第29話 プロローグ
「はぁ~、どうしよ……」
僕は今、とても緊張しながら教室の扉の前に立っていた。
なぜ、僕が緊張しているのかと言うと、竜皇国皇都での一件でレフィーナさんへの恋心を自覚して初めて会うのが今日なのだ。
だから、扉を開ける勇気が持てず、どんな顔をしてレフィーナさんに会えばいいのか、分からずにいた。
「よし、頑張ろう!」
小さく自分を奮い立たせて、教室の扉を開け中に入る。
「お、おはよう!レフィーナさん」
「お、おはようございます……ムシキさん」
あれ?何だかレフィーナさんの様子がおかしい?
ソワソワしているし……僕と同じように緊張しているようにも見える。
まさか……!
―――僕がレフィーナさんに恋しているのがバレているのか。
うわぁあああああああ!!何てことだ!!
いつ!どこで!何時何分の時に知ったんだ!!
両親とソール以外に、誰にもこの気持ちは打ち明けていないはずなのに!
「うわぁ~~~~」
僕は頭を両手で押さえて、混乱の舞を踊る。
両思いなのかな~片思いなのかな~。
そもそも……男の子として見てもらえているだろうか。
「やはり―――ムシキさんも私と同じ気持ちなんですね」
「えっ?」
同じ気持ち?
それはつまり―――両想いってこと?
えっ?えっ?えっ?じゃあ、僕とレフィーナさんは恋人になれるってこと……。
やったぁああああ!!レフィーナさんとずっと一緒にいら――――
「――――今日の本契約の解消の儀に、とても緊張しているんですね!」
「ズコ―――!」
「ムシキさん!」
僕は衝撃の事実のあまりに、ズコ―っと両手を上に上げ床に倒れる。
ってことは、レフィーナさんに僕が恋心を向けていることは知らないしそれで緊張していたわけじゃない。
緊張をしていた本当の理由は、本契約の解消の儀だった……。
何か……絶妙に良かったような……良くないような……。
まぁ、自分の言葉で告白をしたかったから、一応良かったのかな?
それに今日って、本契約の解消の儀なんだ。
全く知らなかった。
だけど、僕の不自然な行動は説明できる。本契約の解消の儀で、すごく緊張しているんだ……という風に。
なら、僕は話を合わせよう。
「そ、そんなんだよ~僕もすごく緊張してんだ~」
「そ、そうですよね!」
レフィーナさんが席を立ってグッと顔を寄せてくる。
「~~~~~っ!!」
近い近い……!僕の心臓が爆発しちゃうぅ……!
あぁでも、こんなに近くで見るとレフィーナさんの瞳……綺麗だなぁ。
それに……この匂いも落ち着く……ずっと嗅いでいたい……。
思わず、うっとりとしてしまった。
ずっと……この瞬間が続けばいいのになぁ。
「ムシキさん?」
うっとりとしている僕を、心配そうに見つめるレフィーナさん。
はぁ~物凄く可愛い……。僕のことを心配してくれて嬉しい……。
瞬間、教室の扉が開かれた。
「お前ら、席に着け」
「はっ!」
シルバ先生とアイシャ先生が教室には入って来たので、夢見心地だった僕の意識が現実に引き戻される。
「せ、席に座ろ」
「は、はい……」
僕たちはお互いに顔を真っ赤にしながら席に着き、終始緊張しながら授業を受けた。
◆
そして、放課後になり解消の儀を終えてアイシャ先生と僕たちの三人で教室に残っていた。
そして―――レフィーナさんとの再契約の儀が始まろうとしていた。
「では……ムシキ君のために、もう一度契約の手順を説明しますね」
「すみません……」
アイシャ先生がジト目で見て来たので素直に謝る。
そんな僕を見て、「あはは…」とレフィーナさんが苦笑いをする。
僕だって…間違いたくて間違ったわけじゃないのに……もう。
心の中でそう言い訳をしていると、アイシャ先生が目を
「まずは、向かい合って立ちます」
「向かい合う……」
「な、何だかすごく既視感があるのですが……!」
僕は慌てるレフィーナさんの肩を掴み向かい合わせる。
「次に、両手を重ねます」
「両手を重ねる……」
「あ、あの……む、ムシキさん……」
僕は泣きそうな顔をしているレフィーナさんの手と重ねた。
「最後は、おでこを重ねます」
「おでこを重ねる……」
「む、ムシキさん!それ以上は―――」
その瞬間―――僕たちの足元に、魔法陣が現れ、教室が光に包まれる。
すると、目を
「ま、まさか……!」
「はい!本契約の儀式をしました!」
「えぇえええ!!わざとだったんですか!!」
