忘恩
紫鳥コウ
忘恩
野犬が
四条大路の
その昔、男は、足を
女を背負い柳の下の石へ座らせてから、水干を濡らして牟子をひょいと取り上げると、女は
残されたのはただ、牛車の轍と男だけである。そよ風が柳の葉と蓬を揺らすと、
四条大路の四辻であの女の事を考えていた夜、男の夢枕にその女が現れた。あの時と同じく、女がこちらへと嫣然と微笑んだような気がしたが、男からは牟子が月明りにかすれて見えるだけで、ただそう感じられるに過ぎなかった。
妖艶な美女か妖狐の類か、どちらか分からぬ者を見守っていると、どこからか木の葉が渦を巻いてこすれ合う音が聞こえてきて、稲妻のような鐘の音が身体を走り抜け、髪の一本一本が神経を持ったかのように一斉に
一陣の風が吹いたかと思うと、
女は口の端を妖艶に曲げると、言葉らしい言葉も残すことなく、あの時と同じように、輪郭を段々と薄くしていき、すっとその場から消えてしまった。
翌朝――男の妻が目撃したのは、朝の緩やかな空気と濁りない
* * *
以上は、
この史料には五十二もの逸話が収録されているが、以上のものは、収録順でいえば十三話目のものである。無論、小説にするにあたり、大幅な
忘恩 紫鳥コウ @Smilitary
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