第5章 エピローグ

第141話 そして幸せの日々が始まる

 アストリア王国にも冬を告げる木枯らしの季節が訪れた頃、俺たちは全員で新築されたグロスフォードの城へ行った。

 ノワールとミミが冬休みに入ったのを機会に。


 あれからグロスフォードは変わった。


 ボロボロだった孤児院は建て直され、広く快適な空間と清潔なベッドに改められた。食事も美味しく栄養価の高いものになったのだ。

 もう子供たちも、隙間風に悩まされたり、ひもじい思いをしなくても済む。


 麻薬を密売していた組織は完全に壊滅させ、代わりに新しい産業が始まった。


 今日は、その産業の視察も兼ねているのだ。

 俺は城の執務室で打ち合わせをしている。


「アキ様、農地の改革と産業の振興は、ご命令通りに進めております。こちらをどうそ」


 グロスフォード辺境伯専任補佐官のリズが、俺の前に書類を置いた。

 そこには、【米と大豆の農地拡大】と【異世界の調味料、味噌と醤油の販売】と書かれている。


「かなり進んでいますね。これなら来年から収穫が期待できそうだ」

「味噌と醤油の生産も開始しております」

「うん、先ずはグロスフォードに、そして全国に販売だ」


 俺はグロスフォードの財政を立て直す政策として、味噌と醤油の生産販売を決めた。

 この世界では調味料は貴重だ。良い物となれば貴族間で奪い合いのように高値が付く。


 俺の料理は帝国出身のマチルダにも大好評なので、きっと帝国貴族からも多くの注文が来るだろう。


 前領主がやった奴隷売買や麻薬密売のような犯罪ではなく、まともな産業を根付かせたい。今後も継続的に領地の収入となる為に。


 そういえば、俺のスキル【専業主夫】の中に最初から存在する未知の調味料、味噌と醤油。この世界に存在しなかったのだから、異世界の調味料なのかもしれない。


(異世界……何だろう、何か重要なことを忘れているような? 俺が元居た世界とか? ははっ、そんな荒唐無稽な話なんて誰も信じないか)


 ふと考えてしまう。実は俺が異世界から転生したのではないかと。


「ふふっ、そんな訳はないか」

「どうかされましたか、アキ様?」

「いや、何でもない」


 俺はかぶりを振り、視線を書類に戻す。


「リズ、この事業はグロスフォードの財政を担う要になるはずです。お願いします」

「承知いたしました、アキ様。必ずや成功させてみせます」


 リズが恭しく頭を下げる。まだ自分が貴族になった実感がないので何だかくすぐったい。



 仕事が一段落したところで、待ち構えていたかのようにレイティアが入ってきた。


「アキ君、仕事は終わったかい?」

「ああ、今終わったとこだよ」


 あれからレイティアは、格段に女らしさを増した。今では一人称の『私』が似合うくらいに。


「アキ君っ♡ 私、すっと待ってたんだからね♡」

「うっ、レイティア……今日も凄く綺麗だな」

「は、恥ずかしいよ♡ もうっ♡」

「前は男の子みたいにがさつだったのに」

「ケンカ売ってるのかな? アキ君」


 レイティアがプク顔になって怒った。

 めっきり色っぽくなった彼女だが、こういうところは変わっていない。


「違う違う。レイティアが色っぽくなったって話だよ」

「ふふっ♡ 誰のせいなのかなぁ?」

「お、おい、そういうのを言うなよ」

「毎晩愛されちゃってるからかなぁ♡」

「だから言うなって」


 ふざけ合いながら二人の顔が近くなったところで、この部屋にいるもう一人の女性が咳払いをした。


「コホンッ! アキ様、レイティア様、人前では控えてください」


 カァァァァァァ――


 完全に二人の世界に入っていた俺たちは赤面する。特に色々ぶっちゃけていたレイティアは真っ赤だ。


「はうっ、リズさん、今のは聞かなかったことに」

「いえ、レイティア様のお声が大きいので毎晩聞こえています」

「はぁあああぁうぅううっ!」

「冗談です」


 冗談なのか本当なのか知らないが、リズが恥ずかしい秘密を暴露してしまい、レイティアが羞恥で壊れ気味だ。

 真面目で堅物なようでいて、意外とリズは冗談が好きなのだろうか。


「ま、まったく……人の気も知らないで。私が三十代独身男日照りでストレスが溜まっているというのに、うちのご主人様ときたら毎晩エッチなことを……ぶつぶつ」


 リズが怖い顔で独り言をつぶやいている。


「あの……リズ?」

「何でもありません、アキ様」

「でも……」

「少しだけ声を抑えてもらえると助かります」

「で、ですよね」

「私にも……して頂けるのでしたら……」

「何か言いましたか?」

「何でもありません!」


 リズが俺を睨んでいる。ちょっと怖い。


「そ、そうなんだ。じゃあ、引き続きお願いします」

「かしこまりました」


 リズは何事も無かったかのように仕事に戻った。


 彼女は優秀な補佐官なので、これからも仕事を頑張って欲しい。リズの前ではイチャイチャは控えようと俺は思った。


 ◆ ◇ ◆




 グロスフォード郊外にある墓地に来ている。レイティアと一緒に。


 小さな墓の前でレイティアが止まった。ここが彼女の母親の墓なのだろう。

 墓前には、誰かが供えたであろう花があった。


「ここがレイティアのお母さんが眠る場所なのか?」


 俺が声をかけると、レイティアは静かに頷いた。


「うん、前は荒れ放題だったけど、今は誰かが手入れをしてくれてるみたい」

「グランサーガ男爵家の名誉が回復されたからなのかな?」

「うん、きっとそうだね」


 俺を見つめるレイティアの瞳がキラキラしている。


「アキ君のおかげだよ。本当にありがとう」

「俺は何もしてないさ。皆で解決したんだろ」

「ふふっ、アキ君は変わらないね」


 満面の笑みを俺にくれたレイティアが、再び墓石の方を向く。


「ママ、私は見つけたよ。本当に優しい人を。私を大切に想ってくれる人を。私はアキ君と一緒に、ずっとずっと一緒に暮らしていくよ。だから安心して、ママ」


 レイティアが手を合わせる。

 俺も一緒に手を合わせて祈った。



 立ち上がった俺たちは、目と目と合わせて手をつなぐ。


「行こっか、アキ君」

「うん」


 レイティアの方が俺に寄り掛かる。


「おい、レイティア。ママの前でエッチなのはダメだぞ」

「し、しないよぉ! アキ君のばかぁ!」

「てっきりするのかと」

「するわけないでしょ! てか、お姉ちゃんだぞ」

「やっぱりお姉ちゃんなのか」


 二人でいつものイチャイチャ感を出しながら城に戻った。皆の待つ城へ。


 ◆ ◇ ◆




 年の瀬も押し迫り寒い日々が続くが、俺の周りは騒がしかったり温かかったりする。相変わらず嫁は欲求不満が激しいのだが。

 追放された時には、まさかこんな大所帯になるなんて思いもしなかった。


「今年はグロスフォードの城で年越しかな」


 暖炉の火を眺めながらつぶやいた。


 今日は、いつも甘えてくる嫁や、抱っこをせがむミミやノワールが居ない。


「そういえば、皆は何処に行ったんだろ? 普段は騒がしいと思ってても、居なくなると寂しいな」


 今日は俺の誕生日だったのを思い出した。


「19歳になったのか。そろそろ結婚も考えないとならないのだろうか……。じゅ、重婚になりそうだけど……」


 各方面からおしかりを受けそうだが、全員大切なのだから仕方がない。


「レイティア、アリア、シーラと結婚するのは当然として、他の子はどうすれば良いんだ? もしかして子供ができたら? 魔王や竜王にまで子供ができたら、最強親子パーティーが結成されそうだな」


 想像しただけで恐ろしいような凄いような。


 今後のことを想像していると、突然ドアが開き皆が入ってきた。


 パンパカパーン!


「ハッピーバースデーアキくぅん♪」


 ちょっぴり下手な歌に乗せて、大きなケーキの乗ったカートを押したレイティアが入ってきた。それに合わせて皆が手拍子をしている。


「えっ! ええっ! それって俺の?」


 驚いていると、皆は俺の周りに集まってきた。


「俺が誕生日だって言ったっけ?」

「ギルドのエイミィちゃんに聞いたのよ。登録時の情報を」


 アリアが胸を突き出しながら言う。


「水くさいぞアキ君、言ってくれればお祝いするんだからね」

「そうよアキ! まっ、アタシはどっちでも良いんだけどね」


 レイティアとシーラも祝ってくれるようだ。シーラはツンデレっぽいことを言っているが。


「ケーキを作ろうって言いだしたのはシーラお姉ちゃんなの。いつも料理を作ってくれるから、アタシたちでケーキを作りましょって」

「ちょっとミミ、それ言っちゃダメだしぃ!」


 ミミに暴露されてシーラが耳まで赤くしているのだが。


「ありがとう。皆ありがとう」


 嬉しくて泣きそうになっていると、アルテナが一冊の薄い本を手渡してきた。


「あ、あの、アキしゃん……これ」

「これは?」

「バースデープレゼントです」

「ありがとう。アルテナが描いたのか」

「ふひひっ、アキしゃん、調教の記録でしゅ」


 表紙には『勇者アキ、女王姉たちからの調教全記録』と書かれている。数ページめくると、そこにはドスケベなプレイの数々が描かれていた。


「お、おい、まさか、覗いてたのか?」

「フヒッ、き、企業秘密でしゅ」

「こらぁああああ!」


 プレゼントは嬉しいが本の内容は上級者向けだった。


「わらわへのプレゼントは子種で許してやるぞよ」

「我も子種を所望いたすぞ」


 プレゼントは俺が貰うはずなのに、クロとシロは自分が貰おうとしている。というか、子種はヤバい。


「くっ、私も激しく力強い寝伽で屈服されたいのだが」

「私もアキに屈服されたく思いますわ……って、い、今のは気の迷いですわ!」


 ジールだけならスルーしようと思ったが、マチルダまで問題発言している。


「アキ様、そろそろ私にも寵愛をくださいませ」

「お兄ちゃん、ミミもミミも」


 ノワールがおませさんなので、ミミまで真似をしている。


「これは教育に悪いぜ」


 おれのつぶやきに、そこに居る全員が一斉に反応した。


「「「教育に悪いのは――」」」

「アキ君だぞ!」

「アキちゃんよ♡」

「アキだしぃ!」

「貴様だ!」

「アキ様です!」

「そなたじゃ!」

「アキである!」

「ドスケベアキよ!」

「アキしゃんです」

「お兄ちゃんなの」


 全員の声がシンクロした。


「ふうっ、女心は難しいぜ」



 いつもの賑やかさで自然と笑いが起きた。


 追放され行き場もなく彷徨っていた頃には想像もできない生活。いつの間にか、俺の周りにはたくさんの仲間が集まっていた。

 ハズレスキルだったはずの俺が、お姉さんたちに拾われて覚醒した奇跡。


 この後も、ちょっと強引なお姉さんたちから、マッサージやお仕置きと称してイチャイチャ溺愛されてしまうのだ。


 俺は、感慨深く出会いの奇跡に感謝しながら、ハードな夜に体を震わせるのだった。






 ――――――――――――――――


 皆様、最後まで読んでくださり誠にありがとうございます。

 これで物語は最終回になります。

 最初ハズレスキルだと思っていたアキが、まさかの世界を震撼させる存在に。(エッチ勇者のイメージもありますが)


 また次回作で会いましょう。


 もしよろしかったら、作品フォローと☆☆☆の部分に評価を入れていただけると幸いです。

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溺愛系お姉ちゃんヒロインは寝かせてくれない! ハズレスキルでS級パーティーを追放された俺、美少女に拾われたらスキル覚醒しました。加護爆盛りで無双しながら甘々で幸せに暮らします。 みなもと十華@『姉喰い勇者』発売中 @minamoto_toka

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