第46話 エンディング 表彰式

「緊張してるか? 」

「そうでもないかも」

僕は授賞式用の正装で廊下をスックと歩いた。首にはスカーフ、白い麻と綿地のオーバーサイズトップスとボトムはサルエルパンツ。足首は出ていて靴は一見スポーツサンダルのようなデザインだ。

僕らの祖先が地球外に出て、移民船内で住を構えて一番困ったものが、衣類の布製品だった。

移民船内の初期当時、何十年もこのようなプレーンなデザインの服装だった。この服装が式典などで着られる僕らの正装になった。

 「…ヘンな格好だな」空中を移動しながら横目でチラリと一瞥した彼は言った。

彼はカイヤナイトの正装を見たことはあまりないのでいつもこの感想だ。


白い廊下の左の部屋の入り口に受賞者控室の文字があった。入る前に

「今日はグレイティントも居るけど、彼とケンカしないこと」

「フン。分かってる」

じゃ、と僕が先に控室に入って、すぐ目の前、壁側に今年の受賞者がそれぞれ座って待機していた。

ティーローズとブリックベージュは近くで談笑し、僕を見つけるとティーローズは僕に手を降った。控室はほぼ全員揃った感じでライトプラチナもひとりで椅子に座っている。部屋の後方を見やるとピーコックブルー、マスタードも居た。

スックは入室してすぐ、ライトプラチナの所に飛んでいった。

入り口から対角線上の部屋の後方にプロンという執事と伴にグレイティントが場所を陣取っていた。

むこうも僕に気づいたので手を軽く揚げて挨拶してピーコック達の所に移動した。彼は僕にアゴあげて返答した。


「今年はほぼ高速機希望者になったな」

挨拶もそこそこにマスタードが話しかけてきた。

「やぁ」

「飲み物いるか?」

「水がある」


「オい。ペールイエローは?ピーチブリスやライムもいない」スックがライトプラチナの所から飛んできた。

「お前その格好おしゃれだな」ピーコックブルーの正装をみてスックが珍しく褒めた。

ピーコックはハーフアップにしたヘアスタイルに簪のようなヘアアクセサリー、首にはグレー色のごく薄いシルクスカーフをふわりと巻いていた。

式典のホワイトべージュの正装カラーに良く映えていた。

正装が簡素な印象の出で立ちなのでそれぞれ個性的にアレンジしているアクセサリー類でおしゃれな出で立ちになるのを初めて知ったようだった。


「ライムは腹痛で欠席だ」マスタードが答えた。

「ピーチブリスはすぐ来るよ」


 『上位受賞者はもうすぐ写真撮影があります。控室前方に移動をお願いします』というアナウンスがあり

それと同時に入り口から飲み物や軽食をワゴンで運び込む給仕係が数名現れた。急に慌ただしい感じになり、室内も食べ物の匂いに包まれた。

部屋前方に椅子が設置されていてそこに指示があるまで待機ということになる。別室の入り口からフラッシュの光が漏れているのでまず個人写真を撮り。上位3名の集合写真のようだ。

「カラト・オーギュスト・ドミニクアングルさん…シーグラスさん居ますか? 」別室入り口から撮影スタッフと案内係の声がした。

「行ってくる」みんなに告げてすぐ僕は移動した。僕は案内係に近寄ってから返事をした。

「こちらへ」と手早く撮影室へ誘導された。


「受賞おめでとう」

「本日はおめでとうございます」

この瞬間から今日一日この言葉ばかりなんだと改めて痛感した。

撮影中ずっと言われたからだ。

何ポーズか撮って、こちらでと白い壁の前に案内された時にちょっと驚く事があった。

「おめでとうございます」

先程椅子に座って撮影したその椅子に。スックが座っていた。

彼は何ショットか撮って終わると、彼の希望らしくこの場所で一緒の記念撮影を撮った。

僕らが退出と同時にグレイティントと執事が一緒に入室してきた。入り口出口は別のようだ。

すぐ上位3名の集合写真があります。こちらで着席の上お待ち下さい。テキパキとした案内係に導かれ椅子に座ると。

「おめでとう。シー」とティーローズが声をかけてきた。

「やぁティーローズ。来週から同じクラスだ」

「そうよ。私がんばった。このクラス絶対取りたかったから」

「おめでとう。シー」ブリックベージュも撮影の順番待ちの椅子に座ったまま声をかけてきた

「ブリックベージュ、おめでとう」彼を見たらちょっと笑いがこぼれそうになるのはあのコンテスト時の面白い顔を見たせいだった。

「こちらへ」頭上から案内係の声が聞こえてきたと同時にグレイティント達が退出してきた。それと入れ替わりで先程出てきた撮影室にティーローズが入室していった。

ちょっと僕らの間に沈黙が続いた。ライトプラチナが席を立ってこちら側にやって来た。ブリックと話し出した。

僕はスックの様子を見た。あんの上、グレイの頭上から彼を見下ろしていた。

イカ、どいてくれという目線でグレイは彼を見上げた。フン。と荒い鼻息で彼は僕の左横にやってきた。

「おめでとうございます。大躍進ですね」と椅子数個分離れて座っていったプロンがこちら側に身を乗り出して話しかけてきた。

「ありがとう」彼に関しては今日は何も言わないようにするのがベストである。

勝負はもう始まっている。新学年が楽しみで仕方ない。



「総合上位3名の集合写真に入ります」


白い壁に金色の刺繍模様を前に僕とグレイティント、ティーローズが並んだ。

数ショット撮ると、学園の本式撮影用、ヴィエクル科用と撮影が続き、やっと終わったかと思うと、地元のメデイアのカメラマンがどっと入室しきて

「目線くださーい」の大合唱だった。

数台の空中無人撮影機も飛んで来た。

このあとの受賞式典以降は写真撮影がないというのが分かる。


カメラフラッシュに当てられて控室に戻ったらフラッシュ残像でクラクラした。ティーローズが僕の腕に手をかけてきたので、彼女を椅子に誘導した。程なく僕も横に座った。

「新学期の事を考えると嬉しくて眠れないくらいなの」

僕は彼女の言葉に顔をあげて彼女の横顔を見た。

「…僕もだよ」

「やっぱり?」と目線があって笑いあった。



グレイティントはすぐ控室後方に移動した。在室の受賞者みんな彼を目で追った。

地元メディアのカメラクルーも別室から退出する時みんな彼を一瞥して出ていった。

撮影が終わったブリックが出てきた、ティーローズと3人で高速機フォスフォラス飛行のあるある伝説で盛り上がった。



         □

カラトオーギュストドミニクアングル

ダミアンフーベルトファンデルウェイデン

フローラミュリエルハマスホイ

コンテスト順位の順番で名前が呼ばれた。


 ラヴェルのマメールロワが流れる壇上に3人は入場した。

僕を真ん中に右にティントグレイ左にティーローズが整列した。


学園理事、ヴィエクル科教官長、デザイン科のゲートを模したアクセサリーの載ってる盆を持つピンクリザード教官が後から入場してきた。

ピンクリザード教官は2メートル超えのゴールドピンクに輝く鱗の人爬虫類の教官でその容姿はとても目立つ。

初見である式典の参列者からホウとため息が漏れた。

僕の顔の横にはスック。


祝福の言葉とともにそれぞれの生徒が予め発注していたアクセサリーを順位順に受け取った。

僕は指輪。グレイティントは毎年通りピンバッチ。ティーローズはピアス。

その次に順位通りに送られるのはヴィエクル科のライラックニシブッポウソウが翼を広げたゴールドメダル。

首を曲げて学園理事にメダルをかけてもらう瞬間、僕の視界に入ったメダルがひかり眩しかった。

教官長のおめでとうとともに胸がいっぱいになった。教官長はスックにもおめでとうと言った。


3人のメダルが首にかけ終わり、全員が前方の参列者に顔を向けると会場中から大きな拍手が起こった。



来賓や式典主席の人の顔がちょっとずつ見えるようになり僕は笑顔で3回生を終えた。

 

                                     END






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創造のスペクトラム 鈴香 早緑子 @TENPRA-123

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