第10話 おおきなかぶ


「なぁ。『おおきなかぶ』って話、あるじゃん?」

『あるな』

「あれってさ、みんなで『うんとこしょー、どっこいしょー』って、でっかいかぶを抜くじゃん?」

『そうだな』

「知ってたか? アレ、本当はモグラと綱引きしてんだぜ?」

『……は?』

「地中のかぶの先っちょにさ、モグラがいるんだよ」

『うん』

「で、どんどんかぶが抜けそうになるから、モグラたちが必死になって、『うんとこしょー、どっこいしょー』ってやってんの」

『へぇ。だからかぶはなかなか抜けないと』

「そうそう」

『それは――』

「うん。オイラの作り話」

『だよな』

「でもさ、夢ってあるじゃんか」

『それは、寝てる時に見るやつ? それとも、将来を向いて見るやつ?』

「寝てる時に見るやつ」

『あー、じゃあ覚醒してる時の意識っていうより、潜在意識的なやつだ』

「んー。そういう小難しいことは分かんない」

『そっか。お前はそういうヤツだったな。難しいこと言ってごめんな』

「ゆるす」

『ありがとう』

「それでさ、えっと、なんだっけ?」

『夢がどうのこうのっていう』

「ああ、そうだった。夢ってあるじゃんか」

『寝てる時に見るやつね』

「それそれ。それってさ、正夢になるとか言うじゃんか」

『んー。まぁ、あるらしいね。夢で見たことが現実になることも。オレは現実になったことなんてないけど』

「マジ?」

『お前はあんの?』

「ない」

『マジか……。それで?』

「ん? ああ、だからさ? 夢が現実になるなら、オイラの『おおきなかぶ』も現実になれると思うんだよ」

『……は?』

「マサモノガタリ!」

『ホボパクリガタリじゃね?』

「なんでだよ」

『ベースが超有名童話じゃねぇかよ』

「だけどさぁ」

『マサモノガタリにしたいなら、せめてもっと工夫しろよ』

「工夫とは」

『話の中でかぶを引っ張ってもいいけどさ、かぶをみんなで「うんとこしょー」しちゃったら同じ話になっちゃうっていうか』

「全然違うじゃんか。本家『おおきなかぶ』は、かぶ対生物だろ?」

『生物? 動物って言った方がいい気がするけど』

「細かいなぁ」

『ごめん』

「ゆるす」

『ありがとう。それで? お前の「おおきなかぶ」は? かぶ対なんなの? ……あ、モグラか』

「ちがう。モグラ対生物」

『ん? あっそっか。なんか頭の中がごちゃごちゃしてきた』

「まるで地下道におりてみたはいいけど、どこから出ればいいか分からなくなった迷い人みたいだな」

『地下道って。モグラ意識しただろ?』

「バレた?」

『バレバレ。それで? どうしてモグラ対生物になると、かぶ対生物とは違くなるんだ? その辺がよく分からないんだけど』

「仕方ない。説明してやろう」

『よろしくお願いします。先生』

「ゴホン。かぶ対生物はつまり、生物が協力して収穫する、というストーリーである」

『はい』

「対して、モグラ対生物は争いの物語なのである! かぶを引き抜かせたくないモグラと、かぶを引き抜きたい生物との熾烈な!」

『ちょ、タイム』

「ちょ、まつよ」

『今気づいたんだけどさ』

「うん」

『モグラも生物だよね』

「ん?」

『それにさ、かぶだって生物だよね』

「え?」

『つまりはさ、地中で活動可能な生物対、主に地中では活動せず、なおかつかぶを食べる、または活用する動物の争いってことでいいの?』

「……それでいい」

『分かってないでしょ?』

「失礼な!」

『ごめん』

「もうこれ以上はゆるさないからな」

『はい。気をつけます』

「よろしい。まぁ、とにかく。かぶを引っ張ってるところが一緒でも、モグラが地中で『うんとこしょー、どっこいしょー』してるんだからベツモノガタリなの!」

『まぁ、その、ベツモノガタリっていうところは分かった』

「なんだ? なにか不満なのか?」

『ああ、いや、その……どうやってそのベツモノガタリをマサモノガタリにする気なのかなぁって。そこが疑問で』

「そんなの簡単さ」

『どうすんの?』

「本にする」

『まさか、絵本に?』

「いや、ここは文字だけで勝負だ」

『おお、小説か。それならもしかしたら、騙されて手に取って「おおきなかぶによく似たお話だったなぁ」なんて思ってくれる人がいる、かも?』

「ン、ン!」

『すみません、先生。ちなみに、先生のポケットマネーで作って配って広めて現実にする感じですか?』

「商業出版するに決まっている! が、まずは原稿を書かねばだ。とりあえずは、紙に書いてみようと思う」

『なんと、直筆ですか?』

「そして、その貴重な原稿のコピーをとり」

『はい』

「原本は地に埋める」

『はい?』

「モグラにもチェックしてもらわねば」

『ああ、そう』


 それから半年後、人類は滅亡した。

 滅亡から数千年の時が過ぎ、新たなる人類が歴史を刻み始めた。


「それで、あの〝えほん〟は解読できたか?」

『ああ、あの地中に埋まっていた、文字のように見えなくもない絵がぎっしり描かれた本ですね? ようやく解読できました。どうも大昔の有名な童話のようです。モグラと人間やその他動物が、おおきなかぶを仲良く分けたという話でした』



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2000字ピッタリ!ショートSHOW10! 湖ノ上茶屋(コノウエサヤ) @konoue_saya

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