第4夜 ハッピーバースデー

「吉田君」


 改めて、吉田君と視線を合わせる。


「ありがとう」

「いや、そんな。俺、いつも佐藤さんにリードしてもらってるし。誕生日くらいは俺がって思ったんだけど……無理」


 吉田君が消え入るような声を残して、顔を両手で覆った。


「無理って何が?」

「なんか、格好悪いなって。驚かせるどころか、友達に手伝ってもらってるとこ見せちゃったし、本当、俺っていつも……」

「じゃあ、おあいこだね」


 前言撤回。吉田君がここまで恥ずかしい気持ちをさらけ出してくれたのに、私だけ良い顔しているわけにいかない。


「私も、格好悪いところ見せちゃったから」

「え?」

「てっきり、吉田君が浮気してるんだと思って、後つけちゃった」

「え、えぇ!? 俺、そんな風に見えたのっ?」


 案の定、浮気を疑われているとは微塵も思っていなかったらしい。あぁもう、なんでそんなに健気なのかなぁ!


「吉田君は見慣れてるのかもしれないけど、あの山岸君は完全に女の子だよ?」

「そっか……ごめん」

「いやいや、私の方がごめんだって。後つけるとかあり得ないでしょ」

「そうかもしれないけど……でも、そんだけ俺のこと想ってくれたのかなって思うと、嬉しいっていうか……」

「うん。だから、私も嬉しい」

「え?」

「吉田君が私のために、全力で格好悪いことをしてくれたから」


 吉田君がテーブルに突っ伏した。彼にとっては黒歴史になるのかもしれない。

 その様子もちょっと可愛いと思ってしまったのは、ここだけの話。


「……ごめん、忘れて」

「あはは、ムリムリ! だって嬉しいもん」

「そんなぁ」

「明日の誕生日デート」


 私の一言で、吉田君の肩がピクリと動いた。顔を上げ、私を見つめてくる。


「楽しみにしてるよ」

「……うん。頑張る」

「あ、でも無理は禁物だよ?」

「無理は……しない。多分」

「もー何それー!」


 少女漫画のような、キラキラとしたときめきに憧れていた頃もあった。

 だけど今はただ、吉田君が愛おしくて堪らない。一生懸命で、恰好悪い彼が。


 誕生日の前夜にもらったプレゼントで、私はまた一つ幸せになった。




   ***




 夜道を歩きながら、空を眺める。


 満天の星空という言葉を具現化したように、無数の輝きが散りばめられている。街から離れれば容易に星空を拝めるのは、数少ない田舎の良いところだろう。


 恋人たちを祝福するような、綺麗な星空。

 今の二人には、おあつらえ向きだ。


 ふと、スマートフォンの時計を見る。なんの偶然か、その瞬間に0時になった。


「……ハッピーバースデー」


 ぽつりと呟いた声が、微かな白い息と共に溶けて消えた。




 to be continued in "Merry Christmas Eve".




【あとがき】


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

山岸君視点&続編の『メリークリスマスイブ』も、ぜひともご覧になってみてください(*^^*)


『メリークリスマスイブ』

https://kakuyomu.jp/works/16817330668753726770

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ハッピーバースデーイブ 片隅シズカ @katasumi-novel

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