悲運の主人公、その行く先は幸福か否か

愛する人のために死ぬ運命を背負った主人公・ルカ。不可避のものと思われた運命が、悲運の女神に「惚れる方向で気に入られる」というイレギュラーによって、徐々に捻じ曲げられていく――。

この悲運が、並大抵のものではないところが、個人的に推せる面白いポイントです。

子爵家子息という身分にも関わらず、贅沢はできず野良仕事に勤しんでいた、という前提からして既に微妙に悲運なのですが、それだけではありません。
まず、彼の言うことを、ほとんどの人が絶妙に信じません。大小の差はあれど、初対面ではまず聞き入れられませんし、極端な例では話が通じない(意図が伝わらない)こともあります。(ヒロインのリィナも、彼女自身の固定観念から話が通じないときがあります)
また、行く先々で必ず、一度は障害にぶち当たります。スラム生活や捕縛など、およそ普通に生きている人間が一生に一度経験するかしないかの悲運を一身に受けています。

それでも、そこに陰鬱な印象やネガティブな雰囲気を感じさせないのは、主人公の性格と、明るい語り口の成せる技でしょう。
この絶妙なバランスが、私が物語に引き込まれた要因であったと思います。

死の運命を覆せるのか、覆せないのか。それとも敢えて覆さないのか。
続きがとても楽しみです。

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