第五週~第六週② キラリと光る原石。


 熱狂度として★5が最高です。


「Code:07_Depression」作者:屑木 夢平 ★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330669461924499 )


・サイバーパンク世界で最底辺の街、ボトム。そこへと落とされた娼婦のリサはクラッカーのトオルとともに最悪の世界に反撃する――――リサとトオル、ふたりの主人公の人生は読んでいて辛いし、鬱屈した気分になりますが、そのふたりを主人公に据えたことでドラマを立体的にしています。また鬱もこの作品のキーワードです。たしかリリー・フランキーが「鬱は大人の嗜みですよ。それくらいの感性を持ってる人じゃないと、俺は友達になりたくない」と言っていたことを思い出します。真に現代的なサイバーパンク作品と言えるのではないでしょうか。



「空転衛星」作者:木目ソウ ★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330669158509889 )


・姉妹の人型機械のロードムービーとでも言いましょうか。ふたりの関係性だけに焦点を絞った作品として読みました。背景に世界は広がっているのですが、それをはっきりと見せて欲しかったというのが本音です。ただ物語を書こうという意志は強く感じたので推します。



「みらいのふくのみらい」作者:阿下潮 ★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330669236806819 )


・未来世界において服を脱構築する試みと読みました。つまり、服を構成する要素とは何なのかという問いを作者が徹底的に立てた作品だろうと思います。ただ第一話と第二話、第三話の、視点と題材の距離の取り方が各話で変わったりするので強くは推せませんでした。それぞれの話のあいだで統一感ある作品であれば良かったと思います。ただヴィジョンに描き方にはひとつ秀でるものがありました。



「ちあはん皿皿」作者:紅灯空呼 ★★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330669260070218 )


・十三不塔さんの軽快さを持ったSFというよりヒューマンドラマといった感じです。時は30XX年、火星の炒飯店という設定で、火星一の炒飯店にその店が成り上がるまでのお話です。話の軽妙さだけで物語が展開する点は惹かれるものがあります。SFではないとはっきりと分かっているのに、小説の面白さだけで読めてしまう作品ですね、く、くやしい。はっきりこの作品を推そうと思ったのは読んでからしばらくしてからのことなので、少しずつ腹に効いてくる作品です。



「アニマグラファー 〜リホとモケのスタートライン〜」作者:鳥辺野九 ★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330669778912303 )


・大陸横断鉄道に乗り合わせた人とヤモリ人間(?)の物語です。即興の小説とは思えない世界観の作り込みが良くて推します。またカメラマンであるヤモリ人間モケのキャラクターが素敵です。ぜひともいっしょに遠くて不思議な鉄道の旅に出かけましょう。



「いじめられロボット」作者:水涸 木犀 ★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817139557477134948 )


・いじめられっ子のぼくはその代わりになってくれる「いじめられロボット」を導入してみるという、ちょっと不思議で変なストーリーです。ただストーリーが子どもにも分かりやすく、すっと分かる安心設計なお話になっています。子どもを思う親の気持ちに感情移入してしまうと堪らない話ですね。



「帰巣本能」作者:佐久村志央 ★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16818023211698619251 )


・みなさんのクローゼットや引き出しに眠る、あの存在。が帰りたがっているという設定です。もう不思議を通り越しています。ただ面白いのだから仕方が無いです。人を越えて、無生物にも帰巣本能があるとしたら……視点は見事にSFしてます!



