最高のスローライフ
トッカータ村は朝から晩まで大宴会を行っていた。
村人たちが途切れる事無く、ダリアとジャン、そしてロベールに話しかけていた。
「長い旅じゃったのぅ。なかなか帰ってこなくて心配したぞ」
「本当にお疲れ様! ダリアったら素敵な髪飾りを付けているのね」
ダリアたちの旅は、予定よりもずっと長かった。
スローライフを阻む禁忌の魔術について情報を得るために、フォルテ街に行った。そこで髪飾りの店を営む少女と出会い、禁忌の魔術を掛けられた母親を助ける事につながった。髪飾りはこの時にもらったものだ。
その後も神龍使いと戦ったり、禁忌の魔術を扱う黒幕たちと戦った。
常人なら生き延びていない旅路を踏破したのだ。
旅路を終えた後で、カルマとアムールとはフォルテ街で別れた。二人の活躍は大きかった。
村人たちに、ダリアは優雅に微笑んで御礼を言っていたが、ジャンとロベールは戸惑っていた。
「ぼ、僕は大した事をしてないよ!」
「ご迷惑をお掛けしてばかりでした」
ジャンとロベールは本音を言っただけだ。
しかし、ダリアはいたずらっぽく微笑む。
「あらあら、ご謙遜を。お二人とも素晴らしい活躍でしたわ」
「そんな事ないよ!」
「僕なんて本気でご迷惑をお掛けしただけでした」
ジャンは首をブンブンと横に振り、ロベールは気まずそうに視線をそらす。
ダリアは二人の背中を同時に押した。
「お二人とも本当によく頑張りましたわ。私が認めるのです。自信をお持ちなさい!」
「あ、ありがとう。ダリアに言われると嬉しいよ」
ジャンは顔を真っ赤にして、照れくさそうに頭をかいていた。
ロベールは俯いて声を震わせる。
「過分なご評価を賜り光栄なのですが、僕が皆様を殺そうとした事実は消えません」
辺りが静まり返る。
村人たちは互いに顔を見合わせた。何が起こったのか気になっているが、聞き出せないだろう。
ダリアはロベールに微笑み掛けた。
「そうですわね。その事は確かに大迷惑でしたわ。ですが、あなたはそれまで人を傷つけないように必死に耐えていました」
ロベールは何も言えず、肩を震わせる。
ジャンはロベールをそっと抱きしめた。
「君は強い子だ。大丈夫、僕たちが一緒だよ」
「そうだぞ、よく分からないが俺もついている! もう一杯!」
唐突に村長のガイが大笑いをした。酒臭い息を惜しみなく吐き出して、並々と酒の入った大きなコップを片手に胸を張っていた。
ジャンは呆れ顔になった。
「父さんったら酔っちゃったんだね」
「そんな事ないぞ、まだまだいける! おまえも大丈夫だ!」
ガイはロベールの肩を力強く叩く。
ロベールは顔を上げて笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。なんだか救われます」
「おぅよ! 明日からしっかり畑仕事をしてもらうから大丈夫だ!」
ガイの言う事は支離滅裂であったが、ロベールのツボにはまったらしい。
声を出して笑っていた。
ダリアとジャンも釣られて笑っていた。大切な仲間たちが、みんなが、幸せそうな笑顔を浮かべている。ダリアにとって、このうえない幸せだ。
もう死に戻り前の生活に戻る事はないだろう。
ダリアは月を見上げて両手を広げた。
「本当に、最高のスローライフですわ!」
死に戻り先を見失った傾国の魔女はスローライフを満喫するために無双する 今晩葉ミチル @konmitiru123
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