青は道連れ世は情け
筒木きつつき
思いもよらぬ方向から衝撃は飛んでくる
ひょうひょうと風が吹く。浜松のからっ風が俺、
「早く新刊を買わなきゃいけないんだよ」
俺は行き場のない風への怒りを独り言として吐き出すほかなかった。学校終わりの制服は疲れのせいか少し重く感じた。
「はぁ、はぁ」
俺はやっとの思いでたどり着いた駐輪場で自転車を止めると、足早にアニ〇イトへと足を運ぶ。
どんどんと歩く速度は速くなっていく。人気漫画である『ブレイク・ブレイド・ブレイダー』の最新刊ということもあって少しの緊張感が走る。学生は店の開店時間の時には学校にいなくてはならない。そのせいでこんなにも学校終わりに焦らなくてはいけないと思うと、学校側にクレームの一つや二つ言いたくなる。
「よし、何とか手に入った」
駅ビルの四階にあるアニ〇イトにたどり着くと、入り口の入ってすぐの場所に目当ての品物は置かれていた。残り在庫は数個。ギリギリのしょうぶをしていたと言える。
俺はすぐさま商品を手に取り、レジへと向かい会計を済ませる。買えてよかったと安堵の気持ちで店を出る。この一冊を手に入れるのをどれだけ待ったことか。早く帰って続きが読みたくて仕方がない。
足早に駐輪場まで戻ってきて自転車に鍵を刺す。自転車を取り出していざ駐輪場を後にしようとしたとき、目の前に女子高生が立っていた。肩にかかったふわりとした茶髪の髪が風に舞う。
「あの、通りたいんですけど」
絶対に見えているはずなのだが一向にどく機会がない。声をかけてもどく気配がない。もう立ったまま寝ているんじゃないだろうか。
「あなたですよね。竜胆勝人さんは」
彼女は固く閉ざしていた口を開け、俺にそう問いかけてきた。何が何だかわからなかった。そもそもこの女子高生とは初対面のはずだ。制服自体は同じ高校のブレザーなのだが、見たことある顔ではない。
「確かにそうだけど、どうして俺のことを知ってるの? 話したことないと思うんだけど」
「話したことがない? あんなにDMでは話してたのに何とぼけてるのよ」
DM? 俺は何のことだかわからずに首を傾げる。俺は基本SNSはツ〇ッターしか使わない。あ、今は名前変わったんだっけか。ましてや映えを意識していそうな女子高生が使う。イ〇スタなんてアカウントすら持っていない。
「何かの勘違いでしょ。俺は君とは完全に初対面のはずなんだけど」
どうして急いでいる時に限ってこんな面倒ごとに巻き込まれなきゃいけないんだ。俺は早く帰ってマンガを読みたいだけだって言うのに。
「困ります。あなたから約束したんじゃないですか。援助交際しようって!」
彼女は俺とのDMと思われる画面を俺に突き付けながら、駐輪場に響きそうな声で俺に強くそう言った。
「声が大きいって。俺そんな話したことないし。というかそのアカウント見せてよ」
俺が知らないと言い続けたからなのだろうか。それとも不安になったからかわからないが、彼女は俺にスマホを見してくれる。画面に映っていたのは確かに俺の顔写真をアイコンにし、名前が竜胆勝人と書かれたイ〇スタのアカウントだった。
「誰がこんなことを。これ、俺のなりすましだよ。信じられないって言うなら俺のスマホ見ていいよ。そもそもアプリすら入れてないんだから」
彼女は驚いた表情をしながらも「そんなはずない」と言って俺のスマホをくまなく調べているようだ。
しばらくすると何も見つからなかったのか申し訳なさそうに俺にスマホを返してくる。俺のスマホには基本ソシャゲしか入っていない。映えとかよくわからないし、自分の幸せを他人に共有しようとも思わないからだ。
「あなたが言っていたことは本当みたいね。疑ってしまってごめんなさい」
彼女はぺこりと頭を下げて謝罪をしてくれた。なんだ、結構しっかりしてるんじゃん。
「じゃあ俺は帰るから君も気をつけて帰るんだよ」
俺は彼女にそう言って自転車に乗る。すると再び前に割り込んで俺の進行を妨害する。
「なんだよ。話はもう終わっただろ?」
「その、私がそういうことしてるって言わないでください。絶対ですよ」
どうやら先ほどの発言を後悔しているらしい。確かに援助交際、いわゆるパパ活というものは流行っていると聞く。そんなことしているとバレてしまったら相当問題になるだろう。彼女もそれは避けたいと思っているらしい。
「言うも何も言う相手すらいないんだから安心しろ。君もこれからはそういうことしない方がいいからね」
「君じゃなくて、美咲だから」
俺は彼女の言葉に思わず「え?」っと聞き返してしまう。
「私、君じゃなくって美咲って名前だから。
何かを宣言するかのようにそう俺に伝える美咲は一体何がしたかったのだろうか。俺には意図が読み取れなかった。
「美咲はこれからそういうことしないほうがいいよ」
俺はペダルを強く踏み込んで自転車を走らせる。からっ風はまだ向かい風のようだ。
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