大総統閣下! ダンジョン配信とかどうです!?

サイリウム

ダンジョン配信ってどうやって電波届けてるんだろうね




悪の秘密結社。日曜日の午前中にテレビへと目を向ければ何度も目にする存在。ほんの十数年前までは単なるフィクションだったそれは、とある科学者が生み出した物質によって現実へと叩き落された。


通称、【怪人因子】。


人体に打ち込むことで驚異的な変化をもたらすソレは、国が規制するよりも早く世界中に出回ってしまった。たった注射一本で人間をはるかに超える身体能力を得ることができる。しかもそのレシピは驚くほど簡単であり、一定以上の知識と材料さえあれば簡単に生み出すことが出来てしまった。そして、その改造も。


最初、第一世代と呼ばれる怪人たちは見た目の変化も人間の範疇に収まり、その能力と言うのも簡単な身体能力の強化程度であった。しかしながら欲深き人間はその程度では止まらない、より強き力を求めるために改造を重ね、他の動植物の要素を体に取り込むことに成功した。これが、第二世代。狼人間や蜘蛛人間、それまでのフィクションがより現実へと近づいた瞬間だった。


力を手に入れたものは徒党を組み、研究者を抱え込み、より強固な改造を求め始める。これがこの世界において"悪の秘密結社"が生まれた経緯だ。


最初は地元のヤクザ・暴走族程度の小規模グループであったが、時間経過とともにその規模は大きくなり、複雑化していく。統制を取るためにより高度な組織化を図っていくことで、より"悪の秘密結社"らしくなっていく。いつの間にか日本は、各県に一つ以上の秘密結社が跋扈するという時代。"秘密結社戦国時代"へと変貌を遂げていた。



そんな秘密結社の一つ、N県における支配を確固たるものにした組織。『アルタイル・カンパニー』ではとある幹部が意見具申を行っていた。




「……大幹部よ、もう一度発言の許可を許そう。最初から、な?」




真っ黒な軍服に身を包み、魔王のために用意されたような椅子に座る白髪の女性。その長髪と整った美貌から一瞬女神のように見える彼女ではあったが、全ての者に恐怖を与える真っ赤な瞳がそれを否定する。この秘密結社の長であり、同時に林業関連で県内有数の企業である『アルタイル・カンパニー』の敏腕若手社長という表の顔を持つ彼女。


"アルタイル"という森の悪魔の名を持つ彼女こそが、大総統であった。



「はッ! "ショウトクジャー"による怪人・戦闘員の戦死。それに伴う資金不足を解消するため! 私、"バロンフェンリル"が資金調達計画のご説明に参りました!」



その大総統の前に跪くのは、真っ白な毛皮を持つ狼男。この組織に数人しかいない大幹部の一人であり、対外勢力との戦闘を主な業務とする『戦闘部門』を任されている人間であった。その役職に恥じぬ彼の身体は筋骨隆々であり、しかも見た目以上の身体能力を秘めている。大総統には劣るが、軽く腕を振るうだけで最新鋭の重戦車ですら即座にスクラップにできる能力を彼は有していた。



「……うむ、フェンリル。お前の言うように、我らの財政は切迫し始めている。数か月前に現れた"ショウトクジャー"を名乗るあのカラフルな奴ら。あ奴らによって多くの怪人、そして戦闘員が亡き者になった。その補充に掛かる費用、決して馬鹿にはならぬ。」


「はッ!」


「しかしだな? その資金源については他幹部がすでに対応を始めている。今後お前の所にも作戦行動の要請書が届くであろう。……つまり戦闘部門を任せているお前が為すことは、戦闘員どもの訓練ではないか?」



物わかりの悪い生徒に優しく教えるように、彼女は『越権行為であること』、そして『本業に集中すべきだということ』を彼に伝える。確かにN県の覇者である彼女たちにとって、新たに現れた正義の味方。"ショウトクジャー"なる戦士たちは注意すべき存在。しかしながら戦闘時のデータを見る限り、即急に解決すべき問題と言うほど強者でもない。大幹部どころか、幹部級を送ればすぐに対処できるレベルであった。


では何故それを行わないか。それはひとえに周辺情勢によるものである。


今、この世界は秘密結社による戦国時代。自分たちの勢力圏の統治以上に、外部に目を向ける必要があった。



(占領下での反乱、いわば統治者としての恥。私自ら出陣して対応するというのも、やぶさかではなかったが……。)



ショウトクジャーたちが現れた時、彼女を含めた首脳陣たちは違う選択をした。すなわち『新人の教育』である。


彼らの主な主戦場である県境の国境線では、常に熟練の怪人たちによって殺し合いが続いている。戦闘部門から複数の幹部を常駐させ、その配下に優秀な怪人と戦闘員を付けて防衛させている。眼前に跪くフェンリルも週に5日は国境に赴かなければならないことからも、かなりのスパンで戦闘が起きていることが理解できるだろう。故に死者は多く、常に人手不足だ。


そのため組織は常に新たな怪人を随時作成・投入しているのだが、相手も熟練の怪人たち。新人を戦線に投入しても数秒持つか怪しく、一人前と判断した存在であっても明日の朝日を見ることができる者は少ない。そのため、ある程度の教育と戦闘訓練を幹部たちが直々に施し戦線に向かわせているのだが、やはり難しいところがある。



(我はこれを、『実戦経験の不足』が問題であると考えた。)



生命の保証がされている"訓練"と、死の危険がある"実戦"。経験値は断然後者の方が多く手に入る。


そのため大総統である彼女や、そのブレインたちは方針を定めた。かの12色もいてカラフルで面倒なやつら、"ショウトクジャー"を新人研修の相手として放置するというものだ。適度に痛めつけながらも生き永らえさせ、新人に経験値を与え続けるちょうどいい敵に仕立てようとする作戦だった。



(しかし、結果は失敗と言えるだろう。)



当初は想定通りとても良い経験値になってくれた。過去に"ショウトクジャー"を相手していた怪人たちは現在も国境沿いで生き残るほどの素晴らしい怪人に仕上げることができた。最初は幹部たちと『上手く生きましたね』なんて言いながら作戦の成功を祝っていたのだ……。


想定以上に相手の成長が早く、怪人の消耗速度が加速した。


初戦を勝ち抜く怪人はいるのだが、二度目の戦いの際にかなりの数が敗北し始めている。研究部門の人間からすれば敗北した怪人を調査し、さらなる技術発展へと繋げることができると大喜びであったが、組織の長としては決して無視できない犠牲であった。相手の成長速度を考えると、これ以上野放しには出来ないと感じるほどに。


故に計画を当初のもの。幹部級を派遣し抹殺するというものへと戻し、万全を期すために大幹部級複数による粛清を行おうと考えていた時に……。フェンリルが上奏の申し出をしてきたのだ。



(確かに我は全ての幹部に、直接訴える機会を用意している。しかし……。)



「ご安心ください大総統閣下! 訓練メニューはすでに通達済みです! 来週には皆が一皮むけた姿をお見せできるはずでございます!」


「……そう、か。ならよい、その計画を話して見よ。」



体を動かすことに関しては確かに有能ではあるが、頭の出来はよろしくない。


言葉の節々に散らばめたニュアンスを全く拾うことが出来ないフェンリルにため息をつきながら、大総統は話を促す。例えバカであろうとも愛すべきバカであり、同時に識者とは違った視点を持つ者である。もしかすると本当に資金問題解決へとつながるアイデアを隠し持っているかもしれないし、無かったとしても部下の話をしっかりと聞く、という素晴らしい上司の姿を見せることができる。


そんなことを考えながら、彼女は大男に話を促した。



「はッ! 私が考えましたのは……、ずばり! "ダンジョン配信"でございます!」


「…………詳細を説明せよ。」



表情、声色、姿勢、その全てを崩さぬようにしながら彼女は話を進めさせる。決して組織運営は小説投稿サイトの流行りではないのだぞ、という言葉は口にしない。彼女自身の趣味もバレてしまうからだ。



