泉の精は言いました。「勇者(あなた)が落としたのはどの聖女ですか?」
高山小石
第1話 流され勇者×箱入り聖女「やはり勇者様は強い意志をお持ちでないと!」
聖女が泉に落ちると泉は輝き、泉の精が浮き上がった。
泉の精の前には、ずらりと十二人の同じ顔で同じ服を着た聖女が並んでいる。
「これはもしや噂に聞く【選択の泉】か? それにしても
勇者は両端の聖女を指した。
両端の二人は服がはち切れんばかりの筋肉聖女とグラマラス聖女だ。
「それは
「そ、そんなのわかりきっている。オレの聖女は……」
勇者は残り十人の聖女を見るが、十人はほとんど変わらない。
(強いて言えば髪型が若干違う、か? 化粧も……って、そんなの覚えているもんか!)
勇者は片手を挙げ「すみません。ヒントお願いします」。
「良いですよ。聖女よ、貴女のお好きな花を教えてください」
十人の聖女はそれぞれ答えた。
「白ユリは思い出の花。いや、ピンクのバラも喜んでいたな。でも、ヒマワリ畑もラベンダー畑も好きだって言ってたし」
「その四人の中から選びましょうか」
「う。追加のヒントお願いします」
「そうですねぇ。勇者は聖女になにを聞きたいですか?」
「オレのことをどう思っているかで!」
無表情で「好きです」。
ため息に続けて「キライ」。
ニヤニヤして「あったま悪そう」。
恐ろしそうに「人前ではとても口にできません」。
「え。これ『好き』で正解?」
「ファイナルアンサー?」
「ううっ」
勇者の視線がグラマラス聖女に向いたのを、泉の精は見逃さなかった。
「他の聖女にも質問して良いのですよ?」
「じゃあ、両端の聖女に聞きます。オレのことどう思っていますか?」
鼻で笑いながら「弱そう」と、筋肉聖女。
「おいしそう」
グラマラス聖女の蕩けるような微笑みに、勇者はぐらりと傾いた。
すかさず泉の精はアドバイスする。
「『選択の泉』で選んだ相手は、元の聖女と違っていても、元からその
「え、それって」
「明らかに違う相手を選んでも良いのです」
勇者の心は決まった。
勇者がグラマラス聖女の手を取った瞬間、勇者とグラマラス聖女はかき消えた。
一瞬後に他の聖女候補たちも消え、選択の泉には元の聖女と泉の精だけが残った。
「泉の精さま、ありがとうございました。これで勇者様を選び直すことができます」
【選択の泉】とは、異世界を
王族、勇者、聖女など立場的にパートナーを変更しにくいはずなのに、あまりにも多い婚約破棄に心を痛めた神々が作ったシステムだ。
世界には自分と同じ顔をした人間が三人いるのだ。異世界や並行世界まで含めば、その数は相当数にのぼる。
事前に申請しておけば候補者が集められ、選択者が選択した世界に行った隙間に新しく入れられる。
「うまくいって良かったですね。新しい勇者はこちらから選んでくださいね」
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