TERROR FALL ALL OVER

釣ール

散カラオケ

 ・二〇一六年


 明吾みょうもは暇を潰すため、あちこちを渡り歩いていた。

 そして適当に過ごせる場として学生時代から駆け込んでいるカラオケ店へ入る。

 幸いなことに別店舗でこのカラオケ店のアプリを登録していたからか、女性の一人カラオケも堂々と出来るわけである。


 最もこちらは何も落ち度がないので適当に理由をつけるだけだが。


 一人カラオケもすっかり浸透した現代は助かるけれど、今度は一人カラオケ用プランだとか制限とかを設けられる。

 この国の「多人数なら何やってもいい」と遅れた発想を何十年続け、優遇する気持ち悪さはかつて学生時代一といっても卒業したのは三年前だけど一を過ごした仲間達ならなんというだろう。



 二〇一四年の頃だった。

 インターネットの一般化が始まり、


「好きなことで生きていく」


 と大人気の動画配信者が言わされてる感満載のセリフを全世界に発信したからか、胡散臭い職業や自己啓発家や語気だけ強い色々と苦労してきた設定の人間達がその通り好き勝手やり始めた。


 実茎やどりは他人には言えないけど私達には言える作品を漫画にしていた。

 そしてこの手の人間が金稼ぎの為に本をこちらへ売りつけるために現れる時に


「帰れ!あたいそんな安くないわよ!」


 胸元をやたらキュッと締める動作をする姿を私はある特撮作品のエゴイストに惚れていたからか


「実茎めっちゃかっこいい一面見せるね。」


 と言ったら恥ずかしがられ、

「これ…好きなコント師の模倣。」って聞いて一人で盛り上がっていた自分の方が恥ずかしかった経験がある。


 もう一人は凄く冷めた見方をしていて、恋愛も自然消滅ばかりの冴えない女の子だった。


直誤すぐよもここにいたの?

 やばっ。

 さっき変な本売る奴を実茎に追い出して…」


「明吾!言うんじゃねえ!」


 直誤は真顔で近くのカラオケ店を検索し、


「募る話は歌って解決してみるのも一興かもね。

 何故なら連続性のある人生の中でつまらない記憶ばかり脳には残っているから。


 女子高校生にはキツすぎて、高いだけのハリボテなんてなんの意味もないのだから。」


 直誤の話すことは相変わらず意味がわからない。

 それ売れるよ?とお世辞で言おうものなら鍛え続けたらしい柔術で友達でも男女平等に投げ飛ばす人だからだ。



 なんやかんや三人でカラオケ店に入ったはいいものの、歌う曲はいつも通りインターネットで浸かったジャンルばかり。


 普段は絶対に相手に見せない歌を自分達三人だけの空間で成り立たせているのは、誰か分からない人間に音が漏れたのを聞かれたらさぞや気持ちが悪いに違いない。


 それくらい発散しないとこの世はやっていけない。


「だいたい誰かを見下してくる人間って自分を優れていると思わせるような努力しかしてない気がするんだ。

 そこを上手く落とし込んでファンタジックな作品投稿できないかなあ。

 このアニソン歌う度にそう誓っては破滅するんだけれど。」


 実茎はこのメンバーでは明るい選曲だがストレスを溜めやすく、そして見た目にも気を遣うからか謎に自己啓発本を売ろうとする人間を呼び込ませてしまう。


 その度に相手の性別や年齢に合わせて撃退セリフと方法をいつも考えさせられているからか気性が荒い。



「人間如きには無理じゃない?

 馬鹿みたいな労働と馬鹿みたいな賃金しか設定できないのに未だに恋愛だの家族だのとか追いついてないし。


 この前、元彼が変な居場所連れられて精神を病んだらしい。


 自分は異常だとか言ってたから私が


『異常なのはあいつら。

 人間如きには無理。

 そう、私達以外の人間如きには。』


 私は別れた筈の彼と再び話、痛みをわかちあううち…」


「ストップ直誤!

 結末は後で聞く。

 でも、それって笑い話で終わる?」


「終わる。」


「じゃ、じゃあ聞くのやめるよ。

 さあ、歌おう!」


 私には実茎のような漫画家魂も直誤のような激動の人生も送ったことはない。


 今後もそうやって高校を卒業していくのだろう。



 そして二〇一六年へ。


 大学生活はそれなり。

 可もなく不可もなく。

 相変わらず役に立たない上に再現性のない自己啓発ばかり盛んだ。

 もうそれって新興宗教だ。

 そんな意見をSNSで見てから、鵜呑みにしたとはいえ自分もその文を理由に場を去っていく。



 なんか、生きづらいな。

 本来他人や誰かには言わなくていいし、奪われるわけにはいかない人生を切り売りする生き方がなんだか不健康な気がしてならない。


 大学を出て、就職したらあんなものばかり楽しまないといけないのかと考えると頭を抱える。


 そんな時に一人カラオケをしていた。


 あの二人は今、何をしているのだろう。

 連絡は取ってないけれど仲は悪くは無い。


 最後に連絡したのは実茎で、その時の返事が


『王道を貫くならさあ、恋愛なんてアテにしちゃだめじゃない?


 機密保持、人材召喚、資金収集、利害関係だよね。


 欲求なんてアテにしちゃダメよ。

 おおん。


 アテにするからストレス溜まるんでしょ 』


 だった。

 相変わらず重度のネット好きな模様だ。


 その返事が一応今年になるのか。

 もう過去の出来事だし、直接会ってすらいない。


 ここで二人がカラオケをしていたら部屋にやってきて、生きづらさと戦うパーティが揃う!

 とか最高に王道で人気でそうじゃない?


 一人しかないいない空間でそう話してしまった。

 聞かれたら恥ずかしい。

 いや、別にいつものように言い訳をすればいい。


 今年はまだマシな方だ。

 嫌な盛り上がり方だけれど。


 すると二人らしき歌が聞こえた。

 あの選曲は間違いない。


 けれど明吾はただ一人歌うのみ。

 これぐらいの距離感でいい。


 近いけれど、いずれどこかで。


 過去ではなく現在を生きているのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

TERROR FALL ALL OVER 釣ール @pixixy1O

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