第31話 エルフの食事と違和感


「レオ様、お食事のお時間でございます」


 ベッドで眠ってしまったレオはティアラに揺さぶられて目を覚ました。ティアラは笑顔を浮かべることなく、淡々とレオの身の回りの世話をする。


「ありがとう」


「いえ、仕事ですから。お食事は王女陛下と食堂でとっていただきます。こちらへ」


「はい」


 レオはティアラにタイを治されてドキドキしつつも、ピリッとした空気にいささか心を痛めた。エルフと人間は古い契約のために仲良くなることは許されない。非常に合理的な取り決めではあるが、平和ボケした国で生まれたレオにとっては理解できなかった。


 部屋を出て大階段を降りると、広い食堂へと案内された。長い木のテーブルには白いクロスが敷かれ、レオとルピアはその両端に用意された椅子に座った。レオからみて向かい側に座るルピアの顔がぼやけるほど長い木のテーブル。

 料理は洋風で野菜のスープと小さなパン。


「ごめんなさいね、エルフ族はお肉を食べないの。いいえ、お肉だけじゃなくあまり物を食べないわ。人間用に用意してみたのだけれど食べられるかしら?」


「ありがとうございます。いただきます」


 レオがスープを口にすると、ほんの少しの塩味があるだけで素材の甘さを生かしたものになっていた。美味しいとは言えないが、食べられなくはない代物だった。パンの方はビスケットのように硬かったが、スープにつけて食べるとちょうど良くほぐれ口の中でとろりと溶ける。


「お口にあったようでよかった」


 ルピアはそういうと、ただ食べているレオを眺め目の前の食事には手をつけなかった。


「ルピア様、以前は……」


 ティアラが何か言いかけた時、ルピアが手をそっと彼女の方に向けて黙るように圧をかけた。


「ティアラ、言ったでしょう? 彼は初めてここにくるのよ」


 ティアラは申し訳ございません。と頭を下げるとトレイを持って後ろへと下がった。レオはやはり転生前にここに訪れていたことを確信したが、どうしてルピアがそのことを隠そうとするのか理解ができなかった。


「エルフの都はどう?」


「とてもきれいな場所だと思いました。花や木々……」


「ふふふ、そう」


 ルピアは含みのある笑みでそういうとぶどう酒に口をつける。


(やはり、俺は一度ここに来ているんだろう。けれど、どうして思い出せない? 王女様は会っていないようなそんなふりをする?)


「明日、あなたにみてもらう魔法石のこと少しお話ししてもいいかしら?」


「お願いします」


「結論を申し上げると、母体となる魔法石の魔力が弱まっているの。それが魔女によるものなのか魔法石自体の寿命なのかはわかりません。我々エルフ族が長年守り続けてきた中でも初めての出来事なのです。そこで、あなたの回復魔法を魔法石に当ててほしいと」


「やってみます」


「ありがとう。詳しい話は……魔法石の近くに言ってから話しましょう。ここでは耳が多すぎるわ」


 ルピアは静かに微笑むともう一度ぶどう酒に口をつけた。レオは違和感を感じていた。やはり、魔法石を直してほしいという以外にも何かあるようだと胸がざわめいていて、食事の味すらわからなくなっていた。


(もしかしたら、俺がこの世界に飛んできた理由がそこにあるのかもしれない)


 レオの中で着実に答えに近づいているような気がして体が震えた。自分はどうしてこの世界にやってきたのか、レオ・キルマージュという人間はどこへ消えたのか。しかし、その真実を知ってしまったら自分はどうなってしまうのだろうと恐怖を感じているのも事実である。


「貴方もとても優しいのね」


 ——ルピアの言葉はやはりおかしい。


 彼女は、転生前のレオに会っていて何か知っているのだ。


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