目を見開くレフィーナさんに「うん」と、首を縦に振り肯定する。
「な、なぜそのようなことを………」
アイシャ先生が口をパクパクさせて、信じられないような顔をする。
……お魚さんみたいで可愛い。
僕は面白いアイシャ先生の目を真っ直ぐに見る。
「僕はレフィーナさんとずっと一緒にいたい!」
「ふぇっ!?」
「一緒に竜騎士になりたい!」
「ふぇえっ!?」
「――――だから、その誓いを込めてレフィーナと本契約をしました」
「ムシキさん……」
僕は―――レフィーナが好きだ。
レフィーナ以外だなんて……考えられないくらい好きだ。
ずっと傍にいて欲しい。
ずっと笑顔でいて欲しい。
ずっと元気でいて欲しい。
……悲しんで欲しくない。
そう決意の言葉をアイシャ先生に告げる。
すると、アイシャ先生がバタンッと白目をむきながら倒れた。
「アイシャ先生!アイシャ先生ぇえええええ!!」
「と、とりあえず!医務室に運びましょう!」
僕はアイシャ先生を背負い、レフィーナは教室の扉を開けて共に向かう。
「ふふ……」
僕はレフィーナに気づかれないような小さく笑った。
……告白じみたことを言ってしまったけど、アイシャ先生には助かったな。
まだ、レフィーナを助けられていない僕が告白するだなんて間違っている。
――――ちゃんと『好き』と告げるのはレフィーナを助けた後だ。
だから、ありがとうアイシャ先生。
卑怯な自分にならずに済んだよ。
そうして、医務室へと辿り着いた。
◆
~sideカレン~
私は学園の中庭にあるベンチで俯いて座っていた。
ムシキは今頃、解消と再契約の儀でもしているのだろう。
そして、レフィーナと本契約をするはず……。
ムシキは、レフィーナのことを助けたいらしいから。
「はぁ……私はどうしたいんだろう………」
俯いて顔を上げ、夕焼け空に向かって呟く。
ムシキはレフィーナのために実力を隠すのをやめて、前に進もうとしている。
一方、私はどうだろう?
ムシキのように、前に進めているか?
……進めていない。
私はムシキの役に立つことで存在していると言っても過言ではない。
それだけ、ムシキのことを思っている。
思っているのに………!
―――ガンッ!
ベンチを拳で叩き歯噛みする。
どうして―――レフィーナのことが好きなの……?
どうして、私を好きになってくれないの……?
ムシキにとって私はただの幼馴染………?
心の中が嫉妬で埋め尽くされる。
瞬間、トン…トン…足音が聞こえた。
「誰っ!?」
「ふふ……」
ベンチから立ち上がり、足音のする方向を振り向くと、木陰に隠れた姿から徐々に露わになった。
「あなた!どうしてここに……!」
「カレンさんに話したいことがありまして……よろしいですか?」
私の前に現れたのは――――パートナーのクレアだった。
クレアはベンチに座り、立ったままでいる私に「座ってください」と促した。
その態度に、腹が立つが優先すべきはクレアの話だと思い素直に座った。
「実は――――」
クレアが自分の計画を淡々と話した。
その内容は……あまりにも狂っていた。
だけど―――
「……わかった。私もその計画に協力するわ」
「ありがとうございます……カレンさん」
クレアが不気味な笑みを浮かべる。
でも、この計画が遂行されれば……また私はムシキと一緒にいられる。
必要としてもらえる。
――――だから、私は迷わない。前に進むと決めた。
必ずこの計画を成就させる。
「私は…ムシキの動向を監視していればいいのね……」
「はい、その報告を―――」
クレアが通信用魔道具を見せる。
「こちらでお願いします」
「えぇ………」
私は、通信用魔道具を手に取る。
待っててムシキ……私があなたを助けてみせるから……。
そうして―――私は生きる意味を再び得た。
すると、目の焦点が合っていないクレアがこう呟いた。
「――――後は動くだけ……ひひっ」
その表情は……とても悍ましかった。
だけれど、クレアと協力すればムシキが私の元へ帰ってくると確信した。
「――――全てはムシキのために」
竜騎士学園の【自称】落ちこぼれと【ガチ】落ちこぼれ~落ちこぼれと呼ばれている少女を、見て見ぬふりするなんて出来ません!!上辺だけで判断する価値観なんて、ぶち壊してやりますよ~ 大豆あずき。 @4771098_1342
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