第3話 獣人勇者×JC聖女「毎日楽しい!」

「私の聖女」


 【選択の泉】の上に現れた泉の精が馴染みのセリフで問いかける前に、耳を立てぶんぶん尻尾を振る獣人勇者は、とろける笑顔を浮かべて聖女の手を取った。


 泉の精の前に並んでいた聖女と同じ顔で同じ服を着たクローンのようにそっくりな聖女たちは、選ばれた聖女を残してすぐにかき消えた。


 【選択の泉】は、異世界を股に掛けるマッチングシステム。


 希望すれば候補者が集められ、選択者が選択した相手の世界に行くことになる。そして空いた隙間に別の人間を喚ぶ事ができる。


 選んだ相手が元と違っても、元からその人間だったと神々から思わせるようになっているので、誰を選んでも問題ない。 


 つまりのだ。


「なんでわたしを選べるの! 前は匂いでわかったって言うから、今回は無理を言って、同じシャンプーやセッケンを渡して使ってもらってたのに!」


 獣人勇者は聖女の手を、そっと口づけるように近づけた。


「こんなに良い匂いは君だけだよ」


 全速で自分の手を取り戻した聖女は、泉の精に泣きついた。


「またお願いします!」


「かまいませんよ。ただ、こちらのかたが諦めるとは思えないのですが」


 この獣人勇者は、最初の【選択の泉】で百人以上いた聖女の中から本人を選び抜いていた。


 「明らかに似ていない聖女もいたからよ!」と、聖女は候補者を自分によく似た聖女に絞ったが、それでも五十人近くいる中から獣人勇者は本物の聖女を選んだ。


 そして今回、匂い対策もして挑んだのだが、迷うそぶりもなかった。


「わたしだってあきらめません! こんなのわたしの世界じゃストーカーです!」


「聖女のことを愛しているだけなのに」


 しょんぼりと獣人勇者の耳と尻尾が垂れる。


「わたしが会う相手をいちいち面接しておどすのが? 外出も制限して、どうしても仕方ない時は必ずつきそうのが?」


「ちゃんと勇者聖女として世界平和のために働いてるよ? 大事なつがいは家に閉じ込めて誰にも見せたくないのに我慢してるし」


「当たり前よ! わたしまだ14歳なの! 家にとじこもる年齢じゃないんだからね!」


「さ、早く世界に平和を取り戻しに行こう? その後は……ね?」


「監禁はいや!」


「旅に出てもいいよ」


「本当?」


「もちろん。どこでも行きたい場所に連れて行ってあげる」


 にっこり頷く獣人勇者に手を引かれて若い聖女は帰っていった。


 その後。


 世界が平和になった後も世直し旅をする2人は各国で褒め称えられた。


「勇者との旅、楽しい」


「ふふ良かった。ほどよく成長したし、そろそろいいよね?」

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