第13話 手紙

独活山うどやまの元に1通の封筒が届いた。差出人は前回と同じタイガーメディアだったが、前とは異なり担当の名前が記載されていた。



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 独活山様


 貴方が携わった一連の事件が終わりました。貴方には知る権利があるので私が持つ情報を共有します。


ことの発端は、私の兄と、兄の友人であった中野辺なかのべさんが暴こうとした警察の闇、Cリストの存在でした。警察が某国から賄賂を貰い犯罪を黙認している、その対象となる人物の情報がCリストの中身です。兄らはその一部を手に入れましたが、弟である私がCリストの管理者の1人の丁田に拉致されてしまったことにより、リストの公表に至りませんでした。拉致と言っても実際には兄が警察に保護されていると聞かされ、倉庫でずっと待たされていただけでした。

そして貴方も知る2010年の喫茶店で起きた発砲事件に繋がります。中野辺さんは私と兄を守ろうとして自ら命を断ちました。それにより兄は逮捕され、脅威が去った為か、私は解放されました。


何も知らない私は、兄が友人を撃ち捕まったと聞いても信じられませんでした。そして独自に調査を始めました。兄の友人であったはなぶささんも同じように兄の冤罪を信じていた為、2人で協力して調査を始めました。


何も持たない私達の調査は難航していました。そんな中、兄が捕まる前最後に訪れた東京大仏を調査していた私に住職の方が声をかけて来ました。私が捕まった米山の弟だと知ると兄からの手紙を渡してくれたのです。それは簡単なメモでした。内容は、Cリストというキーワード、敵が警察内部にいるということ、誘拐犯は警察という3つだけです。この情報を調べる為に英さんは2年かけて警察官になりました。


内部に入ってわかったことですが、喫茶店事件は警察内でもタブー扱いをされておりほとんど情報を得る事は出来ませんでした。しかし当時を知る人からの話で、取り調べで酷い暴力があったことを知ります。当時の私たちは取調官はCリストの犯人とグルだと考えていました。そして裁判でほぼ証言させなかった国選弁護士、つまり貴方も敵だと考えていました。そこで私たちは貴方と取調官であった仏原ほとけはらを使ったあの事件を企てました。


まずは仏原を拉致して、ゲームへの参加を強要しました。従わない場合には人質を取るつもりでしたが驚くことに彼は事件の真相を知ると、罪悪感からか我々に協力してくれると約束しました。彼への指示は1つでした。


『弁護士の男が、NGワードを言ったら撃て』


この事件の狙いは、あなた方を殺すことではなく兄の敵を誘き出すことでした。だから兄の事件と似たような状況さえ作れれば良いと考えていたのです。想定外だったのは仏原が自害したことでした。彼はそれだけ大きな罪悪感を持っていたようです。


その甲斐あって、この事件を秘密裏に調査を進めようとする人物が浮かび上がりました。それが丁田です。しかし彼は実働部隊であり背後にいる人物の正体が掴めませんでした。そこで私達は丁田と直接対決することにしました。

まずは私たちがCリストを含む情報を何でも知っている思わせることに注力を注ぎました。そしてリストが改竄されているという嘘と、目の前で相手の伏兵を無力化する事で、私たちを早急に対処しなくてはならない脅威であると印象づけました。

更に金銭が目的であると主張する事で油断させ、その結果丁田はまんまと黒幕の香川警視長へと連絡を取りました。


Cリストを見つけたとしても握り潰されるだけということはわかっていました。それ故に私たちは黒幕を殺害するという選択を取りました。


この一連の事件はあるメディアを経由して全ての情報を警察に提供しています。警察では今、一連の事件とCリストを調べる対策本部が動き出しており、既に実行犯であった丁田とその部下数名も検挙されています。この手紙を受け取っている頃には、私も英さんも捕まっているはずです。


巨悪を倒そうという意志は、亡き兄と中野辺さんから始まり、私と英さんを経て今や全国に広がっています。一部の某国の要人が逮捕され国際的な話題にまで発展しています。

しかし私たちが至らずに多くの犠牲を出してしまったのも事実です。独活山さんにも多大なる迷惑をお掛けしてしまいました。本当に申し訳ございません。

そして何より、独活山さんという常に潔白だった人が居たからこそ動いた力があります。それは貴方の方が詳しくご存知ですよね。


この後、独活山さんの無実はすぐに証明されるはずです。3年半という長い時間を奪われながらも信じて行動してくれたこと、心より感謝致しております。ありがとうございました。



追伸 NGワードは『私は悪くない』でした


             米山 伯弥


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手紙を丁寧に封筒へ戻し、窓の外を見た。清々しい冬の晴天が小さな鉄格子の隙間から垣間見える。私は弁護士を目指した当初の気持ちを思い出していた。秩序が守られる良い国にしたいという、素直な願いが思いがけない形で達成できたことに気がつき、くすりと笑ってしまった。


数週間後、手紙の通り無実を証明する証拠が提出された。監視カメラが無かったはずの、あの喫茶店の映像がどこからか提出されたそうだ。


こうして私が巻き込まれた奇妙な事件ゲームは唐突に終わりを迎え、私は不思議な満足感を持って日常へと帰っていった。



 『喫茶店ゲーム』 終

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喫茶店ゲーム 毛布 巻男 @mofu_love

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