社内規定
星雷はやと
社内規定
「……それでは次に、社内規定について確認をさせていただきます」
「はい」
夕暮れ時、高層ビルの一室。俺は真新しいスーツに身を包み、就活の面接を受けている。向かい側に座る面接官たちは、大人数を相手した後だというのに疲労感は見えない。
一通りの面接が終わり手を握りなおすと、緊張により汗をかいていることに気が付いた。
「我が社では社員同士の円滑なコミュニケーションの為、出社する際にニンニク料理を摂取しないようにお願いしています」
「……え。あ、はい」
一流企業の社内規定と聞き思わず身構えた。しかし予想は裏切られ。中央に座る年配の面接官の口から出た、その内容にワンテンポ遅れて返事をした。確かに、ニンニクを使った料理は美味しい。だが食べていない人間にとって、その臭いは耐え難いものがある。
「その理由により、我が社の社員食堂はニンニクを使用した料理は一切ありません」
「そ、そうですか……」
社員食堂までニンニクの使用を禁じ徹底的である。きっと過去にこの会社では、ニンニク料理により問題が発生したに違いない。そうでなければ、社内規定に【出社前にニンニク料理の摂取を禁じる】という項目が出来るわけがないからだ。
ニンニク料理を食べた所為で、クビにはなりたくない。このことは肝に銘じておこう。
「次で最後になります。我が社では健康診断以外に献血を行っています。勿論、強制ではありませんし、無理強いするつもりはありません。可能な限り、参加して頂ければ嬉しいです」
「……あ、はい。大丈夫です。身体は丈夫なので、参加させて頂きます」
先に聞いた話が印象的であった為、その差に驚く。社内規定であるが、個人を尊重してくれる体制も好感が持てる。俺は小さい頃から身体が丈夫だ。問題ないと、頷いた。
「それは良かったです。それでは、明日からよろしくお願いします」
面接官たちは笑い、八重歯が光った。
社内規定 星雷はやと @hosirai-hayato
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます