第 1 話
「ねぇ、そこの君。今暇?」
後ろから声をかけられた。誰だろう。綺麗な人だな。やだなぁ、自殺する前に人に会うとか。
「君さ、今死のうとしてたでしょ?あたり?」
体がビクッとする。
「そうですね、死のうとしてました。
…あの、邪魔なので早く視界から消えてくだい。」
父は物心ついた頃からおらず、母と2人で暮らしていた。
いつだか母が再婚して年の離れた妹弟が生まれたのだが、その再婚相手が随分とクズで、すぐさま離婚。だから今は母と僕と妹弟だけだ。親族もこんな片田舎にいるわけもなく周りに味方はいなかった。 そんな母に、僕は虐待されていた。殴られたり、蹴られたり、罵声を浴びせられたり、人々が思い描く虐待とさして変わりのないものだ。
誰にも助けてもらえず、誰にも愛してもらえず、そんな日々。うんざりだ。加えて母は、まだ小さい妹弟にすらも虐待するようなゴミだ。
妹弟を守りたくても怖くて僕は何もできなかった。
死にたかった。限界だったんだ。それで、近くに丁度良い高さのビルがあったから飛び降りればいっかと思った。
8月19日24時18分。獅子座がよく見える。
「ねぇ君、死ぬぐらいならさ、私と一緒にどこか逃げちゃおうよ。」
女の人は、虚ろな目で、ニコッと可愛らしく笑ってそう言った。
「え?」
この人が何を言っているのか、理解が追い付かないゆえに出た言葉じゃない。てっきり自殺を止められると思っていたからだ。かといって肯定された訳でもない。だから、少し混乱した。
「私もね、自殺したかったの。だけど、途端に怖くなっちゃってさー。だから、いっそのこと逃げちゃおうって思ったの。」
あぁそうか、この人も一緒なのか。この人も僕と同じ目的でここに来たのか。
逃げ出す、そうか、逃げ出したら母さんに殴られなくて済むのか、死ななくて済むのか。今まで考えもしなかった。
「…良いですけど、どこに逃げるんですか?」
「んー、特には決めてないかな。どこでもいいかな、逃げれるなら。」
「マジすか。」
「マジだよ。ってことで明日の今頃またここ集合ね。忘れないでよ」
そう言って彼女は帰ってしまった。まだ名前すら聞いてないのに、自由な人だなぁ。でも、そっか、もう辛い思いをしなくていいのか。そう思うと自然に涙が溢れてくる。妹弟のことも、学校のことも、自分を縛る何もかもがどうでも良くなって、スキップをしながら家に帰り、母が寝てる間に必要最低限の物をリュックに詰め込んで、そのまま家を飛び出た。
1分1秒すらも惜しかった。
駆けて、駆けて、先程のビルの屋上まで駆けた。ドアを思い切り開けると、そこには先程の女性が1人ぽつんと座り込んでいた。
彼女は僕に気付いて振り向くと、いたずらに微笑んだ。
「ありゃ、君もこんなに早く来たの?」
「すみません。居ても立っても居られなくて。」
「まぁー良いよ良いよ。とりまさ、2人で星でも見てよーよ。今日は一段と綺麗だよ。」
そう言って彼女は寝転がって空を見つめ出した。
僕は彼女の隣に座り込んだ。
暫くの沈黙。あーもう、こういう沈黙は気まずいから嫌なんだよ。僕は耐えかねて、ずっと気になっていたことを質問してみた。
「あの、名前教えてもらえませんか?」
「私?
「
見上げた夜空に獅子座が明るく輝いている。
確か8月19日の星言葉は、
"夢と恋と成功と失敗"。
ラサラスに願を籠めて。 Rz @Aliko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ラサラスに願を籠めて。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます