第14話 開校 ドリーミング・グラス

 制度を整えるだけで数か月かかってしまった。国とのやり取りがどうしても発生してしまうから仕方のないことだ。ようやく一歩と思った時、季節は春になっていた。桜に似た花が満開したその日に、ドリーミング・グラスは冒険者ギルドから一貫校の教育機関に変わる。


「マスター、おはようございます!」


 メイプルが最初にやって来た。いつもの癖が出ている。仕方のないことだ。


「メイプル。今日から俺はマスターじゃなくって、校長だからな」

「あ。そうでした。でも冒険者ギルドの仕事も出来るんですよね?」


 冒険者ギルドとしての実力はある。ロイヌの冒険者ギルドに合併した形だから、派遣するような形だ。彼らも仲間として求めているので、働くことが出来る。


「そうだ」

「じゃあ! 終わったら行こうよ!」


 大きい声の少女。白髪の女の子がいつの間にかいた。髪に虹色の羽根が付いている。フィロムだ。


「はい。行きましょう」

「やった! マスター、またね!」


 二人は冒険者ギルド……いや校舎に入る。何人かは学校に通う年齢ではないが、学ぶ者に年齢は関係ない。冒険者ギルドで仕事をするなら入ってよしと伝えてはいる。


「元気そうだなぁ。ほっほっほ」


 ご老人の声が聞こえたので後ろに向く。ふたつ結びの黒髪で金色の目をしたシンちゃんが頭を下げている。その隣に大柄なお爺さん……ニコラ氏がいる。


「ニコラさん、お元気そうで」

「主も元気そうじゃの。ところで赤ずきんの狩人はどこかね」


 赤ずきんの狩人はユイのことだ。そういえばと今朝の連絡を思い出す。魔獣狩りに行くことになっていたはずだ。


「今日はこちらに来ないですよ。魔獣狩りで休むという連絡が入ってますから」

「そうか。ちと頼みたいことがあったんじゃが……冒険者ギルドに連絡すべきかの?」

「そうですね。そちらの方が良いかと」


 仕事をしながら学生をやるという子もいる。ユイと薬師のリンカとシスターのテレジアが典型的な奴だ。あ。そういえばロヒーニャは。


「あと少しで着くからな!」


 噂をすれば何とやら。褐色肌白髪の狼系少女のロヒーニャが新入りをたくさん引き連れていた。集団登校を思い出す。近所の子をそのままこちらまで連れて来たと言ったところか。合計七人で、六歳から十歳ぐらいが大部分のはずだ。


「なんだよ」

「いや何でもない」


 思わずにやけてしまう。ニコラ氏は隠しているつもりのようだが、バレバレだ。空気でバレる。というかロヒーニャに見破られている。


「じい。私もう行く」

「ああ。いってらっしゃい。楽しんできなさい」


 シンちゃんが中に入ったので、それを見たニコラ氏は微笑んで何処かに行ってしまった。魔法工房に引き籠るのかもしれない。


「なあ。まだこれで全員子供が揃ってるわけじゃないけど……いいのか?」


 ロヒーニャの質問に答えなくてはいけない。育つ子供達のためにも。きちんと。


「それでいい。今はまだ駆け出したばかりだからね。焦るつもりはないよ」


 学校という表現になっているが、やり方は昔の寺子屋に似ている。ひとつの教室にたくさんの生徒が集まって、習熟度で学ぶ内容を変えていく。それで十分だと思う。きっかけを与えることから始めたいし、ゆっくり着実に進めたい。何せまだ芽吹いたばかりなのだから。


「そっか。まあマスターがそう言うのなら。あ。違った。今は校長か。慣れねえな」

「正直俺も慣れていない」


 互いに笑う。建物のドアからレインの顔が出る。


「そろそろ中に入ってくださいっす!」

「ああ。それじゃ。また」


 ロヒーニャと小さい子供達が中に入って行く。メイ。俺が愛した人。いつかはこの名前の通り、夢を羽ばたくことが出来るところにするよ。

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魔法少女ギルド「ドリーミング・グラス」 いちのさつき @satuki1

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