「ダンジョンを建設し、そこで人を呼び込むのです! そして配信をさせて知名度を獲得! 人気向上・入場者多数! そこで入場料などを取れば結構な額が手に入ると考えました!」


「……その件、お前の部下には相談したのか?」


「いえ! しておりません!」



思わずため息をしてしまう大総統、この頭の弱いオオカミちゃんには、結構な識者であり同時に強者でもある幹部を複数名付けている。頭は弱いが圧倒的な力を持つ大幹部に、頭脳労働もできる幹部。まさに最高な布陣ではあったのだが……、どうもこのオオカミは少々先走る癖があったようだ。



「……もしや説明はそれで以上か?」


「はっ!」



正に『僕凄いこと思いついたよ、褒めて褒めて!』という風な顔で大総統の方を見るオオカミ。尻尾もパピーのように高速で振られている。ダンジョン配信、別にそれはいいのだ、それは。確かに彼女には無い視点である。


昨今動画配信サイトを見れば、加速度的に配信者の数やそれを閲覧するユーザーの数が増えている。まさに新たな一大市場と言えるだろう。そこにある程度小説などでホットであったダンジョン配信が現実になる。確実に"バズ"が見込める。夢を追い求めてやって来る人間も多く出てくるだろう。


だが、この犬っころの説明には。圧倒的に内容がない。



「……フェンリル、まずな?」


「はっ!」


「そのダンジョン、どうやって作るのだ。」


「…………がんばって?」



思わず『色々と大丈夫かお前。』と言いそうになってしまう彼女。


こてんと首をかしげながらの返答は確かに可愛らしいが、筋骨隆々ムキムキマッチョマンな狼男がそれをしても単純に気色悪いだけだ。同じ組織で大事な配下というバイアスがかかっいても、少々キツイものがある。一瞬退室させて自分の仕事に戻ろうかと思ったが、それでは少々可哀想だ。一から丁寧に説明してやることにする。



「確かに着眼点は良い、確実に人を呼び込むことができるだろう。……だがな? お前が思い浮かべるようなダンジョンとなると、かなりの敷地が必要となる。こう、下に何階層も下っていくようなものを考えているのだろう?」


「はい!」


「勝手に生まれてきたものを再利用するならまだしも、それを一から作るのは……。金がかかるぞ?」



大総統の言う通り、地下建造物の建築はかなりの費用が掛かる。組織の科学力をもってすれば地下100階層程度簡単に作れるだろうが、それは技術力だけの話。どう考えても資材も、金も足りない。いくら科学力があったとしても無から物体が作れるわけではないのだ。


それを聞き、ちょっとだけ"しゅん"とするフェンリル。



「それとな、ゲームメイク。この場合、仕掛けの設計と言うべきか。」


「仕掛け、ですか?」


「あぁ、配信させ人を呼び込むとなると難易度の調整や、何度も潜りたくなるような仕掛けが必要だろう。後は潜るたびに順路が変化したり、とかか。組織の識者を集めれば確かにコレも作ることは出来るだろう。……だがな? コレも金がかかる。作る時間もだ。ランニングコストも結構な額となるだろう。」



言ってしまえば大規模な体験型アクティビティの設計である。専門の者を拉致すれば、いい感じのものを制作するのも可能だろうが……。ダンジョンの難易度に直結するモンスターなどの生成及び配置。そして配置するのであれば飼育費などもかかって来るだろう。考えれば考えるほどに業務が湧き出て来る。とんでもなく時間がかかる。


さらに、いつか人間は"飽きる"。継続的な利益を得るためには、適宜仕掛けの変更も必要そうだ。



「後はそうだな……、宝箱。景品とかか? よくそういうのには報酬が付きものだろう、ほら強い武器とか、そういうのだ。我ら風に言うと【強化因子】とかか? 皆が欲しがるような景品自体用意することは可能だろうが……。それを外部で、我らの戦闘員などに敵対するように使われれば厄介だろう? 高周波ブレードなどが良い例だ。」


「たしかに……。」



色々なセキュリティ、言ってしまえば組織構成員に向けて使用できぬようにしてしまう方法もあるのだが、そうなって来るとダンジョンと組織が結びついてしまう。一つの県を支配しているとはいえ、何も知らぬ民からすれば彼女たちは反社会的組織。一度バレてしまえば人は寄り付かなくなるだろう。



「ほかにも色々あるだろうが……。まぁ採算が合わないだろうな。どれほど帰って来るか解らない以上、即座に許可を出すことは出来ぬ。」


「そう、ですか……。」



大総統の言葉を聞き、滅茶苦茶落ち込むフェンリル。彼からすればナイスなアイデアだったのだろうが、少々詰めが甘すぎた。


これを機に、何か行動を起こす前に考える癖を付けて欲しいと思う彼女であったが、落ち込むフェンリルの顔を見て少々考えを切り替える。この犬っころ、乗ってる時は強いのだが一度落ち込むと結構引きずるタチだ。戦闘部門という重要なポストにいる彼の士気が低いままだと、組織に不利益が出そうだ。


即座にフォローする必要がある。少し考えを纏め、大総統はもう一度口を開いた。



「フェンリル、そう落ち込むな。お前の視点は悪いものではない。……そうだな、お前の部下にでも相談してみるといい。アイツらは結構な識者で、お前のことを慕っているだろう? そう悪いことにはならない。考えをまとめ直し、メリットとデメリット。軽いコストの試算などを考えて持ってくるといい。……期待しているぞ?」


「! 大総統……、かしこまりましたッ! では! 失礼します!」



入室時はピンと張っていた彼の耳が力なく倒れるが、大総統の最後の一言でもう一度力を取り戻す。自身が主と認めた人間に期待されているのだ、気を入れ替えて頑張らねばならない。まずは言われた通りに部下に相談しに行こうと考えたフェンリルは、主人に深く礼をし、足早に退室していった。












「行った、か……。」



フェンリルがいなくなり、謁見の間に誰もいないことを確認した大総統は、ゆっくりと息を吐きながら椅子に背を預ける。



「おそらく、というか確実に何かの小説を読んだのだろうな。確かこの前お気に入りのゲームがサービス終了したとか言っていたし、仲のいい部下にでも聞いて見始めたのだろう。」



少々頭の弱い犬っころではあるが、あれはアレで人望がある。大総統である彼女がわざわざ彼を大幹部まで引き上げたのは、決して実力だけではない。部下を率いる者として必須であるその素質を評価して決めたのだ。



(新人相手にも古くからの友人のように話しかけ、指導し、真の友になるような男だ。)



もしかしたらその新人とフェンリル、そして自身でお気に入りの小説について話すような日が来るかもしれぬな、と考えながら彼女はより深く思考を回し始める。



(先ほどのフェンリルの意見、つい目先の費用に釣られデメリットばかり上げてしまったが……。メリットはどれほどあるだろうか。)



そんなことを考えながら、現在座っている椅子の横にある引き出しを開き、ピンクの可愛らしいノートを取り出す彼女。一組織の長ではあるが、それ相応に小説を呼んだりする身。何かしらの設定を考えたり、思考を深めていくのは得意な方であった。そして何よりも現在ホットな題材であるダンジョン配信、自身がそんなダンジョンのオーナーになった様子を夢想しながらメリットを上げていく。



「まずは……、かなりの客引きを見込めるところか。一発逆転の宝物でもおいてやれば、自然と人は集まって来るだろう。」



注射一本で超人、いや怪人に成れる世界だ。全国に怪人はごまんといるし、民間人であっても力を求める人間は多いだろう。配信させ情報を全国に拡散。そして解り易い成功例を見せてしまえばかなりの人間が呼べるはずだ。先ほど挙げたコストを無視することができれば、入場料として幾分かの金を徴収するだけでもかなりの収益が見込める。



