第6話
お昼。私は社員食堂で弁当を食べていた。
テレビではニュースをやっている。
――うんっ。
流れてきたニュース。
バスが反対車線をはみ出して来た大型トラックと正面衝突をした。
バスとトラックともに大破し、特にバスはひどかった。
すごいスピードでぶつかったようだ。
トラックの運転手は死亡。
そしてバスの運転手と乗客の数人が命を落とした。残りの乗客も怪我をしたようだ。
画面にはバスとトラックの映像が流れている。
見ていて私は気づいた。
あれは私が乗るはずだったバスだということに。
私は佐竹さんに助けられたのだ。
嬉しい。よかった。
でも疑問がのこる。
佐竹さんは何故、あのバスが事故に巻き込まれるとわかったのか。
仕事が終わり、マンションに着いた。
早速佐竹さんを訪ねた。お礼も言いたいし、聞きたいこともある。
「はい、どちら様」
出てきたのは佐竹さんではなかった。
若い、私と同じくらいの女性だった。
「あのう、佐竹さんはいますか」
「佐竹。ああ父ですか」
「えっ、あなたは佐竹さんの娘さんですか」
「ええ。それで、父にどんな御用ですか」
「実は私、あなたのお父さんに助けられて。どうしてもお礼が言いたくて」
そう言うと、佐竹の娘は小さく笑った。
「あなたもですか。うちの父はいつもいつも困った人を助けてばかりで、お礼を言いに来た人の数は数えきれないくらいなんですよ。人がいいにもほどがあるわ」
私は佐竹さんの笑顔を頭に浮かべた。
なるほど。あの人は私だけではなく、いろんな人を助けていたのだ。
「で、ぜひともお礼がいいたいんです。佐竹さんはどこですか」
すると娘の顔が曇った。
そして言った。
「亡くなりました。私の家に遊びに来た時に心臓の発作で」
――ええっ!
死んだ。今朝私の手を力強く引いた佐竹さんが。
信じられない。
なんてこと。
激しい動揺の中、私はふと違和感を覚えた。
今朝は生きていた。
するとその後死んだと言うことになる。
それなら娘は何故ここにいるのか。
それも普段着で。
葬式とかお通夜とかはどうなっているのだ。
「あのう、いつお亡くなりになりましたか?」
娘が答える。
「一週間ほど前ですね。ほんとうにいい父親でした」
すると私が今朝会った時には、もう死んでいたのだ。
佐竹さんは死んでいるにもかかわらず、私を助けたのだ。
私は手土産を落とし、その場で号泣した。
終
狙われた女 ツヨシ @kunkunkonkon
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