第24話 紫電
「いや~、俺の見込んだ通り!」
「そりゃどうも」
霊峰ヴェルネータ消失から、早二週間。
俺はいつも通りの閑古鳥が鳴く店内でディセントのおっさんと顔を突き合わせていた。
「俺の上司が今度会いたいって言ってたんだが……どうよ?」
「金次第だ」
「もちろん金は出すぜ、考えといてくれ」
おっさんは含み笑いでいつもの胡散臭そうな顔に戻る。
「それにしても…………」
「何よ、なんか文句あんの?」
おっさんは、なぜかカウンターの店員側に回り込んでいるラトラナに目を向けた。
何か知ってそうな含みを持った視線だ。
「なんだ、知り合いか?」
「知らないわよ、こんなおっさん」
「と、言ってるが?」
「そっちが知らなくても、こっちがお前さんを知ってることは特段おかしいことでもないだろう? なんせ」
「それ以上言ったら殺すわよ?」
「……な、なんせ、こっちは情報屋だからなぁ……ははは」
ラトラナの一睨みを飄々とした態度で躱したディセントのおっさん。
……やっぱラトラナって良いとこのお嬢様とかなのか……?
首突っ込まない方がよさそうだ。
ディセントのおっさんは「こえ~」と呟きながらフードを被り直した。
「んじゃ、今日のとこはここらで退散しとくぜ」
「まいど」
「……余計なお世話かも知れねえけど、まだ店続ける必要あんのか?」
おっさんの言葉にラトラナは首を傾げるが、俺は構わず口を開く。
「残り数十年、やりたいことをやり続けるなら金が要る。稼ぎ切った、なんて状況にはならねえよ」
テオ爺からの借金もあるし。
「さいで。まあ俺としちゃそっちのがありがたい。また来るぜ」
おっさんは、どこからか取り出した肉食獣の頭蓋骨を片手で振り回しながら店を出る。
うわぁ……バレてんなあれ……。
裏の仕事がとてつもなくやり辛くなったことを悟りながら振り返れば、ラトラナが不機嫌そうに腕を組んでいる。
「……どうした?」
「……あんたさ、『紫電』って知ってる?」
「し、紫電?」
それは今、メギスト王都で双星と同じように有名になっている冒険者の新星だ。
まぁ当然……知っている。
「あんたが依頼した双星とおんなじくらい勢いのある新人なんだけど……」
「そいつがどうした?」
「いや……ただ、くっっっっっっそ生意気ってだけ。今日も」
「——我がどうかしたか?」
カラン。
ドアベルを鳴らして入店してきたのは、紫の少女。
天葬の紫、その人である。
「しっ、紫電!? あんたどうしてここにっ」
「ここが我の住処だからだ。主よ、今週の稼ぎだ、受け取れ」
「いやだから全額じゃなくていいって言ってるだろ。ていうか先週で対価分は受け取ってるから……もう自由に生きればいい」
「ではこれが我の生き方だ。受け取れ」
「ちょっ、アスタ! あんたこの子っ」
「ノーコメント」
「っざけんじゃないわよ!」
ここから小一時間、俺はラトラナに問い詰められ、果てに天葬の紫はヴェルヘムの知り合いの娘ということで落ち着いた。
夜。
俺はやはり、物を売る。
「剣が戦闘中に折れてしまって……」
「ほうほうほう……それは災難でしたね。では」
俺が取り出すのは、一振りの剣。
何の変哲もないその剣は、製作費金貨一枚。
だが、
「こちらをご覧ください」
——ドゴンッ!
近場の大岩を砕き、そしてその刀身を見せつける。
「いかがでしょうか。大岩をも砕くこちらの名匠の剣」
「お、おお!」
名匠の剣などではなく、俺が錬成しただけの物だ。
砕いたのはこの剣の出来ではなく、俺の魔力操作によって起きた現象。
まぁ、そんなことは関係ない。
金になるなら、なんでもいいのだ。
「白金貨一枚でお譲りしましょう……さぁ、如何しますか?」
―――――――――――――
二章終了と書きたいこと書いたので、また書きたいことが出来たら再開すると思います。
いったん完結扱いにします。
霊薬の運び屋~魔窟の王は秘宝を売り捌く~ Sty @sty72
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