77.二人の魂を宿した愛すべき存在(最終話)
ガブリエルの養い子シュトリは、壊れた魔王城の瓦礫を見上げる。初めて連れてきてもらったが、懐かしさが込み上げた。魔力による保護が働き、この場所は常に同じ状態で保たれている。
「きゅー、きゅ」
「何か気になるのか?」
シュトリの求めに応じ、ガブリエルはピンクの幼子を玉座の前に置いた。嬉しそうに四つ足でぺたぺたと歩くシュトリが、玉座に近づく。だが触れる手前でくるりとこちらへ向き直った。両手を広げ、何かを訴える仕草をする。首を傾げたガブリエルは気づいた。
あの場所は……ナベルス様が最期に立っていた……?
後ろの玉座は、黒い炭が積まれている。ガブリエルが泣きながら集めた、魔王の遺骸だ。壊され崩された炭を丁寧に分け、組み立てるように並べた。椅子に座っている形に仕上げるまで、数年かかっている。
ナベルス陛下が崩御した場所で、シュトリは両手を挙げて誇らしげに天を見上げる。誰かに己の功績を誇るように。後ろ足二本で立ち上がり、やがて元の姿勢に戻った。
こてりと首を傾げるシュトリは、無邪気に走り回る。先ほどの行動が嘘のようだ。何かに乗っ取られたり操られたりしたのでは? と疑うほど表情や雰囲気が違っていた。全く外見の異なる存在なのに、ナベルス様と重なる。そんなはずが……。
見上げた空には誰もおらず、当たり前の事実にガブリエルはほっとした。走ってきたシュトリは前足にしがみつき、背中に乗せてくれとせがむ。魔力で起こした風を使い、首の後ろに巻き上げた。鱗にぺたりと両手を付けて、シュトリは上手に着地する。
「きゅっ!」
「ん? 下へ行くのか」
初めてきた場所が楽しいのだろう。探検気分だと判断し、ガブリエルは下へ降りる。ひらりと滑空した先でシュトリが示す場所に立った。
「……っ」
父である青竜が王を守って倒れた場所。シュトリはなぜ知っている? みたことがない種族なのはなぜだ? この子は誰の……? 疑問が湧いて、すとんと腑に落ちた。
四つ足のトカゲ姿は竜の前身、金の瞳は強者の証。ピンクは……あの人が好きだった花の色。
ぽろりと涙が落ちた。潤んだ視界に、滑り降りてくるピンクのシュトリが映る。頬を擦り寄せ、小さな声で呼んだ。父上、ナベルス様……応えるようにシュトリが鼻を鳴らす。記憶の有無や原理なんてどうでもいい。二人の魂を、シュトリは受け継いだ。
確証も必要なかった。あの二人が戻ってきてくれた、その事実はガブリエルだけが知っていればよい。オレが平和にした世界で、魔族として、二人は生きていく。それだけが大切な現実だった。
「愛しています。父上、ナベルス様。オレのところへ来てくれてありがとう……シュトリ」
「きゅっ!」
鼻先に小さなピンクの手を押し当て、シュトリは幸せそうに目を閉じた。頬を擦り寄せ甘えるこの子を育て上げよう。魔王にならなくてもいい。優しい人が戦う必要のない、心を痛めず暮らせる世界があれば――そこに愛する存在がいれば、あとは何も要らなかった。
かつて、世界と種族を纏め上げた最強の魔王がいた。竜族で唯一の黒い鱗を纏い、水竜の母と火竜の父の間に生まれ、両ツノの魔王に愛され、魔神の庇護を受けて育った。魔神の愛し子と呼ばれた王は、ピンクの養い子と幸せに暮らしたという。
古い伝説を読み聞かせる母は、眠ってしまった娘の髪を撫でた。人族は消え、すべてが魔族の呼称に統一された。この世界に余計な争いや差別はなく、満たされた平和が広がる。その功績を讃える当代の王は、ピンクの外皮を持つ優しい金眼の竜となった。翼を持たない王は亡き先代の墓を守り、今も頂点に君臨している。
終わり
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お付き合いいただき、ありがとうございました。サイトにより明暗が分かれた作品ですが、個人的には好きです(///ω///)ハッピーエンドですよね。シュトリはナベルス様と父竜の生まれ変わりだったのかな? ガブリエルがそう感じただけかもしれません。真実はそれぞれの結末としてお持ちください。
また次の作品でお会いできることを祈りつつ。
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