第5話 我儘勇者×被害者意識聖女「なんで私ばっかり」
泉の精が馴染みのセリフを問いかける前に、勇者は声を上げた。
「なんで一人しかいないんだよ!」
【選択の泉】の上、通常なら泉の精の前に複数人並ぶはずの、聖女そっくりな聖女たちがいない。
泉の精の前には元の聖女が一人いるだけだ。
「簡単な話です。
『選択の泉』は、異世界を股に掛けるマッチングシステム。あまりにも多い婚約破棄に心を痛めた神々から作られた。
事前に申請することで、異世界や並行世界から候補者が集められ、選択者が選択した相手の世界に行くことになる。その空いた隙間に別の人間を喚ぶ事ができる。
パートナーに不満があるほうが事前に申請してから【選択の泉】に落ちるのだが、成り代わりたい者がいないと候補者は現れない。
「皆様、お断りされまして」
「おかしいだろ! 前はもっといたはずだ!」
「そうですね。しかし、さすがにこうも続くと、皆様、自然と察したみたいですよ」
「ぐっ」
この勇者、少しでも聖女のことが気に入らないと【選択の泉】に聖女を突き落としていたのだ。
事前申請がなかったため、最初は全異世界中の聖女が泉に現れた。
勇者はそこから自分好みの聖女を選んだ。
そしてイメージと違っていたり飽きたりすると同じように突き落とす。
そんなことが何度か続くと、各異世界の聖女だって自衛する。
「あの勇者の元には絶対に行きません!」と勝手に喚ばれた聖女たちは【選択の泉】に事前申告するようになった。
「俺はコイツとだけはイヤなんだよ!」
勇者が聖女を指したことで選んだ判定となり、聖女は口がきけるようになった。
「私だってお断りよ! いっつも文句しか言わないんだもの!」
「お前だって同じだろ? 『私って不幸』って、メソメソしているだけじゃないか!」
泉の精は『似た者同士』という言葉が浮かんだが、口にしたのは別の言葉だった。
「世界を救えば勇者聖女から解放されますよ。頑張ってくださいね」
しかし勇者も聖女も相変わらずで、結局その世界は滅んでしまった。
このことは泉の精から【選択の泉】を作った神々にも報告された。
「良かれと思って作ったんじゃがのぅ」
神々はため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます