第6話 ドア男、ドア生を満喫する
あれから数日。
デュラハンの手配したリフォーム業者が、ダンジョンにやってきた。
俺は、どうなったかって?
……ええ、ただいま、筋骨隆々なオーガ二人に抱えられております。
「よいしょっと。設置箇所はここでいいですかい?」
「ああ、そこで頼む」
オーガたちは俺をずしんと床に下ろし、ちょうど良いサイズにくり抜かれた壁にきっちり嵌めた。
(おお、ぴったり)
俺がギィギィ言うと、オーガは俺を揺さぶる。
(ぐえぇ、酔う、酔うから)
「しかし、いいんですかい、サイクロプスの旦那ぁ? 協会からは、立て付けのいい扉に交換するぐらいの予算はいただいてますぜ?」
「いや、オレはこれがいいんだよ。他の家具も、前の部屋と同じ配置で頼むぞ」
「あいあいさー」
オーガたちは俺に留め金を取り付けていく。
(いてっ! おい、丁重に扱えよ)
思わず文句を言うと、オーガはまた俺を揺さぶった。
「ぬわははは、やっぱりこのギィギィ音がなくちゃ始まらねえよなあ」
(サイクロプス……。俺を新しい部屋に連れてきてくれて、ありがとな)
「なあ、扉。いつもオレの話し相手になってくれて、ありがとな」
(えっ? お前……気付いてたのか?)
俺はびっくりして、大きな音を出す。
オーガが不服そうな顔で俺を見たが、サイクロプスが手を振ると、別の作業に向かっていった。
「ぬわはは、ギィギィいうばかりで何言ってるかはちっとも分かんねえや。けど、オレの言葉に反応してくれるだろ、いつも」
(分からんのかーい。まあ、そりゃそうか、ギィギィ言ってるだけだもんな)
「最初は居眠りの邪魔だと思ってたが、なんだかんだ賑やかで楽しいんだぜ。小ボス部屋に連れてきちまって、悪かったな」
(良いってことよ。俺もお前のこと、嫌いじゃないぜ)
「これからもよろしくな、相棒」
(ああ、よろしく、相棒)
サイクロプスは、俺の手……いや、ドアノブをガシッと掴んだ。
掴み返すことはできないけれど、精一杯の友情を込めて、サイクロプスを見つめる。
「あるじー、そこに突っ立ってると邪魔ー」
「す、すまん」
掃除用具を抱えたハーピーに邪魔者にされ、サイクロプスは玉座へとぼとぼ歩いていった。
そして、そのままどっかりと腰を下ろす。
「あっ、旦那ぁ、その椅子ペンキ塗りたてですぜ」
「なっ、なにぃー!?」
慌てて立ち上がったサイクロプスのお尻が、灰色に染まっていた。
石かと思ったら、灰色のペンキを塗っていたらしい。何その無駄仕様。
「あはは、あるじー、灰色おしりー」
「プルンプルン、ポヨンポヨン」
(ぷっ、あはははは)
新しい小ボスの小部屋には、モンスターたちの笑い声と、楽しそうに軋む扉の音が響き渡っていたのだった。
〈了〉
転生したらドアだったんだが 矢口愛留 @ido_yaguchi
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