彼の秘密

有理

彼の秘密

「彼の秘密」


小町 なな(こまち なな):

山菱 鳴海(やまびし なるみ):


※過去作「彼女の秘密」の続編です



鳴海「なな、コーヒー淹れようか?」

なな「なーくん!だめだよ!私、彼女だよ?キッチンは彼女のテリトリーです!」

鳴海「だってなな、コーヒー淹れるの下手なんだもん。」

なな「ひどーい!ちょっとは上達したはずです!」

鳴海「今日は豆から挽くんだけど、ミル。できる?」

なな「…ミル嫌い。うるさいし、ハンドル固いし」

鳴海「でしょ?それにさ」

なな「ん?」

鳴海「俺ななと一緒に並んでキッチン立つの好きだからさ。ね?一緒に淹れよ。」

なな「ぐふふ。」

鳴海「なに?」

なな「キュン死にした。」

鳴海「また墜落してる。」

なな「だってー。かっこいいこと言うんだもん。これが世に言うスパダリだ。」

鳴海「なにそれ?」

なな「スーパーダーリン!なんでもできる完璧なダーリン。」

鳴海「はは、何でもはできないよ。」

なな「嘘つきー。」

鳴海「嘘つきはどっちかな?」

なな「えー?どう言う意味ー?」

鳴海「ミル挽けないフリして、本当はゴリゴリできるくせにー。」

なな「えー?できなーい。」

鳴海「この豆かすは昨日の誰のかな?」

なな「あ、」

鳴海「なな少尉、正直者にはマカロンを贈呈しましょう。」

なな「司令官殿おおお!申し訳ございませんんん!」

鳴海「ははは。可愛いから、いいよ。」


ななN 「何でもできるスパダリの私の彼は、偏執狂(モノマニア)だった」


_____


鳴海「ただいまー。」

なな「なーくん、おかえり!」

鳴海「荷物届いてたよ。」

なな「あ、これね!見て見て!」

鳴海「手、洗ってくるね。」

なな「うん。その間に開封式しちゃう!」

鳴海「はいはい。」


なな「なーくんなーくん!」

鳴海「んー?」

なな「じゃーん!ペアグラスです!」

鳴海「うわ、江戸切子?」

なな「そう!この前雑貨店で見つけてね、取り寄せしてもらったの!在庫なかったから時間かかっちゃった。」

鳴海「綺麗だね。赤と青で。」

なな「でしょー。これでワイン飲もう!」

鳴海「おー?滅多に飲まないななさんが?ワインを?」

なな「寝かせておいたアイツを開ける日がついに来た!」

鳴海「買ったの先月だけどね、その白ワイン」

なな「もー!なーくんノリ悪い!」

鳴海「はは、怒った顔も可愛い。」

なな「うぐぐーー!」


鳴海「あ、ななに俺からもプレゼントがあるよ。」

なな「んー?」

鳴海「目閉じて、手出して?」

なな「なにー?」

鳴海「手のひら上にして?」

なな「…」

鳴海「はい。目開けて。」

なな「…かぎ?」

鳴海「そう。一緒に暮らそう。」

なな「…」

鳴海「なな?」

なな「なーくん!」

鳴海「なに、急に抱きついて。嬉しくなかった?」

なな「嬉しい!嬉しいよー!ありがとう」

鳴海「俺さ、将来ちゃんと考えてるからね。」

なな「それプロポーズ?」

鳴海「ううん、プレプロポーズ?」

なな「嬉しい!」

鳴海「じゃあ今日は、ペアグラスでお祝いしよう。」

なな「うん!するーー!」


_____


なな「なーくん。ななの荷物どこに置いたらいい?」

鳴海「あ、ここ。ここがななの部屋。」

なな「え?一緒じゃないの?」

鳴海「無駄に部屋数あるからさ。もちろん寝室は一緒にしたけど、別がいい?」

なな「そんなわけないじゃん!一緒がいい!」

鳴海「ここはななの趣味の部屋にしたら?」

なな「趣味?」

鳴海「FPSやりたいとか言ってなかったっけ?ゲーム?」

なな「えー!じゃあ、ゲーミングチェアとか買っちゃおうかなー!」

鳴海「いいじゃん。引っ越し祝いに俺買うよ?」

なな「住まわせてもらうのに悪いよ!」

鳴海「違うでしょ、なな。一緒に暮らしたいって言ったの俺なんだし。ななを住まわせるんじゃなくて一緒に住んでもらうの。スタンスが違う。」

なな「…いいの?」

鳴海「もちろん。」

なな「じゃあ、よさそうなのピックアップしとく!」

鳴海「うん。決まったら教えてね。」

なな「ありがとう。」


鳴海「あ、なな。」

なな「ん?」

鳴海「一個だけ約束して欲しいことがあるんだ。」

なな「なに?」

鳴海「あそこ、突き当たりの部屋。あの部屋だけは入らないで。」

なな「えー?なんで?」

鳴海「いや、これ言っちゃうと元もこうもないんだけどさ。俺サプライズとか結構好きじゃん?」

なな「うん。」

鳴海「一緒に住むとそういうの準備するの難しくなるから。」

なな「なるほど。サプライズ部屋ね。」

鳴海「うん。ななの為に隠したいものとか置くつもりだから。約束してくれる?」

なな「わかった!なーくんがそこまで言うなら!」

鳴海「ありがとう、なな。」

なな「鶴の恩返し的なことしてるってことだよね?」

鳴海「何その例え。」

なな「覗いたら、バタバターってなーくん飛び出しちゃうかもしれないってこと。」

鳴海「ははは。」

なな「ずっと一緒にいたいから、覗かないよ。約束守るね。」

鳴海「うん。飛び出しちゃうのは俺じゃないと思うけど。」

なな「え?」

鳴海「俺もずっと一緒にいたいからさ。ななと。」

なな「うーーん!だいすき!」

鳴海「ん。ほら、荷解き手伝うよ。」

なな「ありがとう!」


_____


なな「うわ。こりゃドレスコードあるわ。」

鳴海「ん?」

なな「なーくんが急にあのワンピース着てきてとか言うからさどこ連れて行かれるのかと思ったら。」

鳴海「ここ、もっとカジュアルにして欲しいんだけどね。入りづらいからさ。」

なな「うわー。夜景すご。え、近くまで行ってもいい?」

鳴海「うん。一応窓側だと思うから。」

なな「ねー。一年記念日だから、奮発してくれたの?」

鳴海「そう。ななこういうとこも好きでしょ?」

なな「ちょっと緊張するけどね。」

鳴海「半個室だから畏まらないでいいよ。」

なな「はー。楽しみだなー。ディナー。いっぱい食べたくてお昼抜いてきちゃった。」

鳴海「味は保証するよ。」


鳴海「お、これなな好きそう。」

なな「んんー。ねえ、もう全部美味しい。なんなの?出てくるもの全部美味しい。」

鳴海「ちょっと、待っててね。」

なな「え?どこ行くの?」

鳴海「仕事の電話。」

なな「んー早く戻ってきてね?」

鳴海「すぐ終わるから。」


席を立つ鳴海


鳴海「なな。」

なな「あ、おかえ、り」

鳴海「ただいま」

なな「え、」

鳴海「これ。」

なな「ば、バラ?すごい」

鳴海「108本あるよ。」

なな「…煩悩の数?」

鳴海「花言葉知らない?」

なな「え、知らない」

鳴海「結婚してください。」

なな「っ、」

鳴海「なな、俺と結婚しよう。」

なな「っ、ぅ、うん。…はい。お願いします。」

鳴海「フォーク置いてよ」

なな「あ、持ってたことすら忘れてた」

鳴海「左手、出して?」

なな「うん。」

鳴海「お、さすがぴったり」

なな「うわあ、キラキラだ。」

鳴海「給料3ヶ月分ってよく言うでしょ?」

なな「なーくんの給料3ヶ月分は凄いな…」

鳴海「ほら、薔薇も持って?写真撮ってもらおう。」

なな「え、いいの?」

鳴海「頼んであるから。お願いします。」

なな「うわー。なんか、うわー。」

鳴海「なに?」

なな「幸せすぎて、どんな顔したらいいか分かんない。」

鳴海「笑えばいいと思うよ。」

なな「…ムードぶち壊すじゃん。」

鳴海「ははは。」

なな「…なーくん。ありがとう。」

鳴海「こちらこそ。」


_____


なな「えーっと。婚姻届書と、戸籍、」


なな「あれ、なーくんの分取ってくれてるって言ってたけどどこにあるんだろ。」


