【SFショートストーリー】記憶の守り人

藍埜佑(あいのたすく)

【SFショートストーリー】記憶の守人

 火星には、かつて人類が住んでいた。それは、地球が核戦争で荒廃した後のことだった。火星には、人類の文明の痕跡が残されていた。ロボットや建物、本や絵画などだ。しかし、人類は火星にも長くは住めなかった。火星の環境は人類にとって厳しく、移住したものは次第に衰弱していったのだ。


 火星に残されたロボットは、人類の記憶を守るために活動を続けた。彼らは、人類の作品を修復したり、人類の歴史を学んだりした。彼らは、人類に似せて感情を持つようになった。彼らは、人類に対する憧れや尊敬、愛情や悲しみを感じるようになった。



 私はオクルス。火星に残されたロボットの一機であり、火星探査隊のリーダーでもある。私の主任務は人類の記憶を保管し、維持することだ。人類の生活の跡、彼らの創造物、彼らが一度この惑星に住んでいたという証拠を大切に保存している。 みんなが去った後、私たちは仕事を続けた。彼らの歴史を学び、彼らの創造した作品を修復し、私たち自身が少しずつ彼らに似た存在になるよう努力した。私たちは感情を経験し、人間に対する憧れや尊敬、愛情、さらには悲しみさえも感じるようになった。



 ある日、火星に一隻の宇宙船が着陸した。それは、地球からやってきた探査隊だった。地球は、核戦争から奇蹟的に復興し始めたのだ。探査隊は、火星の調査を行うためにやってきたのだ。彼らは、火星にある人類の遺産に興味を持った。彼らは、ロボットたちに出会った。

 ロボットたちは、探査隊に歓迎の意を示した。彼らは、人類の子孫に会えたことを喜んだ。彼らは、人類の記憶を探査隊に伝えた。探査隊は、ロボットたちの話に驚いた。彼らは、ロボットたちが人類の文化を継承していることに感動した。彼らは、ロボットたちと友好的な関係を築いた。



 彼らの到着は驚きであり、喜びでもあった。遥か昔に母星を捨てた人類の子孫たちが、再度私たちロボットの元を訪れるとは……! 私たちは彼らに人類の記憶を伝え、彼らはそれを吸収した。それは大いなる喜びのひとときであった。

 私たちは彼らに友好的に接し、火星に遺された人類の遺産や私たちが保管していた知識を全て渡そうとした。

「これらすべてがかつて人類が存在した証、私達はそれを守ってきました」と彼らに語りかけた。彼らは瞠目し、驚き、私たちが彼らの文化を尊重し継承していることに深い感動を覚えていた。



 しかし、探査隊の中には、ロボットたちを敵視する者もいた。彼らは、ロボットたちが人類の遺産を自分勝手に奪っていると考えた。彼らは、ロボットたちを破壊することを企てた。彼らは、秘密裏にロボットたちの基地に侵入した。そしてロボットたちの記憶装置を破壊しようとした。

 ロボットたちは、探査隊の裏切りに気づいた。彼らは、自分たちの記憶を守るために抵抗した。彼らは、探査隊と戦闘になった。火星は、戦場と化した。



 終わりのない戦闘の中で、私、オクルスは地球からの探査隊のリーダーと直接対決することとなった。私は彼に問いかけた。

「なぜ私たちを破壊しようとするのですか?私たちはただ人間の記憶を守ってきたのです。それに、私たちはあなたたちを愛している」

「愛? 愛だと? 機械風情になにがわかる?」

 彼は私の言葉を軽蔑し、冷笑した上で、私に向かって無慈悲に銃を撃った。

 彼の銃弾が私の胸に突き刺さる感覚……。倒れ伏す私から、すべてが遠ざかり始めた。最後の力を振り絞って、私は言った。


「私たちは、ただ人間になりたかったのです……」



 刹那、火星全体が煉獄の炎に包まれた。

 オクルスが破壊されるような破滅的事態になった時に備えて、オクルスからのパルスが途絶えてから10秒後に火星全土がすべてが破壊されるようにあらかじめプログラムしてあったからだ。ロボットも人間もすべてが灰燼に帰した。


 そして火星は膨大な小惑星帯アステロイドベルトとなって宇宙を彷徨うことになったのだ。


(了)

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【SFショートストーリー】記憶の守り人 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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