世界の終わり(短編)

藻ノかたり

世界の終わり

その丸い星の地表に住みついた住人たち。


彼らは、繁栄を思う存分謳歌していた。しかし、良い事はいつまでも続かない。ある日突然、世界中が洪水に見舞われのだ。その到来は本当に突然で、多くの物や生物が押し流された。


気象学の権威が集まり、連日連夜検討を重ねたが、まるで原因が分からない。中には預言者を名乗り、神罰だという者も現れるが、そのような非現実的な説を信用する者など誰もいなかった。しかし、その説を唱える者にも根拠はあった。全く同じような洪水の記録が、いにしえの言い伝えに存在していたからだ。その者は、更に予言をした。


「この先、もっと恐ろしい事が起こる。そして我々の殆どは、死に絶えてしまうのだ」


恐ろしい事とは何なのかは語られなかった。具体的な部分の伝承は途切れ途切れであり、はっきりとした現象については伝えられていなかったからだ。そんな事もあり、復興とともに予言者の言葉は忘れ去れていった。


しかし、彼の予言は現実のものとなる。世界中に溜まった水が引きかけた頃、どこからともなく謎の泡が湧き始めた。最初は大した量ではなかったが、それは見る見るうちに増え続け、世界中の都市をのみこんでいく。


「そういえば、予言者と称する奴がおかしな事を言っていたな。我々は死に絶えるとか何とか……」


世間は、その噂でもちきりになった。各国政府は、そういった流言飛語を取り締まる努力をしたが、科学的には全く説明のつかない泡の発生はますます増加し、人々の噂がおさまる事はなかった。


そうなると予言者の言っていた、もっと恐ろしい事とは何かが気になってくる。御用学者たちが噂の否定に苦慮しているのを尻目に、民間の学者らが予言の内容について調べ始めた。しかしまるで雲をつかむような話であり、予言の内容解明は遅々として進まなかった。


そのころ既に、謎の泡は世界を多い尽くすまでに広がっていた。そして学者たちの努力をあざ笑うかのように、次の悲劇が訪れる。


突然、世界中に何本もの"杭"が打ち込まれたのだ。いや打ち込まれたというのは適切な表現ではない。正確に言えば、空から杭が降ってきたかと思うと、その杭は、落ちたあたりをブルドーザーのごとく動き回り、周囲を跡形もなく破壊していくのだった。


問題はその杭の大きさだ。柵を作る時に使うような杭であれば、まだ良かったのかも知れない。しかし杭は高層ビルよりも高く大きい超巨大な杭だったのだ。そのため、杭が落ちた場所はほぼ壊滅状態になる。さらにその杭は、一本ではなかった。


サイズの違う何本かの杭が同時に地表に舞い降りて、街を破壊し尽くしていく。しかも杭は、郊外より人口密集地をねらい打ちするかのように襲っていくのだった。杭に押しつぶされる者、泡にまみれて死にゆく者、世界は地獄絵図と化していく。


「あぁ、神様。助けて、助けてください」


人々は天に向かって叫んだが、神は一向に応えてはくれなかった。それどころか神は、人々に最後の鉄槌をくだされた。


それは再びの洪水。しかも最初に起こったものとは、比べものにならない程の大洪水だった。人々はもちろん、彼らの作った文明社会もことごとく流されていく。


彼らは、滅亡した。


しかし、悪い事ばかりが起きたわけではない。彼らが文明と引き替えに汚した大地は清浄なものへと生まれ変わり、そこにはすがすがしい風が吹いていた……。



「リョウちゃーん、ちゃんと一人で出来てる~?」


扉の向こうから、お母さんの声が響く。


「大丈夫だよ。ボクひとりで出来たよ。今までお母さんにやってもらってた通りに、ちゃんとがんばったよ」


リョウちゃんが、こたえる。


「ほんと? じゃあ、どういう風にやったか言ってみて」


「うん。最初に頭を少しぬらして、シャンプーをつけたよ。それでかゆい所を一生懸命に指でゴシゴシしたんだ。ちゃんと最後には、たっぷりのシャワーできれいに流したもん。ボク、もうひとりで頭あらえるよー」


お風呂場の中から、リョウちゃんが得意げに言った。

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世界の終わり(短編) 藻ノかたり @monokatari

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