第35話(ランス視点②)
・前書き
すいません、今後の物語の都合上、前回(34話)のサクヤ視点の話は変更する事にして一旦削除させて頂く事になりました。読者の皆様に混乱を与えてしまい本当に申し訳ございませんでした……。
――――
深夜。
元アリシア邸にて。
「ここの設備は……これで良し、と」
今日の夕方に、私はアリシア様の従者であるサクヤさんからこの屋敷の引継ぎと引渡しの全てをして貰った。
本当はこの屋敷の引渡しは明日行う予定だったのだが、しかし何やらサクヤさん宛てにアリシア様から急な連絡が入ったらしく早急に帰らねばいけなくなったとの事だった。
流石に詳しい事情までは聞いてないからわからないが……でも彼らに何も問題が無い事を私の方でも祈っておくとしよう。
(……それにしてもアリシア様とサクヤさんには色々と迷惑をかけてしまったな)
サクヤさんと別れの挨拶を交わした時も、当然のように兄についての話が出てきた。もちろん兄の処遇については我々の方でしっかりと調査を行った上で必ず厳重なる処罰を下していくとサクヤさんに約束をした。その報告をするためにもいつかはレイドレッド家に行く必要がありそうだ。
(まぁでも……今はこの設備を動かす事の方が先決だな)
という事で私は明日の朝からこのポーション薬の生産設備を稼働させていくために、私は複数名の部下と一緒に最後の設備点検を行っている所だった。
「ここの設備も……これも良し、と」
設備の動かし方自体はとても簡単なので動かせなくなるという事は基本的にはないだろうが……しかしそれでも念入りに準備確認をしておく事に越したことはないはずだ。
それに今この王都周辺に流通しているポーション薬の9割近くはこのアリシア様の屋敷で作られているポーション薬なんだ。
だからもしもこの設備が動かせずに再稼働をさせるのが遅れてしまうとポーション薬の供給が一斉にストップしてしまい……その結果として社会全体に大混乱を招いてしまう可能性だってある。
というかもう既に今現在の段階で一週間以上も設備が止まっている状態なので、周辺地域の中には既に供給が止まってしまってる領地もチラホラと出て来てしまっているんだ。だから早急に設備を動かす事が今の我々の使命でもあった。
「これで全て良しと。ふぅ、これで明日の朝からすぐに稼働させる事が出来そうだな」
という事で私は長い時間をかけて全ての設備点検を終えていった。これで明日の朝からポーション薬の生産をする事が出来るはずだ。そう結論付けた私はそのまま部下達と一緒に王宮へと戻ろうとしたのだが、しかし……。
「……うん? 何だこの音は……?」
しかしその時、屋敷の周りから何やら変な物音が聞こえてきた気がした。
それはとても小さな物音だったので気のせいかもしれないが……しかしそれでも注意しておくに越したことはないと思ったので、私はその物音がした方向の窓を開けてみた。すると……。
「なっ……も、燃えているだと!?」
すると……なんと屋敷の庭先に植えられているブルーリーフの木々がパチパチと燃え始めていっていた。
どうやら誰かが屋敷の庭先に侵入し、その庭先に植えられているブルーリーフの木々に次々と着火をしていってるようだ。という事は先ほどの物音はブルーリーフの木に着火した音だったのか……。
「っ!? ま、まずい……!」
その時、私は庭先に不審な人物を見つけた。どうやらそれは大柄な男のようだ。
そしてその不審人物はまだ燃えていないブルーリーフの木々に次々と着火しようとしていっていた。なので私はその不審人物を止めるために急いで庭先の方へと向かった。
◇◇◇◇
「おい、こんな所で何をしているんだ?」
「っ!?」
庭先に植えられているブルーリーフの木々に着火をしている男に声をかけると、男は驚愕とした態度を取りながらも急いでこの場から逃げだしていった。
「おい、逃げられると思うな! クルス!」
「はっ!」
私はその不審人物が逃げようとした瞬間に部下のクルスの名前を呼んだ。するとクルスは内ポケットに忍ばせていた投げナイフをその不審人物の足に目掛けて投擲していった。
「ふっ!」
「え……って、グギャアアアア!?」
その投擲された投げナイフは不審人物のふくらはぎに突き刺さり、そしてその不審人物は痛みに耐えきれずにそのまま地面へと倒れ込んでいった。
私は急いでその倒れ込んでいる不審人物に近づき、その者が一体誰なのか確認していった。するとその男は……。
「お前は……便利屋の店主か……」
「ぐっ……うぅっ……」
するとその男はこの街にある便利屋の店主だった。
便利屋とは所謂“裏稼業”のようなモノだ。高額な金さえ渡せばどんな犯罪めいた事でも遂行してくれるという……まぁ名前の通り便利な事をしてくれる店の事だがもちろん違法の店だ。この街にはそんな“裏稼業”の便利屋が何店舗か存在している。
そしてこの不審人物の正体は王都の裏路地でひっそりと経営している便利屋の店主だった。名前はスルト・レーベン。元々は凄腕の冒険者だった男で、周囲からは非常に尊敬もされていた人格者らしい。
しかしスルトはある日に魔物との戦闘で大怪我を負ってしまい、そしてそれが原因となって冒険者は引退していった。その後は色々と荒れた生活を送っていたらしいが、最終的には便利屋となって金持ち相手に色々と汚い仕事を高額で引き受けるというような最低な男にまで成り下がった。
「お前がここにいるという事は……なるほど、それではもしかして兄上からの依頼か……?」
私はスルトを睨みつけながらそう尋ねていった。
このスルトが経営している便利屋はあまりにも高額な報酬金を要求する事で有名だった。なのでこのスルトに依頼を出せる人物というのは極少数の人物に限られてくる。大金をぽんと出せる人物なんてかなり地位の高い者にしか無理だからな……。
「おい、答えろ! 依頼人は一体誰なんだ!」
「う……ぐぐっ……さ、さてね……」
私はスルトに対して“今回の依頼人”が誰なのかを尋ねてみたのだが……しかしスルトは何も答えずにうずくまったままだった。
「くっ……どうしたものか……」
本来ならば私はこのまま尋問を続けていってでもスルトの雇い主を聞き入れるべきなのだが、しかし……。
―― ゴオオオオオオオッ!!
しかし私はスルトに対して尋問をしている場合ではもうなかった……屋敷の庭先に植えられているブルーリーフの木々にどんどんと火が燃え移りだしていっている。
「……まずいな……」
このままではものの数分でこの屋敷は火の海と化すだろう。しかし私と数名の部下しかいないこの状況で今から消火活動をするというのは到底不可能だった……。
こうしてこの日……この瞬間をもって、この王都でのポーション生産及び流通の全てが完全に止まってしまう事となってしまったのであった……。
そっちから婚約破棄したくせにやっぱりお前と結婚してやるから早く土下座して謝れですって? tama @siratamak
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