第45話 空の主
ニット鳥は羽の部分が名前の通り編み物のように組まれた不思議な見た目の鳥で惑星オンブレの在来種だ。
長い長い尾が特徴で飛び去る時、近くにいると鞭のように尾っぽが当たって痛いので注意が必要だ。
性格は温厚で全ての鳥に見られるように繁殖期以外は近寄っても攻撃されない。まるで僕らを驚異でもなんでもないよとその風体で言いたいような堂々たる態度であるがあまり人類種と仲良くならないのが定説のようだ。
コハンに滞在している学生の記念画像に良く映り込んでいるが、昔からの教官や講師の人は、ニット鳥は半世紀程でだいぶ高く跳べる様になっておりその内成層圏まで飛んでいけるのではないか?と思っている人がいるそうだ。
この在来種についてはあまり知識がないカイヤ人にとっては憶測の範囲を超えないが、他星系で見かけるスレイベルや他の宙域生命体、そしてスックも元々はどこかの惑星の在来種であり、進化して宙域を住処に出来るように進化した事が分かっている。
それを踏まえるとニット鳥も宙域飛び出して行ける可能性もあるとカイヤ人は憶測を漏らした。ただそれはありえないとみんなこの答えに行き着いた。
「シー、後で女子塔に来い」とゼラにも声をかけられた。僕はどぎまぎしたが、正確には女子塔の前の大広間だった。
久々に見たゼラはとても美しく、いつも違う服装でまたその印象が際立った。美しい。ありていに言えばそうなんだけど、この感情を認めながら彼女と面と向かって話しをする事に慣れてない僕の態度がことの他ヘンに映っただろう。
要するに照れてしまって、僕はぎこちなくなった。
当然だけど、この人もいたな。とソファに腰掛けた、ゼラの背後から飲み物を持って現れたのは、あのジンクだった。
「シーグラスさん、この間は楽しめましたか? 聞きましたよ。一位ですね。おめでとうございます」
「えっ…一位決定ですか? 」突然告げられて魔の抜けた返事をしたなと思いつつ
そうか!クマデとここまでの移動と準備で昨日から、正確にはおとといの夕方から、個人端末のメッセージ全然読んでなかった、という事を思い出した。
ジンクはテーブルに飲み物を置きながら、
「グレイティントは失格だ」ゼラが言った。
この事についてもう散々論議したのだろう。2人の間に少なからず疲労が見える。
「身内の恥だが、グレイについては制裁が必要だった。当然あの事を繰り返してくるのは目に見えて分かっていたからだ」
「ええ」僕はここにスックが居なくて良かったと安堵した。彼の個人的見解で話しが長引くのは目に見えるからだ。
「参加用の機体の改良がある一定範囲を超えていたんだ。もうこの段階で首根っこ掴んでねじ伏せなけれいけなかった」
「あと、看過できない事が他にもあってな3回生でこれだと、もうこの後がな」
ゼラはソファの背もたれに身を預けた。弟の事で疲弊仕切った様子が目に見えた。
「……遅いくらいですよ」つい本音が出てしまった。僕は今までグレイティントへの見解はおおっぴらに吐露しなかった。
身近に本当に嫌っている者もいたし、集団の中で違反する者を罰してない事はそこに理由があり、その者に気づきをまず促したかったのだろう。未成年の集団生活ではそのような態度になるのは理解できた。本人への気づきの環境は本人への嫌悪の感情と態度からばかりでは好転しない。
「そうなんだ。あの年ならではの悪趣味なやり方だ。錯覚しているんだよ」ゼラはため息をついた。彼女の本音を聞いた気がした。
サテライトに居たのは、グレイを見張っていたのか?
「あの時、あったのはグレイの事でですか? 」
「ああ、そうだよ」とゼラは即答した。
「あの取材番組は不正を暴く意図があったからですか? 」
「それもあったが、別の意図もあったんだ」
「でも、グレイがまんまと取材に答えたのは傑作でした」身内の前で不謹慎ながら、吹き出してしまった。
「そうなんだ」ゼラも僕につられて吹き出しながら
「あのバカ、まんまと取材に答えて、自分の機体を撮影されてるんだ。カメラの向こうにごまんと自分の不正を見る目の存在に気づいていない」笑いを堪えながら肩を揺らし、ニヒルに笑った。ソファにの背もたれに身を預けて天井を見上げたゼラはため息をついた。
「いや、やはり15才だよ」
そのまま背もたれに身を預けたまま、顔だけこちらを向けた数秒僕を見つめ、またゼラは言った。
「……アイツがお前の考えの半分でも持っていてくれたらと思うよ」
「コンテストの結果はどう考えてるのですか? 」
「今までの成績を無効にしてやりたいところだが、そうも行きそうにないんだ」
「でしょうね」
「こればかりはな。ここは学園だ。私だけの一存では決められない。まぁ、グレイの性格を考えたらこれがいいのかもしれん」
「不正を暴いた分、今後、彼への抑止になると思いますか? 」
「どうだろうな? 」
「今回の事で彼は気づくでしょうか? 」
「どうだろうな? 」
「あの成績で7セブンのクラスを希望しない訳はないでしょう。みんな納得するとは思いません」
「そうなんだ。ますます孤立するな」
「まぁ、だが案ずる事もないさ、みんな見てる。私もな」
「シー、お前も7セブン希望だろ? 」
「はい」
「合格おめでとう。私は来年のセブンの実務訓練の教官補佐を担当する」
「ゼラはどこか他の星系で身を建てるのかと思った! 」僕は驚きのあまり声が大きくなった。
「おまえ、どういう見解だ? 私をなんだと思っている? 」
「他星系の海賊どもをもをなぎ倒し、制圧してそこで一大事業を興す」クラスのウワサのひとつを本人、目の前に僕は披露してみた。
ゼラは僕を薄目凝視したまま無言だった。
ピンクと紫色の光がずっと広間を照らし、心地よい風が吹き抜けた。
新学年度が始まる。
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