ひとりの男が奏でる、悲哀と激情。

この作品には、何者にもなれないことを嘆いていた孤独な主人公がアイドルファンになり、そこにすべてのアイデンティティを預けた彼が凶行を決意し、野望を打ち砕かれ、自らの行いを省みるまでの一部始終が描かれています。

私自身はスキャンダルに目くじらを立てるファンの気持ちに疎い側ですが、一人称視点で複雑な内面が事細かに開示されることで、彼らの苦悩が痛いほどに伝わってきて、解像度がぐんと上がった気がしました。

全編通して行き場のない気持ちの表現が巧みで、各章タイトルともマッチしており、独特の読後感を味わうことができます。