第7話 ラストスープ
Kouは雨の日にも会えなくなった。
モンマルトルが濡れる夜にむくはKouの本当の気持ちを探している。
Ayaはむくを恨まないけれども羨ましいと帰宅した。
いつか緑の家に帰って来ると。
むくは
その瑞々しい青春の過程で、神友とその愛する異母兄に出会い、筆を入れて行く内に開花して行く。
暫くして、珍しく雲ひとつない日に、Kouが現れた。
「玲殿と美舞殿には連絡した。教会へ行こう」
「私と……。私とですか?」
ウエディングドレス姿になった。
両親に見守られて、初めてのお化粧も崩れてしまう。
「綺麗だ。心が美しいから、傍にいて欲しいと思った」
神父もなく、祭壇の前で手を取られた。
ステンドグラスが七色にはしゃいでいる。
「Aya様に純白の姿をお見せできないです」
「俺には心残りがある。許してくれ」
優しいキスをされる。
「いいお天気です」
ステンドグラスがチラチラと動き出したかと思うと、突然雲が集まって雫を振り巻き始めた。
「Kou様?」
キスの残り香に眩暈を覚える。
「何処へ行ってしまわれたのですか……?」
純白のドレスが雨に誘われるように飛び出した。
この日を見守っていたAyaにとってむくの存在は重いが、神友を憎む気持ちはない。
だが距離を置かざるを得ない。
KouとAyaは兄妹だから何時まで経っても平行線だ。
ある日、Kouを介さずAyaに依頼が舞い込む。
絵、『眠りの乙女』を盗むようにと。
Ayaとむくが草原に休んでいる想い出の絵で煩悶する。
しかし、遂行すればKouが帰って来るとの第六感があった。
むくの枕元にある絵の前でたじろぐ。
Ayaの手をむくが包んだ。
「な、何でもないわ。起こしてごめんなさいね」
「Aya様。遊びに来てくれてありがとうございます。お味噌汁にいたしましょうか」
二人で窓際のテーブルに器を並べる。
お互いのお土産は、Aya側からは、土方家に素敵なセダン、むく側からは、この絵やスケッチだとか。
そして、二人で愛するKouについて語り明かした。
やはり神友だと心から思う。
「いけない。雷雨だわ」
「窓を閉めましょう」
そのとき、濡れ鼠となったKouが影法師のように現れた。
カーテンをひらりと翻して部屋に入る。
窓を叩く雨粒が待ち焦がれていた二人の鼓動を打った。
「やあ」
涙目の二人が呼んだ名前はひとつだった。
「Kou!」
「教会は、晴れていたのが幻想だったのでしょうか」
「雨よ……。雨よ降れと待ち望んだわ」
和やかに朝の食卓を囲むが彼だけ食べずに微笑む。
愛について、定義など要らないのだろう。
この瞬間を大切に生きられるかどうかだ。
「Kou? さっきから微笑んでばかりね」
亡くなっているとも知らず――。
【了】
雨の影法師 いすみ 静江 @uhi_cna
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます