第9話 反省会3

「腰に湿布貼るのムズいんだな・・・」

カナンの個別演習が終わり、自室へと戻ったエルザは新たな戦いを始めていた。

負傷という負傷はいつぶりだろうか。と思いながら身を捩り慎重に湿布を貼っている姿はもはや滑稽である。

「怪我の理由もカッコ悪いしなぁ」

受け身を取れず落下した衝撃で腰を痛めたなどど、グスタフ、カナン、マナミアには口が裂けても言えない。

マナミアはともかく、グスタフとカナンからは何か言われそうである。

「よしっ」

湿布と格闘する事10分。ようやく勝利を収めたエルザはよっこらせとベットから立ち上がり腰を伸ばす。

軽くはない鈍痛を訴えてくる腰を煩わしく思いながらもエルザは事務処理を進めることにした。

今回も同様に任務後のミーティングをカナン、マナミアと行う予定である。

といっても特に言うことはなさそうではあるが。

「もうぼちぼちくるだろ」

事務処理をマナミアへ引き継げるところまでササっと終わらせたエルザは、マナミアのアドレスへデータを送信した。

コンコン。

ベストタイミングでノック音が鳴った。

「入っていいぞー」

「お邪魔するわね」

現れたのはカナン。ノック音で彼女だと気づいていたエルザはいつも通りベットに座るように促す。

「なんか・・・、薬?湿布臭くない?」

いきなり核心をつくようなカナンの言葉にドキドキするエルザだったが、

「さっき弾薬とか整理したからそれじゃね?」

「そういうことね」

と、言い逃れに成功する。

(なんでこんなんでドキドキせねばならんのか)

あの時の自分を蹴り飛ばしたいエルザであった。

こんこん。

2回目のノック音。

「どうぞー」

「お邪魔しまーす」

これ以上話が広がる前にマナミアが来たことに内心安堵したエルザは、これ幸いとすかさず本題に入る。

「よし。揃ったことだし今回の演習を振り返ってみよう」

エルザの指示通り、マナミアがドローンによる空撮で今回の演習を記録していた。

マナミアが持参したノートPCをデスクに置いて、鑑賞会のように三人で画面をのぞき込む。

映像の始まりはエルザが空中に向けて霊気を打ち上げるシーン。

ドンっと控えめな炸裂音の後に林から霊魔が飛び出してくる。

俯瞰視点のためエルザの頭頂部が見えている。

エルザが弾き飛ばされ、木を何本かへし折っていく。

それを追撃する上級霊魔。

「さて」

ここで映像を止めたエルザは、カナンとマナミアの視線を集める。

「マナミアはオペレーター。カナンは後方からの火力支援を行うことがあるが、どちらにしても重要なのは味方に明確な指示と意思表示をすることだ。ハッキリしない指示、誘導は相手を余計に混乱させる。例え救助相手が格上だったとしても甘んじることは許されない」

カナンもマナミアもエルザが言ったことは理解している。

エルザもそれは把握しているため、深掘りはせず映像を再開する。

体勢を立て直したエルザがインカム越しに喋っている様子が映し出される。

「来た道を引き返せ。というのがカナンの指示だったわけだが、この理由を一応聞いておこうか」

再度映像を止めたエルザは少しでも不安材料などがあれば、回答に淀みが生まれる程度に圧力を出しながらカナンの目を見て問いかける。

「わかりやすい、かつ最短ルートがそれだったから。加えて冷静さを取り戻したエルザなら、丸腰でも上級霊魔をやり過ごすことは問題ないと判断したからよ。精神状態はインカムの声で判断したわ」

(さすがクールビューティー)

カナンの回答を聞いたエルザは、わざとそれを飲み込むような仕草をする。

ここでつけて欲しいのは自信というよりは、慎重さと正確さである。

「俺に対する指示としてはまぁ正解だろう。正直、今回の演習は無理がある部分もあるし・・・。」

(自分が強すぎるって言いたいのかしら)

(エルザがピンチになることってなさそう・・・)

「じゃあ状況を変えてみよう」

エルザは二人の思考に気づかないふりをしつつ続ける。

「もし、同様のパターンで、グスタフ、カナン、マナミアを誘導するとしたらどうだ?」

「「・・・・・」」

「パッと思いつかない理由は、まだお互いの戦闘能力を理解しきれていないのと、経験不足だ。じゃあ実際に起きたらどうするのかについては、俺がなんとかする」

「私たちにはしばらく期待できないってことかしら」

エルザの言葉にカナンが噛み付く。

むっ。としたカナンの視線を正面から受け止めるエルザは言葉を濁さず返す。

「実戦には様々なファクターがある。その一部である今回のことについては、まだ、そもそも、期待をしていない。ではなぜ危険を犯してまで時間を作ったかというと、考えるきっかけを与えることにある。未経験のまま突然窮地が迫ってきたとして、対応ができるわけがない」

「そう・・ね・・・」

(そうだよね。答え合わせができてよかった)

2人の表情の機微を読み取ったエルザは自然な流れで反省会の締めに入る。

「そうは言っても失望しているわけじゃない。こう見えて、お前たちには大いに期待している。なにせこの俺が認めている才能たちだからな。前に俺に挑戦してきた奴らとは才能の格が違う。後は仲間と自分自身を理解し磨くのみだ。見立てでは数年で俺に勝るほどに成長しているさ」

「ふんっ、見てなさいよ」

「がんばるっ」

「ま、俺の強みは総合力だから全部が全部越えられてしまうことはさせないが」

クックック。と最後の最後に煽りを交えたエルザは今回の演習を終了した

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霊魔討伐士~過去と現在を股にかける冒険譚~ @hiwajwjwhw

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