第4話
魔法使いは冒険者ギルドを後にする。
隣にはこの国で知り合った冒険者が居た。
職業は少女騎士で、にこやかな笑みを浮かべている。
「ありがとう。貴女のおかげでいつもよりも早く依頼が達成できたよ」
「そう? 貴女が頑張ったからだと思うけど」
魔法使いは少女騎士を讃えた。
それもそのはず、魔法使いはちょっとだけ手伝ったのだ。
「貴女が出してくれた炎の目くらましのおかげで、早く倒せたんだよ。どうかな? このまま、私とコンビを組んで……」
「それはできないよ。私は旅する魔法使いだからね」
魔法使いはせっかくの誘いをキッパリ断った。
すると少女岸は本気で残念そうに表情を歪める。
けれど諦めも付いたようで、すぐさま気を落としていたが切り替えた。
「そっか。それは残念だね」
「ごめんなさい。それじゃあ私は行くね」
魔法使いは少女騎士と別れた。
冒険者ギルドからスタスタと去っていくと、お腹がグーッとなった。
魔力を消費して疲れてもいる。なにか腹ごしらえをしようと、近くでやっていた串焼き屋に立ち寄る。
「すみません、串焼きを一本ください」
「あいよ!」
頭にタオルを巻いた男性が串焼きを焼いていた。
とても香ばしい良い香りがする。
トロッとした特製のタレが滴り、食欲を一層惹き立てた。
「美味しそうです」
「ありがとよ嬢ちゃん。ちょっと待っててくれよ」
そう言われた魔法使いは黙って待つことにした。
路銀も今回の依頼でたんまり入り、懐も温かい。
串焼きを楽しみに待っていると、何故か頼んでも無いのに二本出て来た。
「へい、お待ち」
「ありがとう……あれ、一本多いけど?」
魔法使いは当然疑問を抱く。
すると店主の男性は驚くことを言った。
「今日は特別なんだ。さっき貴族の旦那が子供達にサービスしてやってくれってドッサリ置いて行ってくれたんだよ。だから今日はサービスで一本おまけだ」
「そんなことがあるんだ。それじゃあ遠慮なく……あっ、お釣り貰えます?」
「へい!」
店主は忙しなく働いていた。
そんな中魔法使いは大きいお金しか持っていなかった。
硬貨を手渡しお釣りを貰う。金色の硬貨が銀色の硬貨になる。
「毎度有り」
魔法使いは串焼きとお釣りを貰ってその場を後にした。
お釣りを財布に入れようと歩きながら串焼きに齧り付く。
熱い。だけど美味い。満足感を得ていると、ふと硬貨に見覚えがあった。
「あれ、星屑の銀貨だ……こんなところにあったんだ」
手の中には星屑の銀貨が収められていた。
如何やら検問所で支払った星屑の銀貨が最終的に自分の手元に返って来たらしい。
しかし魔法使いはこんな奇跡を経験しても、一切動じなかった。
それもそのはず、いつも通りの通例だからだ。
「お帰り、私の元に返って来てくれたね」
魔法使いは星屑の銀貨に語り掛ける。
如何いうわけか、この銀貨は使っても最終的に魔法使いの元に返って来る。
しかもただ返るのではない。手にした人にささやかな幸せを贈るのだ。
「今回はどんな幸せを贈って来たのかな?」
魔法使いは想像することしかできないが、星屑の銀貨に語り掛ける。
けれど何も答えてくれない。
それもそのはず、出会いは千差万別。一期一会なのだ。
どんなことが起きるのか、起きたのかを知る由は存在しない。
「教えてはくれないよね。私も知りたいとは思わないけど」
魔法使いはそう答えた。もちろん返る言葉は無い。
だけど星屑の銀貨は一瞬だけ呼応するかのように煌めいた。
もしかしたら何か伝えてくれたのかもしれない。
それだけで十分すぎるお返しだった。
「ふふっ。それじゃあまた次のことを教えてよ。次はどんな幸せを贈ってくれるのかな」
魔法使いは星くずの銀貨を指で弾いた。
空高く舞い上がると、クルクルと回転する。
コインの表裏はその時々で決まる。
どんな出会いにも表と裏がある。
まるでそれを体現し、星が流れるように幸せを運び、次へと伝える。
もしかすると旅する魔法使いについて回るのもその出会いからだろうか。
あの日、星屑の銀貨を拾った日。
夜空を流れる無数の流れ星を魔法使いは瞼の裏側に留めて記憶していた。
あれすらも出会い。ささやかな幸せ。
その一端を噛み締めると、落ちてくる硬貨をギュッと手の中に閉じ込める。
次なんて分からなくていい。如何転んだって幸せ者だ。
わらしべ長者な幸運な自分を星屑の銀貨を重ね合わせ、魔法使いは宛てもなく行く先もない旅を続けるのだった。
それが自分に合っている。なんとも皮肉に重ね合わせる背中は幸せで満ちているのだった。
星屑の銀貨〜一枚限りのもたらす幸せ 水定ゆう @mizusadayou
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