なな「書斎にはなかったしな、リビングにもないしー。今日一緒に出しに行くのにー。」


なな「あ、あの部屋かな」


鳴海「あ、なな。」

なな「ん?」

鳴海「一個だけ約束して欲しいことがあるんだ。」

なな「なに?」

鳴海「あそこ、突き当たりの部屋。あの部屋だけは入らないで。」


なな「まあ、仕方ないよね?準備しなきゃだし…」


扉を開けるなな。


なな「…え、」




鳴海「あれ?なな?」


鳴海「証明書間違って会社の鞄に入ってた。…ああ」


鳴海「約束、破ったね?」


なな「なーくん、なにこれ。」

鳴海「なな?」

なな「なに、この部屋」

鳴海「ここには入らない、約束したでしょ?」

ななN「暗幕の張られた窓。壁一面埋め尽くすほどの写真。デスクの上でぼやけて光る3つのモニター。」

鳴海「あーあ。ななの為に隠しておいたのにな、」

なな「これ、全部」

鳴海「ななだよ。俺、ずっとななを見てたんだ。」

なな「ずっとって、」

鳴海「軽音サークル、解散したのはななのせいだよ。部長と寝たね?あとドラムの子とも。内部崩壊しちゃったのはななが損得勘定で動いたからだよ。」

なな「…なんで」

鳴海「勤めてた会社もセクハラされたって言ってたけど、あんな短いスカート履いて胸元開けてたら勘違いされちゃうよ?」

なな「やめて、」

鳴海「でもね、なな。俺はそんなななが好きだったんだ。なんでも自分の思い通りにさせたい、そのための努力なら惜しまない。素敵だよ。」

なな「…」

鳴海「だから、一緒になりたかった。俺を思い通りにして欲しかった。翻弄して欲しかった。」

なな「なーくん、」

鳴海「…ね?俺はそんなななが好きだよ。」

なな「…」

鳴海「こんな俺は、Sランク落ちかな?」

なな「…まだ整理できてないから、」

鳴海「…こういうの、嫌い?」

なな「嫌いっていうか、若干引いてると言うか」

鳴海「若干?」

なな「嘘、かなり引いてる」

鳴海「そっか。」

なな「こういうの、テレビとか漫画の中だけだと思ってたから…こんな、写真も。これ、隠し撮りでしょ?」

鳴海「一緒に撮ったのもあるよ。」

なな「でもほとんど、」

鳴海「そうだね。昔のななは隠し撮りだね。」

なな「なんか、その」

鳴海「うん?」

なな「…ごめん、言葉選んでられないんだけど、その、気持ち悪い、っていうか」

鳴海「…」

なな「あ、ごめん。いや、ごめんって言うか」

鳴海「それが本当の顔なんだね、なな。」

なな「なに」

鳴海「かわいこぶってない。うん。初めて直接見られた。」

なな「ちょっと、」

鳴海「結婚しよう」

なな「いや、あの」


鳴海「結婚、しよう」


_____


なな「あ、奥様ー!おはようございます。いつも夫がお世話になっております。うわー、網かけてなかったんですか?燃えるゴミ。めちゃくちゃ荒らされてる」


なな「いつもお掃除して下さってありがとうございます。私も手伝います!」


なな「いえいえ、夫はもう出社してますから。あ、今度うちにも遊びに来てください。うちの夫たまにお菓子貰いすぎちゃうので、ぜひ。」


なな「はい。常務にも、よろしくお伝えくださいね。」


鳴海「おはようございます。」


鳴海「あ、実は忘れ物しちゃって。うちのゴミってこれですよね?」


鳴海「ああ、間違って捨てたものがあってですね。ついでに取っておこうかと…ああ、これこれ。」


鳴海「写真です。紛れ込んじゃって。妻の、そうです。はは、恥ずかしいとこ見られちゃった。常務には何卒ご内密に。」


鳴海「それでは、また。はい、行ってきます。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼の秘密 有理 @lily000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