第6話 愛の影法師

「仲がいいことは確か。けれども、Kouとむく様がお付き合いをしているとは信じ難いわ」


 何故ならば、Ayaと彼女とは神友だから。


「むく様に今の気持ちを聞くべきかしら」


 自分一人の悩みごとにするのかさえ迷っていた。


「ああ、Kou、Kou、Kou……! 裏切りでないと信じている。私がKouを想っていることを感じているわよね?」


 Ayaはぼうっとしながらベッドに身を預けた。


「私もKouも髪はぬばたまの如き黒なのに?」


 ふるふるとベッドにも見つけた栗色の髪をつまんだ。


「まさか……! むく様を部屋へ通したことはない。Kou、貴方の仕業なの?」


 別れても尚存在が重い。

 Ayaは混沌とした中で、五種類のスープを拵えていただくことにした。


「このソイ、絶品! むく様から頂いたオミソがいいのね?」


 憎みようにも憎めない。

 お腹を満たすとむくのアパルトマンへと足を運ぶ。


「え? むく様のお話が無茶苦茶だわ」

「本当のことです。私とベッドで長話をしたと思ったら、窓から木を伝ってさっと消えてしまったのです」


 むく家のお味噌汁のお代わりをAyaの前に置く。


「何でお付き合いをしたの?」

「そ、それは……」


 むくはトレーにのの字を書いていた。


「聞こえないわよ」

「初めてだったので……」


 Ayaがチーンとなるまでに時間が掛かった。


「ええ――?」


 勿論キスが。

 むくにとって甘く一生忘れられないものだ。


「ひとの家のベッドにまで入らないでよ。いくらKouのでも」

「入ってません。ソファーはお借りしました」


 Ayaがチーンとなるまでに時間が掛かった。


「ええ――?」


 むくはベッドには腰を掛けただけだと言いたかった。

 十六の乙女には限界だ。


「Kouは何処へ行くとか言っていなかったの?」


 むくは首を横に振る。

 そうかとAyaも肩を竦めた。

 Ayaはあんなに大きなお屋敷があるのにむくの家に泊ると子供っぽくなる。

 姉妹のように並んで布団を敷いて寝た。


「今日も晴れたわね……」

「Aya様、どうして私を憎いと思わないのですか? 血が繋がっているからですか?」


 知ってしまったのかと、Ayaは自分にも言い聞かせる。


「Kouは、ぶらりとした性格なのよ。きっと私の所に戻って――Ayaがいいなって戻って来る」


 Ayaは頭を撫でられたときのことを思い出す。


「いつか私も成人します。私が愛してもいいのですか?」

「Kouが選ぶから。期待してもいいわよね」


 むくはAyaに妄想癖があることを思い出した。

 愛の影法師が雨を呼べと叫んでいるようだ。

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