満ちたらぬもの満たしたもの

 これはうなった! 情感という言葉がピタリあてはまる傑作だ。

 なにもかも諦念に落としこまざるをえない主人公の、愚かな大人どもよりはるかに賢い考察がやるせない。しかし、そのやるせなさが彼だけの抱える『夏』をかきたてる。

 『夏』を象徴する記号が様々にでてきはするが、それは解放や娯楽を意味しない。その反対だ。

 ビンの中に息づく彼女だけが、主人公の季節を知っている。

 必読本作。