オワコンは終わらない

ブロッコリー展

🏫

『テクノロジーはある地点から、専門家以外には魔法と区別がつかなくなる 』というアーサー・C・クラークの有名な言葉がある。


これはある特殊な捉え方をすれば、


『オワコンはある地点から、専門家にも魔法と区別がつかなくなる』


と言い換えられる。


そして、これから始まるのはそう言った種類の近未来の話だ。



◇   ◇   ◇   ◇



今朝もまた担任のクボタ先生は教室で出欠をとりました。


A I隆盛で一年先までぼくらの出欠予測をA Iが出していてくれているから、そういうのはオワコンなのに、です。


ぼくらはそれまで4年間、出欠を取られたことがなかったので、初めて出欠の取られ方をクボタ先生に教わりました。たまには出欠も悪くないです。


他にも先生はオワコン化されたものを持ち出すところがあって、授業も本当は“エア授業”で良くて最後に、飲み込むと1コマ分の授業内容がわかるカプセルを渡せば済むところを、“ガチ授業”をします。初めてガチ授業を受けた時は長く感じたけど、今はそうでもないです。


それからこの頃は、ランドセルをひとりひとつ背負うのはオワコンになっていて、みんなで大きなランドセルを背負って、その中をシェアする方式なのですが、にもかかわらず、先生は配布物を生徒数分くれます。たしかにありがたいのですが。


そんなクボタ先生は、子供のぼくらにとっては新鮮でウケもいいのですが大人たちには不評でオワコン先生と呼ばれています。


ぼくはそのことについて先生は怒るべきです、と意見具申したのですが、先生は飄然となさっていて、「まったく恥じていないですよ。ことさらオワコンを煽ることの方が恥ずかしいことです」とおっしゃられました。


正直、それが、対話型AIにあらかじめ聞いてみたときとほぼ同じ内容だったのには驚きました。


1日の学習を終えて一斉にみんなの大きなランドセルを一緒に背負って下校です。ぼくのいとこの学校はマンモス校なので、「朝の登校時にランドセルを背負うのギネス級にきつい」と言っていました。


帰り道で誰かが「このままでは先生はほんとうにオワコンになってどこか遠い学校に行かされてしまうかも」という噂をしました。


ぼくらに寄り添った指導をしてくれるクボタ先生はもっと評価されるべきなのに……。


でもそういう教育法を他の先生方はオワコン扱いなのです。


ぼくはとても寂しい気持ちになって、泣きそうになりました。



◇    ◇    ◇    ◇



次の日、午前の授業が終わり、待ちに待った給食の時間。


しかも今日は揚げパンの日です。


給食当番が運んでくるのを待っているとき校舎がドスンと揺れました。きっと給食当番の子達がテンション上がりすぎてはしゃいでいるんだろうと思ったら、ちがいました。


大怪獣でした。


窓の外に巨大なオワコン怪獣が猛然と向かってくるのが見えます。


オワコン怪獣に食べられたものはみんなオワコンにされてしまいます。狙いは給食でしょう。


給食がオワコンになったら、もう学校の楽しみがなくなってしまいます。怪獣のことだからこの学校もぼくらの街もオワコンにするつもりなのでしょう。


そんな世界を考えただけでも胸が張り裂けそうになって、ぼくは牛乳を飲みました。


どんどん近づいてくる怪獣。みんなパニックになりかけています。


怪獣界でも火を吹いたり飛んだり跳ねたりして暴れる行為はオワコンになっているらしくて最近は詐欺的行為に及んできます。


こんなとき、関係各庁はすでにオワコンなので連絡してもだめです。


もはやこれまでかとみんな最後の揚げパンを噛み締めていると、うろたえることなく教壇の椅子に座っておられた先生は、つとお立ちになって、「皆さん、できる限りたくさんのオワコンを集めてきてください」と、ぼくらにおっしゃいました。


その目には正義の炎が燃えています。


ぼくはら急いで手分けして、たくさんのオワコンをかき集めてきました。ひとりで持てないオワコンは一旦、“閉じコン”にして運んできてオワコンに戻しました。あまりに急いでいたので、もしかしたらオワコンじゃないのも入っていたかもしれません。


でも怪獣にやられてしまえばそれらも全てオワコンになってしまうので同じことです。


なんとか学校の敷地いっぱいのオワコンが集まり、その山を前に先生はコンセントレーションをなさり始めました。


そして極度にそれが高まったとき、『オワコンの呪文』を唱えたのです。


するとそこにあるオワコンたちがクボタ先生の体にどんどん合体していき、ついには巨大なオワコンロボが爆誕したのです!


これなら太刀打ちできます。みんなの大歓声です。


大怪獣に敢然と戦いを挑む“先生オワコンロボ”。


がんばれー。生徒たちの声援。


大怪獣はオワコンが相手ということで舐めた態度です。


さすがはオワコンと言ったら失礼ですが、空気を読まずに、取っ組み合いなしで、いきなり必殺技を出します。


千古の謎を秘めたオワコンたちに蓄積されていたエネルギーはものすごいもので、


あの有名な『バタフライ効果』(一匹の蝶がブラジルで羽ばたくとアメリカのテキサス州で巨大竜巻が起こりうるというもの)を応用した必殺技で、


オワコン効果攻撃(完全にオワコンだと思っていたものが、完全にオワコンすぎて、なんかが起こるというもの)を出して一撃で大怪獣を倒したのです。


怪獣はしっかりとオワコンカプセルに閉じ込めました。これでもうお茶の間には出てこないでしょう。


給食と学校と街は守られました!


ありがとう、オワコンたち!


ほんとうに正義がオワコンじゃなくて良かったです。


ぼくらを助けてくれたオワコンたちのことをもはやオワコンと呼ぶ者はいないでしょう。


ロボから元の姿に戻った先生にぼくらは駆け寄ります。


いつもの優しい笑顔です。こんな優しい笑顔がオワコンなはずはありません。


「先生、ぼくらは間違っていました」


もしあのままだったらぼくらはいつかオワコンになっていたことでしょう。


先生は、「みんなが気づいてくれて良かった」と何度も頷いてから、「変化のスピードの早い現代において我々人類がこれからどちらへ舵を切ればいいかを知るためにもオワコンの役割は重要なのですよ」と諄々と説いてくださいました。


まったく驚いたのは、それが以前、対話型AIに聞いたものとほぼ同じ内容だったことです。


至言なり。


ますます先生が好きになりました。


最良の師に出会えることは人生の宝です。


ぼくたちわたしたちはこれからもオワコンの力を借りて、輝く未来に向かって力いっぱいはばたきます!


……と、ここまでがうちの学校の恒例のオワコン学校行事です。


オワコンならやめればいいとおっしゃるかもしれませんが、ずっとやめられないのです。


理由はズバリ、卒業がオワコンになってしまったからです。


卒業できなくなったために、ぼくらは学校でオワコンを讃え続けるしかなくなってしまったのです。


いつの日か、対話型AIがオワコンになる頃には、ひょっとしたらいろいろなものを卒業できるかもしれませんし、そうあって欲しいものです。 






           終

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