「保護カラテカ」作者:三宅 蘭二朗 ★★★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330669621750089 )


・大人になってしまった夫婦、子どもを持つには年を取り過ぎてしまったので、保護カラテカを飼おうというお話に。もう何だか分かりません。保護猫、保護犬、保護カラテカがいる世界なんですかね。保護カラテカは「チャタンヤラクーサンクーッ!」という鳴き声なんですね。分かりませんが、こういうお話はリアリティラインがおかしいと一気に面白くなくなるものです。ですが、絶妙なリアリティラインで可笑しいです。



「涅槃」作者:JUGULARRHAGE ★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330666953357130 )


・妹を病院から連れ出すというお話のようですが、内容やストーリーという魅力よりも執拗に美しいものを描きたいという執念のようなものを強く感じました。結末に騙される、そういう作品でもありますね。



「出口のない100円ショップで、キレイなおねーさんと出会う話」作者:紙月三角 ★★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330660754712866 )


・これ、見逃してしまうような作品でした。なぜかというとあの有名な100円ショップで綺麗なおねーさんと出会うという、それだけのプロットなんですね。ただ序盤で、何を買うのか忘れてしまうというフックがあるだけなんです。一度読んでからこれは何の話だったのか、よくわからない……と思ったのが本当のところなんですが、これ、面白いのは100円ショップがミステリーやSFのクローズドサークルになっているという点なんです。外部と隔絶された特殊空間です。そこでトイレがなくてサバイブしたり、一時間以上滞在したり、不思議なSFの面白さが詰まっている、そんな作品でした。見逃してしまいそうな日常の不思議を体験してみてください。



「番号のない戦闘人形少女は、人類救済の鍵となるか」作者:一式鍵 ★★★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330669790623544 )


・人類滅亡の危機、地球と月に分かれた人類、自律型戦闘人形オートボーグドール……ライトノベル的なSFの面白さがギュッと濃縮された原液のような作品です。長編の一節のような重厚でありながらキレのある描写が読んでいて楽しかったです。登場する戦闘人形少女WLTワルト-00xノーナンバーという1から12まである自律型戦闘人形WLTシリーズの13番目であり、そのプロトタイプという設定、ここに燃えない男の子はいないと思います。面白かったです。



「褪せぬ乙女は硝子の棺に」作者:祇光瞭咲 ★★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16818023211708753607 )


・最終戦争後のポストアポカリプス世界を舞台に、教会に眠る少女の遺体が突然目覚めるという謎めいた始まりです。ゴシック的イメージを想起させる設定やポストアポカリプス世界においても教会という権威が存在するという中世的ともいえるイメージは読んでいて楽しく、その少女の復活の意味とは、世界の再生とは、などなど考察も捗るというような設定が好きな読者向けの作品とも言えそうです。ですが文章は荘厳で読む目も楽しい作品でした。



「MAN/MADE」作者:紫陽_凛 ★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16817330669330483777 )


・カズオ・イシグロの「日の名残り」×スチームパンクという異色の作品です。文体は良く、ほんとうにその舞台となるお屋敷が存在したかのような確かな質感を秘めています。また主人公のメイドから語られるというお話が個人的には最大の賞賛を与えたいと思います。「メイドは最高なのです。ゲフン、ゲフン……」またストーリーを読み進めていくとミステリー的な面白さもある贅沢な作品でした。謎めいたお屋敷を巡る主人とメイド、そしてお屋敷の人々。★の数以上の満足感があると思います。



「私たちはどこから来るのか」作者:ふじこ ★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16818023211712475088 )


・記憶を追体験できるようになった未来のデバイスを巡って女性同士のカップルが少しずつおかしくなっていくお話です。記憶というものは確かに現実のような感覚を持つ、夢とは違う人間の持つ不可侵の領域です。であるからこそ、人のアイデンティティにも影響します。記憶をテクノロジーで扱える未来のヴィジョンは寒気さえしますが、おすすめです。



「Because it's there - 異星を登る -」作者:冬寂ましろ ★★★★★ ( https://kakuyomu.jp/works/16818023211735235080 )


・SFの想像力をフルに使って異星の登山をするというイメージが最高な作品です。百合作品となっていますがスポーツが好きな読者にもおすすめします。宇宙の星の登山というイメージを具体的に描き出しているところもポイントが高いですが、なにより登山の際の緊張感ある描写はこの作家の力量なのだと思います。素晴らしいSFでした。

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