さ……いつもみたいに、名前で呼んでネ♡』


『……塩田さァん……!』


『佐藤くゥん……!』


『アハハ♪』『ウフフ♪』(イチャイチャ)


「「「………………」」」


 虚無の表情で沈黙する、三人の男子が――ぽつり、発したのは。


「……俺、決めたわ」

「奇遇ですね、僕もです」

「オレもオレも」


 ――――――――――――――――――


 1組で男子三人が語らうのと、ほぼ同時刻――

 2組で対話するのは、三名の女子。


 個々に際立った特徴もないが、入学時からやたらと気が合うのか常に三人組。

 喋るときもなぜか順番に喋りがちなため、A子・B子・C子と、自他共に面白がって呼び合い、呼ばれている。


 基本的には毒にも薬にもならぬ三人、だが今この時だけは、浮かれた様子の教室内――特にカップルや、リア充グループと呼ばれる男女数名を見て、苦々しく呟く。


「ちょっと見てよ……サッカー部の田中くんとイケメン女子の栗田さん……何やら明日のデート計画を練ってるみたいねぇ……?」


「仕方ないんじゃな~い……? なんせ明日はクリスマス……まあアタシらには関係ないケド……にしても他の連中まで浮かれちゃってさぁ……?」


「気に入らねェなァ~……? 何ならアタイが、ブッ潰してやろうかァ~……?」


 はやるC子の言葉に、それは早い、とA子が手で制し。


 三人、顔を見合わせ、同時に頷き――発したのは。


「……私、決めたわ」

「偶然じゃん、アタシもよ」

「アタイもだぜェ……?」


――――――――――――――――――――――――


 奇しくも。


 奇しくも、別々のクラスの、別々の男女三人組が、全く同じタイミングで。


 発したのは――――



『クリスマスを――』 | 『クリスマスを――』

           |

『ぶっ潰すッ!!!』 | 『ぶっ潰すッ!!!』



 その内容までもが同じだったことを、互いは知る由もない。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る