愛され体質の私が先生になったら、男子生徒から愛されるようになりました

仲仁へび(旧:離久)

第1話




 私は教師だ。


 今日から新しい学校で、生徒達に授業を教える事になっている。


 記念すべき初日。


 失敗しないように、色々シミュレーションしてきたけれど。


 うまくいくだろうか。






 どきどきしながら教室の扉を開ける。


 高校生の教室だ。


 ここは、A組。


 生徒の数は三十人。


 男子生徒と女子生徒の数は、ほぼ同じ。


 良い教師になるべく、頑張って生徒達の顔は覚えてきたけれど、絶対はない。


 うっかり間違えないようにしないとな。


「みなさん、こんにちは。私は今日からこのクラスの担任をつとめる事になりました。よろしくね」


 最初の挨拶は噛まずに癒えた。


 まずまずの及第点。


 生徒達は、みんな静かに聞いてくれていたし、この分ならなんとかなるかな。


 その時は、そう思っていた。


 まさかあんなにやっかいな事になるとは……。






 世間では、生徒になめられてしまって、教師が何を言っても、言う事を聞いてくれなくなったケースとかあるけど。


 私の場合は、ちょっと不安。


 人より華奢だし、女性だし。


 女性がなめらやすいというのは、あるんじゃないかと私は思っている。


 同じ場面、同じ言動でも、男女だとどうしても感じ方や受け取り方に違いがでてしまうから。


 だから、何かあった時は、毅然と対応しなくちゃ。


 学級崩壊とか起こらないように。不良になる生徒がでてこないように。


 新人の教師だっていっても、生徒達より年上なんだから、数年分でも人生の先輩なんだから。しっかりしてなくちゃ。


 






 けれど、トラブルはいつも予想の斜め上の方向からやってくる。


 人生って、ままならない。


「せんせー、補修なんてしないで一緒にあそぼーぜ」


 一人目はちゃらい見た目をした、男子生徒。


 髪は、金に染めて、腰にはちゃらちゃらと金属のアクセサリーをつけている。


 制服のボタンはいつもとめてないし、シャツはズボンから出しっぱなし。


 他の教師も手を焼いている問題児だ。


 けれど、何でか私のいう事だけは比較的聞いてくれるのよね。


 どうしてだろうって思っていたけど、まさか異性として見られていたなんて。


「卒業したら、俺と結婚しよ? 俺、せんせーみたいなタイプ初めてなんだ」


 簡単にそういう事いわないでほしい。


 今の時代、たとえそういう関係になくても、噂されたらそれまで。


 歩き出したばかりの教師人生が、即刻終了してしまう。


「ねえ、せんせー。聞いてる? 今度の日曜日デートしようよ」

「しません。つきあいません。結婚もしません。お願いだから、何も言わないで、静かに補修をしてて」







 二人目は、天然な男子生徒。


 一人目と違って、しっかりしており、勉強も優秀。


 学校の規則を破る事はない。


 生徒会にも所属していて、良い生徒の見本のような生徒だ。


 けれど、彼も私に好意を抱いているらしい。


「先生、高い所にある資料なら、私がかわりにとろう」


 図書室で一緒に作業していると、彼が後ろからやってきて、本棚にひょいと手を伸ばす。


 学生で年下なのに、成長期が終わっているのか、私より背が高い。


 彼は、私がとりたかった資料をあっさりと手にして、「これできちんとあっているだろうか」と疑問を問いかけてくる。


 私は首を縦にふって、それをうけとるのだけれど、なぜだか彼はその場から退こうとしない。


 彼は小首をかしげて「おかしい。体が動かなくなったようだ。先生の傍から離れたくないみたいだな。一体なぜだろう」とそんな事を言ってくる。


 天然こわい。


 周囲に人がいなくてよかった。


 こんな場面を見られたら、あらぬ噂を立てられてしまう。


 彼に悪気がないところが、一周まわって質が悪いのよね。


「きっと、足がしびれたりしているのよ。私の方がここから退くから、ここでゆっくりしていってね」

「む? そうだろうか。おかしいな。何か違うような気がするのだが」


 お願いだから、一生真相には気が付かないで。






 そして最後の三人目。


 彼は大問題だ。


 この国では名前を知らない人はいないはずの、大企業の息子。


 お金持ちのお坊ちゃまだ。


 それなのに、なぜか普通の学校を通っている。


 そして、普通の学校生活を送っている。


 そんな彼も私に好意を抱いていて。


「先生、俺を見てください。こんなに素晴らしい服を見つけたんですよ!」

「そ、そうね」


 キラキラした服を着て、ターン。


 お金かかってそうな服だと人目でわかる。


 ところかまわずお金持ちアピールしてくるのが困ったところなのよね。


 おかげでこの生徒と回りの生徒との軋轢がひどい。


「またお金持ちアピールかよ」

「貧乏人の気持ちとか分からなさそー」

「金持ちってほんと目立ちたがり屋だよな」


 今の所、私の関心を引く事に夢中になっているから、まだマシなのかもしれないけど。


 このままだとまずい。


 ただの調理実習で、キャビアだのフォアグラだの持ってきて、みせびらかされたり、試食をすすめられたりしても困るのよ。


「お願いだから、あなたはもうすこし周りを見て、なじむ努力をしてちょうだい?」

「なぜだ? 俺は自分に出来る事を最大限して、皆を楽しませようとしているだけなのに。ついでに先生にも楽しんでもらえればなお良しだ」


 生徒に買収されて成績表で良い点数をつけているとか、生徒を贔屓していい物をもらっているとか、そんな噂を立てられたくないのよ。


 お願いだから、もうちょっとその家柄のアピールおさえて。








 はぁ、今日も疲れた。


 そんな問題児たちとつきあった後、平日の夜はもうくたくただ。


 家に帰ったら、全身に重りをのせられたようなダルさがやってくる。


「もう、他の学校に、他のクラスにかわりたい」


 新しい、クラスを担当して間もない。


 新しい教師生活をはじめて間もない。


 というのに、私の心は挫けかけていた。


 このままではだめだ。


 私は、自分に活を入れて、インターネットで色々と「できる教師のコツ」とかを調べ始めた。


 しかし、途中でお酒を飲んだからか、妙なサイトに向かってしまった。


 そこでは、自分の体質なるものを診断してくれるらしいが。


 何を血迷ったか、私はそのサイトの診断ボタンをぽちり。


 出てきた結果が。


「愛され体質?」


 これだった。






 あなたは、つい最近愛され体質になりました。


 異性から際限なく愛されるでしょう。


 この体質は一度目覚めたら、一生ついてまわるものなので、覚悟しておくのがよろしいでしょう。


 異性の間でトラブルが発生する可能性高くなるので、


 公平な判断を求められる職業には就かない事をおすすめします。







 教師になる前だったら、まるで信じなかった。


 けれどーー。


 教師としての日々を振り返る。


「せんせー。俺とつきあってよ」


「む? 今日は一段と可愛らしく見えるのだが、なぜだろう」


「先生、これを見てください。最高級の大理石でできた筆箱です!」


 あまりにもファンタジーすぎるが、なぜか妙にしっくりきてしまった。


 すると当然、言いたい事がある。


「遅いわよ!」


 判明するのが遅すぎる。


 どうしてもっと早く、分からなかったのだろう。


 教師になって、数日ですぐやめますとはいかないのに。


「途中でそんな体質になるくらいなら、最初からなってるか、最後までならないでいてほしかったわ」


 脱力した私はやけっぱちになって、その日は飲んだくれる事になった。



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愛され体質の私が先生になったら、男子生徒から愛されるようになりました 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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