第2話 適当に入った、ブラック食品製造企業

 ……


 次に入った企業(二社目)は、食品製造企業で有った。

 漬物を作る企業で有ったが、とある漬物に特化した企業で有った。


 その漬物とは生姜しょうがで有る。生姜の漬物を製造する企業で有った。

 鮨屋すしやで良く目にする寿司や、千切り生姜を赤く染めた紅ショウガ等の、生姜の漬物で有る。


 紅ショウガは、みんな大好きな牛丼に添える漬物だ。

 寿司ガリも回転寿司には、絶対置いて有る漬物で有る。


 その漬物(食品)製造企業は、牛丼チェーン店や回転寿司チェーン店と契約を結んでおり、生姜の漬物だけでも十分やっていける企業で有った。

 そして、その企業は中小企業と言うより家族経営に近かった。


 俺はその企業を当然。ハローワークで見付けた。

 その時の年代はまだ20歳を過ぎたばかりで有るから、とんとん拍子に採用された!


 だが、この企業に俺は望んで就職した訳では無い。

 当時の俺は実家暮らしで有り、母親は無職の俺を強く非難した。


 そして俺も、金が欲しい年頃で有ったので、前職を辞めてから一ヶ月後ぐらいから就職活動を始めた。

 その食品製造企業は実家から近く、また待遇面も比較的良かったので、俺は軽い気持ちで応募して……俺が若いの理由で、ほぼ顔パスで採用された。


 あの時の食品製造業界は、今程厳格な態勢では無かったから、身だしなみも緩く、ヘアキャップ・マスク・白衣・手袋完全着用の世界では無かった。(けど、長靴だけは白長靴で有った)


 ☆


 入社した当時はハローワークの求人票通り。給与面や休暇も求人票通りで有り、残業も繁忙期以外は少なかった。

 ほぼ家族経営の企業で有るから、正社員も俺を含めて5人で有り、後は女性パートさんで有ったり、その家族従業員で有った。


 俺が担当したのは漬物製造全般だったが、入社当時は工場内に冷暖房完備されておらず、夏は暑く、冬は寒いと言う環境で有った。

 また、漬物を作るには大量の塩水がいるのだが、それを機械では無く手作業で塩水を作るのだから、真冬時期の塩水作りは本当に死ぬ程辛かった。


 そして、俺が20代前半の事も有り、おばさん世代に成るがパートさん達からは可愛がられ、正社員との関係や家族従業員との関係も良好で有った。

 繁忙期は有るが、黄金週間ゴールデンウィーク・お盆・年末年始の長期休暇もキチンと有って、また完全週休二日制で有った。


 遊びたい盛りの20代前半には十分な休暇有ったので、俺はその企業に満足していた……


 ☆


 だが、ここで大きな事件が発生してしまう!

 大手乳業メーカーの食中毒事件や、牛肉類の偽装事件。菓子類の賞味期限改竄かいざん事件や原料再利用など、食品業界全体を揺るがす大事件が、一気に立て続けに起きた!!


 この事件の所為で、今までは比較的緩かった食品衛生面に一気へメスが入り、ほぼ防護服の白衣完全着用や、厳しい食品生産体制が構築された。

 今までは、商品の中に髪毛もうはつ一本が入っていても、その該当商品だけの回収(返品)で済んで、納入先からは軽いお叱りだけで有った。


 だが、厳しい態勢に成ってからは該当ロットの全回収に変わり、更には始末書や改善対策書の提出に変わった。

 そして、それが数回続くと……契約打ち切りと極端化した。


 この国の人間は食べ物へ非常に五月蠅うるさく、また些細なミスでも重箱の隅をつつく様にわめく。

 それだけ、食べ物に真剣なあかしでも有るが……ここまで厳しい自己基準はこの国以外には無い。


 その所為と言っては行けないが、この体制に成ってからは仕事が凄くやりにくく成った……

 防護服の様な白衣は動きにくいし、また神経を凄く使うように成ったので、心理的ストレスも日増しに増えていった……


 その代わりに冷暖房等が完備されたが、それでも快適な職場とは言えなかった。


 ……


 さらに追い打ちをかけるように、大手外食チェーン店では値下げ合戦が始まり、各ブランド牛丼の単価が軒並み下がり、またキャンペーンも頻繁に行われるように成った!!

 この所為で、紅ショウガや寿司ガリの受注が一気に増えるが所詮、家族経営企業なので直ぐにキャパシティーを超えた受注量と成り、それを補うために連日の超過残業や休日返上が当たり前に成った。


 俺の体と心は一気に壊れ……慢性の睡眠不足と状態におちいり始めた。

 この辺りからを覚え始め、少しでも体と心を守ろうと俺は努めたが……俺が休むと仕事が回らなくなるので休む度に俺は、正社員や家族従業員達から叱責レベルに近い罵声を浴びた。


 そんな最後に俺が取った行動は……バックレで有った。

 とある年の黄金週間明けに俺は、その漬物製造企業からバックレた。


 当然。企業から実家に電話が来るが、俺は『もう、行きたくない。辞めます!』と言うと、電話向こうから凄く憤慨ふんがいされたが、俺にはこうするしか道が無かった。

 今考えれば……常識の無い行動であるが、あの頃の俺はそれだけ追い詰められていた。


 ☆


 これが、二社目の企業物語である。

 食品製造業界は衛生面に著しく厳しいし、食べ物だから些細なミスも許されない。


 俺の中では二度と働きたくない業種だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る