CRASH TACTICS

CRASH TACTICS出たとこ勝負


仙台杜都とうと教育出版 教科書ビル

仙台市青葉区/南東北州/日本国

平成47年2月24日 午前2時30分


 山元やまもととも――チャーリー3の当初の狙撃予定地点だったポイント0-1-1は、ひとつ前の監視シフトだったチャーリー1が、うっかりとレーザーによる測距そっきょをやらかし、お返しにとロケット砲R P Gをブチ込まれた。幸いなことにチャーリー1当人は両手両足尾頭つきで生きているので、戻ってから文句の1ダースくらいはかましてやることにする。


 ――それにしても、直前での予定変更ねえ。


 山元は、フランス研修での一幕を思い出す。研修先の特殊部隊G I G Nで演習のみならず実戦に出ることになり、化学兵器テロの犯人を神経ガス容器の隙間をぬって狙撃する羽目になったこと。本来の狙撃ポジションから変更になっただけでなく、本来使用するはずだったボルトアクション式ライフルによる単独犯相手の狙撃から、若干精度に劣る自動式ライフルでの複数人相手の狙撃へと、難度が爆上がりしたこと。


 我が身のツイてなさ具合を嘆きたいところではあったが、山元はその都度、不運を実力でねじ伏せてきた。今回のミッションも、狙撃地点が変わった程度でしくじるようなタマではない。


 ビル屋上へ続く非常階段の手すりには、『立入禁止 仙台市警/CRIME SCENE, DO NOT CROSS - SENDAI CITY POLICE DEPT.』のビニールテープが厳重に巻き付けられていた。山元は腰の装具から、フランス研修で寄贈されたコンバットナイフをするりと抜く。


「……へへへ、1回やってみたかったのよね、テープカット式典ってやつをさ」

 ナイフを逆手に持ち替え、構える。

「よい子はマネしちゃいけません――よっと!」

 ちょうど『立入禁止』の部分でテープを両断すると、ナイフを納め、再び階段を上る。


『こちらオメガ。総員傾注。“あかつき”は近い。繰り返す、“あかつき”は必ずや訪れる』


 無線から聞こえてきた、作戦責任者の警備部長さまからの『突入作戦決行』コード。各所への根回しやその他諸々、会議室でやらねばならない案件は片付いたようだ。


 小耳に挟んだところによると、特殊部隊とはいえ地方都市の警察に救出作戦をやらせるなと、各所より圧力があったらしい。

 南東北州警察の緊急行動部隊E R Tどころか国家警察の特殊急襲部隊S A Tやら陸上自衛隊の特殊作戦群S F G pが後詰めに待機しているのはもちろん、未確認情報ではみやぎ国際空港にバルベルデ軍特殊部隊を載せたバルベルデ空軍機が強行着陸をかましたという。

 バルベルデ軍ご一行様にはなんとか空港内に留まってもらっている――説得なのかなのかはともかく――そうだが、確かに向こうにしてみれば自国の恥は自力でなんとかしたいのだろう。


 ――それくらいやる気があるなら、あいつらが出入国する段階で弾いてほしいかったんだよなあ。


 何となくモヤモヤしつつも、山元は屋上に着いた。狙撃待機地点は領事館側の角。幸いなことにフェンスなどはない。装具入れバッグから伏せ撃ち用マットレスとクッション、そして温度・風力風向計とレーザー測距装置を取り出し展開、狙撃姿勢をとりつつ次世代精密狙撃銃レミントンM 7 0 0 P - T W S +と共に据えつける。


 仙台市警本部会議室と領事館内部は、さぞかしヒートアップしているであろうが、こちらは2月の真夜中2時の野外である。控えめに言ってクソ寒い。気温と湿度と風を精密に測定し、領事館までの距離と照らし合わせて、冷え切ったライフル銃身と照準の補整をする必要がある。最新のH.U.D.ハッド付きスコープではデータを入力すれば自動計算してはくれるが、検算と最後の微調整は狙撃手の役目だ。チャーリー1と同じ轍を踏まないよう、レーザーを不可視赤外線I Rモードにして測距に入る。領事館まできっかり250メートル。この銃のカタログスペックなら、を狙える距離だ。


 一方で、吹雪がパタパタと、かぶっていたキャップを叩き始めていた。風と気温低下による空気密度変化は念入りに再計算する必要がありそうだ。


 ふと、別の狙撃地点で配置についている新人――チャーリー4のことを思い出した。本名『石田いしだいわお』の名に違わないゴツい風貌の割に、意外と繊細な気遣い屋。射撃の腕自体には何も懸念材料はなかったが、支給された機器の活用というものは新人ならば往々にして忘れてしまうものである(実際のところ、アタシも昔やらかした)。H.U.D.を確認する。


<<DATALINKデータリンク : STBY待機中>>


 案の定、チャーリー4は自分の銃にかかりきりであるようだ。こちらの狙撃用意が一段落ついたので、秘匿回線で指示を飛ばしてやる。


「ようチャーリー4、アガってんな? データリンクでH.U.D.に情報を送る。スコープを確認しろ」

 一呼吸ほどの間のあと、応答があった。

『――了解』

 無愛想なやつである。しかし、やることはしっかりやったらしい。H.U.D.の表示が変わる。


<<DATALINKデータリンク : ACTV利用可能 / CHARLIE-4チャーリー4 JOINING共有中>>


 チャーリー4の狙撃地点の気温・風の諸元と、射界しゃかいマーキングが、こちらのスコープに表示される。向こうのスコープにも、こちらの気温と風の諸元、射界が表示されているはずだ。

 突入部隊ブラボーチームの進入予定経路は、2人の射界で十分にカバーできている。狙撃支援要請があれば、すぐさまアツアツの7.62ミリ弾を敵さんタンゴにデリバリーできる。


「さあて、『セーヌ川の女傑ダム ドゥ ラ セーヌ』の一撃、とくと味わいやがれ」

 山元はキャップのツバをグルリと後ろに回すと、不敵な笑みを浮かべ、舌なめずりをした。

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シルバーバレット/リザレクション 大町 慧 @K_Omachi

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