『急がば回れ』とは言いますが

小田舵木

『急がば回れ』とは言いますが

 先人は言った、『急がば回れ』と。

 私は昨日の通勤途中にふと、この言葉を思い出したのだ。

 と、言うのもいつもの通勤経路が通行止めになっていて、余計な回り道をする羽目になり、会社に遅刻しかけたからである。

 

 参ったなあ、なんて早歩きで通勤経路を歩きながら、『急がば回れ』という言葉を反芻していた。

 この言葉は急いでモノをする時、色々と見落としがちなので、あんま焦るな、という意味で私は理解している。

 だが、私は今までの人生において。殆どの状況で急いで道を渡ってきた。私のスタンスはとりあえず突っ込む。『兵は拙速を尊ぶ』式に迅速に行動を起こすタイプなのだ。

 

 んまあ。そのお陰で、要らん目にあってきたのは事実だ。

 最初の会社では関西勤務だったのに、正社員のチケットを見せられ、中国転勤に速攻で同意してしまった。その先でうつの萌芽が始まる事を知らずに。

 次の会社はハローワークで求人票をあまり見ずに応募し。蓋を開けて見れば、とんでもないブラック企業だった。

 その次の会社はハローワークの前で勧誘していた派遣会社の口車に乗せられて行ったら、最低賃金スレスレの給与で残業地獄を味わされた。

 

 この件に対する友人の評は、「小田くんは地雷原に突っ込んでいく」である。

 この評は的を射すぎている。だが、本人は全く気がついていなかった。

 今は思う、もちっと精査して動かんかい、と。だが当時は余裕がなかったのだ。

 『急がば回れ』なんて言葉を思い出す余裕なんぞなかった。

 

                  ◆

 

 私は今やうつ病であり。

 行動を起こすにはそれなりに時間がかかるようになってしまった。

 『兵は拙速を尊ぶ』式は今やない。『石橋を叩き過ぎて石橋を壊す』状態だ。

 私に今、必要なのは。適度な実行力で。『急がば回れ』という言葉を実行出来る余裕である。

 

 言うは易し、行うは難し。

 私は今やチキンボーイに成り果てている。行動を起こす段になると躊躇が襲う。

 仕事探しなんかが良い例だ。求人を精査しすぎて、応募に至らない。

 

 そんな私は今は、ちょっとしたきっかけでアルバイトを始めているが。

 そんな生活は永遠には続かず。いつか、行動を起こす―求人への応募―必要がある。

 限られたタイムリミットの中で。私は『急がば回れ』を実行出来る余裕のある人間になれるだろうか?

 

 焦りがある。

 私には時間がなく。かと言って突っ込んで行く気概もなく。

 ジレンマの中にいる。

 だが、こういう焦るときほど、『急がば回れ』なのである。

 私は拙速な行動をし続け、人生の負け組と化してしまったのだ。

 ところがどっこい。私の眼の前の道は真っ暗であり。回り道は見つかりそうにない…

 

                  ◆


『急がば回れ』先人はいい言葉を残していくものだ。いい言葉だから残ったのだろうが。

 だが、私はその言葉を活かせそうにないのが残念である。

 道を照らすカンテラが欲しい。そして、真っ直ぐな道よりもマシな回り道を見つけたい。

 

 …とか考えてみた出勤前の朝。

 今日こそはあの道が通行止めされてない事を祈りたい。

 じゃないと、会社まで早歩きする羽目になるからね。

 会社にいく事に関しては回り道など必要ないのである。

 人生に関してはそうでもないが。

 

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