「それに、ダンジョン近辺の利権を全て我らが握ってしまえばとんでもない独占市場になるな。武器や装備の売り買いだったり、そういうのを抑えることができればダンジョンドロップの使いまわしとかもできる。それに……。」



その次に彼女が考えたのが、ダンジョン内での死亡者のことである。



「別にコレ、殺さなくていいよな。むしろ生かしたまま捕獲して、洗脳なりしてしまえば戦闘員にも怪人にもしてしまえる。奥に行けば行くほど元の身体能力は高いだろうし、素材としても良いのが手に入る。あまりやり過ぎれば人が離れるだろうが……。あれ? これ結構いいのでは?」



現在彼女の頭を悩ませている、新人の不足。新人が死んだ先からどんどんと追加していけば困ることはない。これまでは志望者を怪人にしたり、優秀な人材をスカウト(拉致)していたのだが、あちらから来てくれるのであれば面倒が無くなる。



「それに、もしかするとモンスターとして新人を配備できるのでは……? こちらの訓練施設としても行けそうだ。え、どうしよ。滅茶苦茶いいアイデアに見えてきた。」



確かに初期費用にかなりの投資が必要だろう。だがやはり今組織の抱えている問題が粗方片付きそうなアイデアでもある。そして何よりもダンジョンは閉鎖空間だ、中で何をしようが誰も文句を言うことは出来ない。敵対組織の人間を迷い込ませてそのまま誅殺することもできるだろうし、それこそ正義の味方である"ショウトクジャー"を呼び込んで殺すのも不可能ではなさそうだ。


本来はザコが出てくる最初のボス階層に、組織の大幹部が出て来て奴らを惨殺する。いやむしろ拘束して洗脳、そして再改造すれば即戦力にできるかもしれない。



「他組織や正義の味方、確保できればまた研究部門が沸き立つだろうな。我らとは違う"改造"。さらなる高みへとつながる。」



考えれば考えるほどに、このダンジョンという物は良きアイデアのように思えてくる。そして何よりも……。



「ダンジョンの最下層、そこで待ち受けるのは組織の顔にして大総統である私……! 秘密結社の王としてもポイント高いし、マジで魔王な感じじゃない? やば、むちゃ楽しそう。」



こう、頬に手を当てながらククク、って笑うの良くない? と一人口ずさむ彼女。やはり組織の王ともなると、そのあたりの欲望は出てくるようで。自分にとって最上のかっこいいポーズを模索し始める彼女。ダンジョンの最下層で嗤う魔王、それにふさわしい装いに変えるべきか、と思い始めて新たな自分のコスチュームまで考え始める次第だ。


どうやら『囚われの姫かと思ったら大魔王でした!』というパターンにするようで自分の髪色に合った真っ白な異世界風ドレスと、それの闇落ちしたバージョンを用意するようだ。とんでもないスピードでドレスの草案がノートに書き込まれていく。



「そうと決まれば早速準備を進めなければ! おそらくフェンリルの奴は次回の定例会議あたりで計画書を持ってくるだろう、そこで私がそのアイデアを褒めて、ゴーサインを出す。金が足りなければポケットマネー全部出しちゃおう。うん、うん! 悪の組織だしね! これぐらい私の我儘を通してもいいはず!」



よーし、やる気出て来たぁ! と言いながらダンジョン候補地まで考え始める彼女。こうなってしまえば誰も止まらない。即座にN県において一番発展している北部の下見を初め、大規模地下建造物を建設するのに最適な土地を探し始める。大総統、良さそうな土地があれば会議前に購入するつもりである。



「ふふ、次の会議が楽しみだなぁ!」









そして、次の会議……。




にっこにこで会議に挑んだ大総統!


招集された大幹部、幹部たちが何事かと無茶苦茶気を引き締めるレベルの上機嫌!


しかしながら時間経過とともに機嫌がどんどん悪くなっていく!


