第30話 エルフの王女 ルピア
「ルピア様、お連れしました」
「ありがとう、門番。下がってよろしい」
エルフの都、王宮と呼ばれる建物は唯一の石造の宮殿だった。と言っても豪華なものではなくどちらかと言えば古い遺跡のような雰囲気である。
王女の間と呼ばれる場所にやってきたレオは、世にも美しいエルフと対峙している。
「このエルフの都を治める王女・ルピアと申します。貴方とお会いするのは初めてね」
彼女はふわふわした白いドレスに繊細な銀細工の王冠を身につけている。
ルピアは、見た目は幼いがレオの数百倍も生きていると釘を刺したあと、レオの手を握って手の甲にキスをした。エルフ式の挨拶、レオは緊張しつつも手の甲がじんわりと不思議な魔力で温かくなるのを感じる。
「レオ・キルマージュと申します。この度は任務の……」
「よろしい。任務については今からお伝えします。ティアラ、あれを持ってきて」
ルピアの王座の横に立っていたメイドらしきエルフがレオの前に羊皮紙を広げた。そこには小さな泉の中に沈む魔法石が描かれていた。レオが見た中でも一番大きな魔法石だった。
「これは、この大陸のエルフの都が保持する魔法石です。この魔法石はいわばこの大陸の魔法石全てを統べる母体となるもの。各大陸に一つずつ、エルフが守るために保持しているものになります」
ルピアはそういうと手に持っていた小さな魔法石をレオに手渡した。
「これは……?」
「それを持っていればいつでも私とお話しできるでしょう。貴方にはきっと必要になるわ」
「ありがとうございます」
「いいの。では本題よ。このエルフの魔法石の様子がおかしいの。その調査をしてほしいのよ」
「ですが、それをどうして僕に?」
「契約のせいよ」
ルピアはしょんぼりとした表情でそういうとティアラに目で合図して目の前の羊皮紙を片付けさせた。
「契約?」
「えぇ、この魔法石をエルフの都が管理する代わりに悪用しないようにエルフは近寄れない魔法をかけてあるの。これは、魔法石の悪用や暴走を防ぐために我々エルフと人間が古から守ってきた契約なの」
大陸ごとに女神から与えられた母体となる魔法石は悪用すれば全ての魔法石のリンクを使って洗脳をしたり魔力を吸い取ったりすることもできる代物である。そのため、魔女に争うものとして同盟を結んだエルフと人間はこの魔法石を魔女に魅入られた者たちに奪われないために契約を交わしたそうだ。
「エルフが守り、人間が管理する。ごめんなさいね、人間がむやみやたらにこの都に近寄らないようにエルフたちには人間と仲良くならないようにおふれを出しているのよ。ここにくるまでの間に嫌な思いをしたでしょう?」
「いえ、そのような契約の話……はじめてで」
後ろにいたティアラが少し驚いたようにリアクションを取ったがルピアが小さく首を振った。
そのようすをみてレオは自分がエルフに関する記憶を無くしていることをあたらめて認識した。
(けれど、初めましてって……いったよな?)
「えぇ、この話はお互いの国の中でも上層部しか知らないことでしょうから仕方がありませんね」
「あのルピア様。どうして僕が? 我が国には勇者がおります。彼であれば……」
レオがそう言いかけた時、ルピアは微笑んだまま首をゆっくりと横に振った。そして自らの唇に人差し指を当てて「やめなさい」とジェスチャーをする。
「自分を卑下するのはおやめなさいな。貴方は素晴らしい能力と経験を持つ騎士。そうでしょう?」
「回復魔法……ですか?」
「えぇ、この大陸で……いえ、この世界中で貴方1人だけが持つその力を使って魔法石の異常を治していただきたいのです。あなたは選ばれし人。2度と、自分を卑下するようなことを口になさらないで」
「はい、かしこまりました」
「よろしい。ティアラ。レオさんをお部屋に案内して差し上げて。レオさん、今夜は宮殿でゆっくりしてくださいね。エルフの都は貴方を心より歓迎します」
「レオ様、こちらへ」
レオはティアラに促されて立ちあがると王女の間をあとにした。ルピアの少女の姿なのに妖艶な微笑みと、なにか含んだような物言いが心に引っかかっていたものの考えてもわからないことはわからないのでレオは一度忘れることにした。
「お食事は王女様がご一緒したいとのことですのでお時間になったら参りますね。それまではこちらでお休みになってください。宮殿内には人間になれないエルフもおりますのでできればお部屋から出ないでいただけると」
「わかりました、ありがとう」
ティアラはお辞儀をすると部屋のドアを開けた。中は遺跡のような見た目とは相反して高級感たっぷりのベッドルームだった。
木でできたベッドにふかふかの布団、木製の家具はところどころ水晶が嵌め込まれいたり、銀色の水差しとワイングラスにはたっぷりのぶどう酒が入っている。
レオは久々のベッドに横になり、目を閉じた。
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