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極秘

 仙台市警察 特殊捜査班 出動命令書

 仙台市警察本部 警備部警備課

 2035-02-24


出動命令 2035-0000410号

出動日時 2035/02/24 0230


作戦概要・目的

 2月23日13時00分頃、バルベルデ領事館から不審な音がするとの通報あり。警ら広域410が状況を確認したところ、銃火器で武装した10名程度の集団が領事館内に侵入。交渉班の交渉により、一部領事館員が解放されたが、領事は依然として館内にいると推定される。公安部の調査によれば、武装集団はバルベルデ共和国のテロリスト「落日旅団」と推定され、本件事案の主犯格は国際指名手配犯「オスカル・エンリケ・マエムラ」ならびに「カルロス・アラガキ」であると目される。


 制圧B班は、2月24日03時00分をもって、制圧A班および狙撃C班の支援下において領事館内に突入し、残存する武装集団を排除、領事の身柄を保護せよ。可能であれば「オスカル・エンリケ・マエムラ」ならびに「カルロス・アラガキ」の身柄を確保せよ。


 突入:制圧B班 コールサイン:ブラボー

 重野 孝治 警部補(ブラボー1)

 風間 智和 巡査部長(ブラボー2)

 小野寺 圭 巡査(ブラボー3)

 望月 徹平 巡査(ブラボー4)


 支援:制圧A班 コールサイン:アルファ

 倉田 和信 警部補(アルファ1)

 牛嶋 瞳子 巡査部長(アルファ2)

 鈴木 大地 巡査(アルファ3)

 溝口 蓮  巡査(アルファ4)


 狙撃:狙撃C班 コールサイン:チャーリー

 山元 智 巡査部長(チャーリー3)

 石田 巌 巡査(チャーリー4)


使用許可火器

 けん銃:FN ファイブセブン・グロック G17

 機関けん銃:FN P-90J

 自動小銃:コルト M4A1

 散弾銃:ベネリ M3

 狙撃銃:レミントン M700

 その他:閃光音響弾 M84

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「偵察班、デルタチームから現場の報告があった、資料を参照してくれ」

 本作戦の総責任者である、警備部長が促した。

被疑者まるひ――タンゴは10名以上と推定」


 領事館の外周に隙間なく設置された、マイクロ波透視装置と音響観測装置。それによって得られた、領事館内部の荒い画像が会議室モニターに映し出された。

「アルファチーム、報告してくれ」

 警備部長の声で、地元新聞社「杜都日報」の偽装腕章を付けた2人組が、資料を持って立ち上がる。2人の正体はS.I.U.アルファチームの隊員だった。

「“タンゴ”は先述の通り10人前後と推定。電子的偵察エリントによれば、入口Aに2人、2階の窓C付近に2人、窓D近くに2人」

「襲撃目撃者によれば、さらに4人」

「加えて、窓A・窓B・入口B・入口DからC-5特殊爆弾のものとみられる化学薬品反応あり」

「アルファ3とアルファ4が継続して監視中だが、中では特に“タンゴ”の移動はみられない模様。よって、突入オプションとしては入口Aからの陽動と共に入口Cからの突入を提案。以上」

 アルファ1とアルファ2が交互に報告した。

「御苦労。狙撃手、チャーリーチームは?」

 警備部長の声でアルファチームの2人が着席し、入れ替わりに狙撃手のチャーリー3・チャーリー4が資料を持って起立する。フランス研修で“セーヌ川の女傑”とあだ名された伝説を持つ女性狙撃手と、大学占拠事件で散弾銃での狙撃を敢行した新人のコンビだ。お互いに顔を見合わせ、頷くと、チャーリー3が報告を始める。

「はい。報道管制は完了していますが、極力目立たない場所からの発砲が好ましい、という条件を満たすとなると、狙撃ポイントは窓Cを見下ろす領事館北のポイント0-1-1と、家屋西側のポイント2-8-2が当てはまります。現在、ポイント0-1-1はチャーリー・レッド、ポイント2-8-2はチャーリー・ブルーが監視中。以上です」

 2人は軽く会釈して着席した。

「よし、わかった。アルファ、チャーリーはそのまま監視を継続。これ以上状況に進展がなければ、明朝0400時をもって突入を決行する。突入はブラボーチームが行うものとする。作戦コードは『あかつき』。本部のコールサインは『オメガ』だ。詳細は追って知らせる。各員、それまで体を休めておけ。解散」


