始まりと終わり
第1話 「度胸と無謀は全く違う」
ルンベルク英雄譚の一節にこのような一文がある。
「人が人と成して人に成される人とは、すなわち超人である」
つまり、人が人のために成して人に感謝されるというのはごく僅かということ。
人が何のために生きるのか。
私には理解しかねる。
「そう思うだろう?人間よ」
高台から一人の少年を見下ろす。
「まぁ、簡単に説明できないというのもまた事実だ」
高台から飛び降り、少年の元へ駆け寄る。
「おい、少年,お前は私が怖いか?」
「恐怖の対象として見てしまうか?」
少年に問う。
けれど、少年は黙ったままだ。
「まぁ、良い。今夜のことはすぐ忘れる,答える必要はない」
「だが、少年,この世にはお前が知らない事実で
その事実を追い求めるのもまた
夜風とともに姿が闇の中へと消えていった。
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ことの始まりは2か月前に遡る。
「近頃の人間には謙虚さというものが欠けるな」
夜風がなびき、肌を冷たい空気が軽く撫でる。
ここは廃工場の
見晴らしがよく、街全体が一望できる場所でもある。
工場が閉鎖したのは60年前と、ごく最近に感じられるが廃工場となってから毎日ここに通っている。
「
だが、それは本当に実在する種族である。
故にこの廃工場から夜の街並みを眺めているこの私もその一人になるだろうか。
昔のことはあまり覚えていない。
ただ、自分が
しばらく涼んでいると、廃工場から数人の声が聞こえてきた。
「ねぇ、もう帰ろうよ?」
「いま来たばっかだろ?もう少し見て回ろうぜ」
肝試しに来たであろう若い男女数人が懐中電灯を片手に廃工場を探索している。
「度胸があるのか無謀なだけなのか.....よくわからんな」
ここ20年ほどの間、夜の廃工場に肝試しにやってくる若者が増えている。
私からすれば別に構わないのだが.....ここは色々あるからな....
放っておくこともできるが、それではこの特等席が奪われるかもしれない。
結局は自分のために動くのだ。
奴らだって自らのことしかお構いなしだろう?
こういう奴らには軽くお灸をすえてやる必要があるのだ。
私は
<真夜中 丑三つの時>
「ここは、さっき見たな...」
「なぁ、あきら!こっち来てみ!」
名前を呼んだ若い男が何やら向かいを指さしている。
指をさす方向にはあるモノが置かれていた。
「お札が貼られてる箱?」
お札が貼られているそれは見るからに箱だった。
1立方メートル程の箱の前側にお札が貼られており、見るからに不気味だ。
廃工場にあることで、恐怖さをより表している。
<<ガタガタ>>
突然、何かが揺れるような音が聞こえた。
音の主はそう、眼の前に置かれている箱からだった。
「おい、冗談だろ?」
「さっきからガタガタ言ってるんだけど、札剥がしてみないか?」
若い男が「あきら」という名の若い男に提案した。
「まぁ、こんなのどうせ子供だましみたいなもんだろ...」
「何も起こりゃしねぇよ」
そう言い放ち、箱に貼られている札に手を伸ばした。
「やめたほうがいいぞ、その札は子供だましでもなんでもない」
「札を剥がした瞬間、お前は地獄に行くことになる」
声が工場内にこだまする。
しかし、声の主は見当たらない。
「ばぁ!」
「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」」
3人の男女は同時に悲鳴を上げた。
「おい!お前ら待てよ!」
こんなとこにいられるか。と一人の若い男を残して二人の男女は一目散に逃げていった。
「どうした?お前の仲間は一目散に帰っていったぞ?」
その容姿にはまだ幼さが残っている。
しかし、その内にはとてつもない不快感が秘められているのを感じる。
「............!」
声を発しようとするが唇が動くだけで音は何も出なかった。
「ここは、私にとっての特等席でな」
「お前たちの無謀さで無くなってしまったらどう責任をとるんだ?」
逃げたい。その一心だが体は硬直しピクリとも動かない。
「体が動かないだろう?」
「此処には元々邪念が溜まりやすい」
「さっきまでお前たちが動けていたのは私が守っていたからだ」
何を言ってるのか理解できないがここが恐ろしい場所とだけ理解できる。
逃げたい....逃げたい.....逃げたい.....逃げたい...
逃げたい.....逃げたい.....!
「ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ぁ!!!!!」
眼の前が急に真っ暗になった。
「はぁ、やはり2分も持たなかったか」
「ここの
<
「ごほっ..ごほっ!」
血....か。
「結界を広くし過ぎたか....それとも...」
血が必要なのか。
本能が血を欲しているのを肌で感じる。
その少女は薄い霧の中へと消えていった。
次話:「まるで
吸血鬼(ヴァンパイア)少女の考察日記(ダイアリー) 黒川宮音 @kurokawa_miyane
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