独り身ダブルアクション

「勝人~昨日の新刊読んだか? まじアツかったよな!」


パパ活女子である美咲と遭遇した翌日。朝から俺に漫画トークをぶつけてくるのはクラスで唯一の友達、いや親友と呼んでいい存在の渡瀬徹わたせとおるだった。入学当初からオタクトークで仲良くなった人物で、学校生活においての唯一の居場所と言っても過言ではない。


「見たに決まってるだろ! むしろあれを見るために生きていたと言ってもいいぐらいにはあの作品を推してるからな」


「やっぱりお前は分かってるなぁ! 心の友だぜ!」


有名なガキ大将みたいなことを言う徹に、本当に仲良くなれてよかったと思う。クラス内はザ・高校生という人ばかりでこうやって一緒に盛り上がれる人も少ない。好きだったとしても表に出したくないという人も多いのだろう。


「とりあえず新刊が来るまでは毎日読むレベル」


「それな」


そんなオタクトークに花を咲かせている時のことだった。廊下から衝撃的な声が聞こえてくる。


「ちょっと、どいてくれる? 邪魔なんだけど」


高圧的な態度の声が廊下に響く。俺たちは廊下側の席ということもあり、扉からひょっこりと顔を出して廊下の様子を確認する。


「す、すみません」


「なんだって? ボソボソしゃべられても聞こえないんですけど。ほんと気持ち悪い。行きましょ」


何やら女子がひ弱そうな男子に強い言葉を浴びせていたようだ。すると、その光景を見ていた徹が言葉を溢す。


「あれ、今噂の梨々香っていう後輩だよ。どうにも学年を操れるくらいには権力を持っているらしいよ」


この学校は学年ごとで階層が分かれている。わざわざ俺たち二年生の教室のある三階に来る必要はないのだが、見せしめにでもして自分の権力を象徴したいのか、無駄に大きな声で話している。


「あんまり関わらない方がいい。面倒ごとはお前もごめんだろ?」


徹はそう言って教室に顔をひっこめる。徹の意見には俺も賛成だ。無駄な注目を浴びるのは面倒ごとにもつながる。ましてや学校中で話題になっている人物に絡まれるなんてなおさらだ。


「そうだな。俺も嫌だし……」


俺も顔をひっこめようとしたその時、俺は遭遇したくない人物の存在に気がついてしまった。


梨々香の背後に数人いる取り巻きたち。その中に昨日出会った美咲がいたのだ。みんなで笑いながら歩いている中、少し居心地の悪そうな笑顔を見せながらも梨々香についていく美咲。その目が今少しだけ俺と目が合った気がした。


「なんか騒がしかったな。学校っていろんな奴がいるんだな」


美咲はどうしてあんな顔をしていたのだろうか。少し心に不穏が残る朝だった。


眠気との格闘を終えて迎えた昼休み。俺は購買へ向かおうと一階渡り廊下を歩く。反対側の校舎一階にある購買は多くの生徒が利用するため人混みがすごいことになるのだが、人ごみにあまり巻き込まれたくないから少し時間を遅らせているのだが。


「あなたが竜胆勝人?」


その声は左横に広がっている中庭の方から聞こえてきた。


「え、そ、そうですけど」


「昨日のDMはどういうこと?」


「え?」


おいおい、昨日見たぞこの流れ。嫌な予感がするんだけど。


「昨日DMで会いたいからってラブホテルを提示するのはよくないと思うんだけど」


腰ほどまでに伸びた銀髪を揺らしながら彼女はそう言った。日本人離れしたそのルックスに俺は少しドキッとする。


「俺、イ〇スタやってないんですけど」


「え? うそでしょ? あなたの名前と画像が使われてるからてっきりそうかと思った。じゃああなたは独り身のか弱い女の子を食べ散らかす下品な人じゃないんだね」


美しい容姿から出てくるとは思えない汚い言葉に唖然としながらも、俺は昨日と同じなりすましアカウントの対処を終わらせた。なんで俺なんかのなりすましがいるんだよ。


「誤解が解けたみたいならよかったです。それでは失礼します」


俺は彼女にそう告げると、足早に渡り廊下を歩き出す。


「ちょっと待って」


後ろからかけられた彼女の言葉に足を止める。


「少し話せるかな?」

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