第5話 アチャ!

 どれ位続いただろうか。

 Kouがむくを離さないので、むくは段々初めての感情に包まれてしまった。

 男性に愛さるのは、私を豊かにしてくれると。

 感覚が研ぎ澄まされて目眩を覚えるようになった。


「か……」

「何だ?」


 むくは恥ずかしくてもう何も言えない。


「勘弁して欲しいのか」

「んん……」


 むくは目を強く瞑っていたのを開いた。

 話をしてもくちづけを続けられる。


「どちらか分からないが」

「あ……。はあ……」


 十六歳のむくには早すぎる。

 二人ともそれ位分かっていた。

 むくはときめいて行く自分を隠せない。

 しかし――。

 むくはKouを突き放した。


「ご、ごほ。ごめんなさい! 神友の友人とそのようなことはできません」

「それだけ?」


 むくはきょとんとした。

 でも、熱い気持ちは隠さなければない。


「い、一時の気持ちですよ」

「何があった?」


 むくはわなわなと震える。

 

「惚けるなんて酷いです!」

「いつも大人しいのにどうした。俺はもうおじさんで恋愛対象にならないか?」


 泣きたい気持ちにもなったが堪えて真っ直ぐに向いた。


「Aya様の友人だからです」

「俺の妹だが」


 暫くは聞こえなかったかのようだ。


「――妹さん? ご結婚できないのですか? ベローナで式を挙げたとのお葉書は何だったのでしょうか」

「Ayaは妄想癖が強い。見守ってやってくれ」


 唇がまだしっとりと濡れていた。

 ぴりっとした甘さも残る初めての私に人差し指と中指をそっと当てる。


「私に口づけをした理由を訊かせてください」

「交際の申し込みだ」


 バチン。


「おお、左利きか?」

「酷いです」


 バチン。


「二発目はAya様の分です」

「確かにAyaも怒るだろうな。それより、ファーストキスを奪ってすまなかった」

「女の子の傷に比べたら安い謝罪です」


 Kouの誘いでAya達の家へと向かった。

 留守だったのでKouの鍵を使う。

 むくは広く綺麗なお屋敷に感嘆していた。

 居間にソファーがあり、勧められるがままに腰を落としたら、最悪のタイミングでお腹がくうーと鳴る。


「スープなら沢山ある」

「Aya様のですね」


 むくはKouの唇から目を逸らした。

 あれはなかったことにしよう。

 Aya様に会っても告げない。


「むく」


 気が付けば、Kouがそこにいた。

 彼は肩に逞しい手を置き、真剣な眼差しで見詰めた。


「毎日同じ家には暮らせないが、俺の妻になればいい」

「アチャ!」


 そして、自分の頬杖に足を組むKouにむくは面食らった。

 一時間程してむくは帰宅し、Kouは消え去った。


「ただいま! Kou、帰って来た?」


 新しい香りが混ざっている。

 誰かがいる。

 否、いただ。


「何故ソファーに染めた栗色の髪があるのかしら――?」


 Ayaは裏切りを信じない。

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