 警備部長が退室すると、アルファチームは無表情でそれに続く。ブラボーチームはその退出を見送ると、四者四様にリラックスした体勢をとった。

「なんだ、アルファの連中、どうもいけ好かねぇな」

 椅子にふんぞり返ったブラボ―2――風間は言った。

 ブラボー1の重野は資料を通読。ブラボー3小野寺とブラボー4望月は、再び資料にメモやアンダーラインを書き入れる。

 風間が戦闘服インナーの仙台市警謹製「TO PROTECT AND SERVE市民のための保護と奉仕」Tシャツの襟もとを開け、けだるげに資料をめくる。

「にしても、どこの国なんだかわかんねぇ連中が銃てんこもり爆弾もてんこもりで立てこもりときたもんだ。えーっと、国名なんだっけ? バル……痛ってぇ、指切っちまった」 

「バルベルデ共和国。中南米です」

 小野寺がピシャリと言った。

「……作戦概要説明ブリーフィングはちゃんと聞きましょうよ、先輩」

「そうそう、バルベルデだ。何でわざわざ地球の真裏から反政府組織が仙台なんかに来て事件起こすかねぇ?」

「1950年代から1970年代にかけて、日本からの移民が多く、加えてイサカ災害で国外脱出先に選んだ日本人も多かったと聞いています。そのせいで日系以外の人種の仕事やら土地やらが奪われた、ということで反日思想を持つ政党が政権を握ってしまい、日系人迫害政策がとられたため、日系人による反政府組織が乱立した、と」

 望月は、資料から顔を上げずに言った。

「へぇ、詳しいな。さすがだぜ」

「バルベルデの日系人問題はNKHのドキュメンタリ番組にもなったくらいのことですよ」

 小野寺は若干咎めるような口調で返す。

「わりぃな、俺、国営放送見ねぇんだよ」

 あっけらかんとした様子の風間に、小野寺が再びため息をつく。


「しかし、バルベルデ内戦は2032年に大統領が『落日旅団のリーダーを殺害した』として戦闘終結宣言を出し、日本政府もバルベルデ人移民への権利保障拡大を確約したはずです。何故いまさら“幽霊”が?」

 小野寺が、誰に言うとでもなく、ぼそりと言った。

「そのことについては公安と外事が明らかにすることだ。我々は作戦に集中すればいい」

 重野の言葉に、小野寺が頷いた。

「訓練通り、装備はDEデルタエコー-2だ。指示は私が出す。小野寺が散弾銃 M 3 でドア破壊解錠ブリーチング、前衛の望月が機関けん銃 P - 9 0 Jで突入。風間も機関けん銃で後方警戒。フォーメーションはわかっているね?」

 風間も含め、全員が真剣な表情で頷く。

「案ずるな。訓練通りにやればいい」

「了解」

 3人は声を揃えた。


「……あー、縁起わりいな、イテテ」

「ばんそうこう使うかい、風間?」

 風間が資料で切った指をくわえていると、後ろから声がかかった。

「おう、山元、もらうわ。準備がいいな……って、どうした、鼻の頭」

 後ろに立っていたのは、チャーリーチームの山元と石田だった。山元の鼻の頭には、ピンクのばんそうこうが貼られていた。山元の後ろには、巨漢の石田が縮こまっていた。

「新人の排莢したアツアツの空薬莢からやっきょうが、ものの見事に当たってね」

 山元が親指でクイクイと後ろを指すと、石田はいっそう縮こまった。

「顔を傷ものにされたのか? 責任とってもらえよ」

「魔性の女かい、アタシは!」

 ニヤつく風間に、山元がピシャリと返す。

「狙撃支援、期待してるぜ」

「ああ、この子も腕は確かだよ。アタシが保証する。アンタも気をつけて」

「おうよ、まだツケ返してないからな。うちの新人も有望株だ、ササッと済ますさ」

「わかった。ご武運を」


 ――チャーリーチームの2人が退室すると、ブラボーチーム4人の顔つきは『精鋭』そのものになっていた。



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シルバーバレット/リザレクション 大町 慧 @K_Omachi

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