私は青春を手に入れたい

 私はずっと勘違いをして生きてきた。自分が主人公なのだと。どれだけ辛いことがあったとしても、最後には必ず幸せになれるのだと。だけど現実は、私に最悪の結末だけを叩きつけた。


「はぁはぁ美咲ちゃん気持ちいいよ。おじさんもういきそうだ」


 私に覆いかぶさる汚いおじさんはそう言って自分の欲をぶちまけた。汗と加齢臭の混ざったにおいが鼻につく。


「またおじさんと遊んでね」


 そう言っておじさんは私に三万円を握らせる。二度と会うかよゴミカス。そう出かかった言葉を呑み込み笑顔で返す。


「また機会があったら是非~。すっごく気持ちよかったですもん」


 もちろんこれも嘘に決まっている。AVばかり見ているこじらせた童貞は激しくしておけば気持ちいいなどと勘違いしているバカばかりだ。気持ちよさよりも痛さの方が勝つ。


「ありがとうございました」


 それから数十分後、駅まで送り届けられた私は笑顔で車を送り返す。車の姿が見えなくなったと同時に私は深いため息を吐いた。


「なんでこんなことしてるんだろ」


 私はボソっとそう溢すと、少し前の出来事を思い返す。


「見てよこれ。パパに買ってもらったんだよね~」


 数か月前の出来事だった。私が所属するグループのリーダーである梨々香りりかが学校にこっそりと持ってきたブランドもののバックを自慢したところから始まった。


「え~いいなぁ。私の家だったら絶対買ってもらえないよ~」


 梨々香の取り巻きがうらやましそうに言った。私もオシャレなものには興味があったし、純粋にいいなと思っていた。だけど次の言葉に耳を疑った。


「パパって本当のパパじゃないよ? ネットで見つけたパパなの。頼めばなんでも買ってくれるの。みんなも作った方がいいよ」


 梨々香の発言はすなわちパパ活をしていると言っているようなものだ。そんな犯罪曲がりなこと許されるはずがない。でも現実は違った。


「梨々香見て~。私もパパに買って貰っちゃった」


「私も!」


 それから一週間の間に私以外のみんながブランドものを持つようになっていた。ブランドものの話をしているみんなについていけない気がした。私の青春を守るためには私も同じものを手に入れなきゃいけない。仲間はずれにはされたくない。私は本当はダメだとわかっているのに、今の青春を失うことが怖かった。


「わ、私も買って貰ったんだ~」


 それから数日後、私も同じブランドの商品を持っていた。パパ活と最初は怖がっていたものの、終わってみれば簡単に大金が手に入っていた。みんなと一緒じゃなきゃいけない。私はもう止まれなくなっていた。


「今度みんなで旅行行きましょ」


 梨々香からの提案はどんどんと派手になるばかりだった。必然的にパパ活の頻度を上げるほかなかった。全ては私の青春のためだ。


「美咲はこれからそういうことしない方がいいよ」


 私は昨日言われた一言を思い出しふと我に返る。


「何もわかってないくせに」


 私は少しのいらだちを覚えながら帰路につく。もう戻れないんだからしょうがないじゃん。


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