第4話 執着勇者×婦警聖女「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪……」
「君だ」
泉の精が馴染みのセリフを問いかける前に、勇者は愉悦の笑みを浮かべて聖女の手を取った。
並んでいた聖女と同じ顔で同じ服を着た聖女たちは、選ばれた聖女を残してすぐにかき消えた。
【選択の泉】は、異世界を股に掛けるマッチングシステム。あまりにも多い婚約破棄に心を痛めた神々から作られた。
希望すれば異世界や並行世界から候補者が集められ、選択者が選択した相手の世界に行くことになる。その空いた隙間に別の人間を喚ぶ事ができる。
選んだ相手が元と違っても、元からその人間だったと神々がつじつまを合わせてくれるので、誰を選んでも問題ない。
つまりパートナーに不満がある方が【選択の泉】に落ちるのだが、再び選ばれてしまうとパートナーを変えられない。
「なんで毎回私を選べるの? みんな同じなのに……」
選ばれた元の聖女は恐怖に顔を引きつらせた。
「君は特別だからね」
ねっとりと指をはわせる勇者から、ひぃっと自分の手を取り戻した聖女は、泉の精に泣きついた。
「またお願いしたいんですけど!」
「かまいませんよ。ただ、貴女のご希望に添えるかは保証できませんが」
「希望に添うまであきらめません! こんな粘着質な執着はノーサンキューなんです! 私の世界じゃ通報案件ですから!」
「ひどいなぁ。私は君のことを愛しているだけなのに」
「私が対面した相手に手をまわして二度と近づけなくするのが? 数少ない貴重な知り合いだったのに! 成人女性の外出を理由なく止めたり、外出時も必ずつきそって行動を制限したりするのは立派なモラハラです!」
「これでも譲歩してるんだよ? ちゃんと勇者聖女として世界平和のために働いてるじゃないか。早く誰にも見つからない場所に君を監禁して抱きつぶして私だけのことしか考えられないようにしたいのに」
「はいアウトー! 泉の精さま、救済処置をお願いします!」
「わかりました」
聖女の訴えを真摯に受け止めた泉の精は、【選択の泉】を作った神々に話を持っていった。
※
「しかし溺愛と変質的な執着の区別が難しいぞ」
「育つまで待つ光源氏タイプもおるからのう」
「ふたつの違いは『お互いが幸せかそうでないか』でしょうか?」
「それにしたって、長年の間にほだされることだってある」
「あきらめることもありますよね」
「どちらかを勇者聖女の立場から離したらどうじゃ?」
「
話し合いの末、今回は勇者と聖女を反発する存在にして、同じ世界で出会えないようにしたが、世界平和をもたらした勇者の願いは聖女との再会で、問題は解決しなかった。
「こうなっては従来通り婚約破棄した方が良いのでは?」
「そもそもあの二人は婚約しておりません」
「あの執着から逃れるには逆行しかないんじゃないか?」
「二人が出会う前まで逆行して真人間になるよう促すとなると、それこそ執着されるのでは?」
「そこはうまいことやってもらえば」
「あの聖女にはもう、そんな精神的余裕は残っていませんよ」
勇者は時間をかけて外堀を埋めたため、世間の認識は「健気で一途な勇者」となっており、聖女が「実際は違う」とうったえても聞いてもらえず、むしろ「いつ結婚するのか」「そろそろ意地を張るのもやめたらどうだ」とさえ言われるようになり、聖女は精神的に追い詰められていた。
「異世界からわざわざ来てもらって世界を救う手伝いをしてもらったというのに、これではあまりにも
「根本的に、召喚する聖女か、勇者自体を変えたらどうじゃ?」
「あの世界でのあのタイミングでは二人の存在が必要で、【選択の泉】ですり替えるならともかく、まったくの別人に変更することはできん」
「もし聖女が変わっても勇者が新たな聖女に執着を持ったら? それに勇者じゃなくなっても誰かに執着して同じことをしたらどうする? 勇者や聖女じゃなければ我らも見逃す可能性が高くなるぞ」
「今の段階でも候補になりたい聖女がいるということは、あの勇者にも需要はあるということ。根気よくマッチングすれば、いつかはあの聖女からターゲッティングも外れるのではないか?」
「それまであの聖女が壊れず状況に耐えられるといいですが……」
「うむぅ」
結局、さらに数回【選択の泉】を使用したものの、勇者は聖女を選び抜き続けたため、病んだ聖女の記憶を大幅に消した状態での逆行となった。
それでも聖女の希望していた未来に至るまでには、さらに数回のやり直しが必要だった。
「やれやれ。世界を救うよりも聖女を救うほうが大変だったとはのぅ」
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