それに合わせて幹部たちの顔色もどんどん悪くなっていく!



それもそのはずである!



現在すでに今日話すべき議題は全て終了済み!



しかしながら!



これまでフェンリルからの提案、一切なし!


何よりも本人が『もうすぐ会議終わりだなぁ、疲れた。』みたいな、のほほんとした顔してる!


お前! 話すことあるだろうよ!




「…………フェンリルよ。」


「は、はッ!」


「我に、言うべきことがあるだろう?」



大総統が若干怒りを孕ませながらそういうが、残念ながらフェンリルの頭にはハテナが浮かんでいる。彼が少々ポンコツであることは他幹部も知るところ、『またアイツ何かやらかしちゃったのか』と思いながら全員が同僚のフォローをするため準備を始める。


悪の秘密結社と言っても別に幹部同士の中が悪いわけではない。大総統のちょっとした自慢の一つ。


普段ならばそんな部下たちの様子を見て笑みを浮かべる大総統だが、今日は違う。



「も、申し訳ございません! か、皆目、見当つかず……。」



フェンリルが部下から教えてもらった難しい言葉を使う彼。誠心誠意、心を込めた謝罪ではあったが、今日彼からの提案を滅茶苦茶楽しみにしていた大総統からすれば"めちゃおこ"案件である。彼女の脳内ではすでに、『普段は若干頭が弱いフェンリルだがこれほどまで素晴らしいアイデアを思い付いたのだ。皆も励め!』なんて言いながら彼を立てる用意までしていたのに、これである。



「先日、お前は我にある提案をしたよな? その件、どうなっている。」


「あ! あ、えっと、その……。」



ようやく思い出したのか、気まずそうにするフェンリル。その顔から見るに部下に相談することを忘れた・今日議題として持ってくるのを忘れた、のではないようだ。



「じ、実は部下の幹部たちに『大総統にそんな計画性も実現性もない提案するくらいなら新人の教育しろ、地下100階のダンジョンとか初期投資どれだけ掛かると思ってるんだ。』って怒られてしまいまして……。」


「…………そうか。」



大総統としても、そう言われてしまえばもう何も言えない。というか実際冷静になって考えてみればその通りだ。いくら現在抱えている問題が一気に解決するとしても、自分のポケットマネーを全て投入したとしても、さすがに一からダンジョンを作るにはいささか資金が足りなすぎる。もしできたとしても、失敗して資金の回収ができなかった場合。それこそ組織自体が破滅するレベルの危機だ。


が!


彼女は悪の秘密結社、その大総統である。そこにロマンがあるのならばやるしかない。というかフェンリルから提案されてからずっとそのことしか考えてないのだ。もう予算とか知らん。金が足りなくなったらもう他県の組織ぶっ壊して無理矢理資金を作ってしまうつもりである。というかもう会議終了後に自身の親衛隊を連れて突撃するつもりである。ストレス発散は他組織をぶっ壊すに限るぜ。


それに、何よりも。彼女はもう"土地を確保しちゃっている"のである。買っちゃったのである。


もう後に引けぬのだ。



「フェンリルよ、我はな。お前からの提案を楽しみにしていたのだ。」


「……え、あ、え。」


「お前も多忙の身であろう、一月待ってやる。次回の定例会議、必ず資料を用意してこいッ! 必ずだ!」


「は、はッ!」







その後。


ノリノリの大総統主導でダンジョンの建設が始まり、拉致した大人気配信者に無理矢理動配信させることで、全国各地から人を呼び込むことに成功。"ショウトクジャー"を連れ込み洗脳闇落ちさせたり、大総統自身が耐え切れなくなり変装して配信し始めたら人気になっちゃったりしたが……。



またそれは、別のお話。



なおN県の南に存在していたW県とM県の秘密結社は、ダンジョン費用の捻出(実際はストレス発散)を行うために大総統によって滅ぼされました。おわり。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大総統閣下! ダンジョン配信とかどうです!? サイリウム @sairiumu2000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